自殺怪談

2024年02月27日 | 日記

自殺怪談


自殺という言葉を 規制しても
自殺は 無くなりはしない「」

自殺という言葉を 無くしたところで
自殺は 無くなりはしない

新聞やテレビやネットから 
自殺という言葉を 消し去っても
自殺は 無くなりはしない

自殺という言葉を 殺したら
自殺者は うらみの幽霊となって
都市の怪談の間を さまよい
増幅し 変容し
さらに生きている者を 呪う

亡くなった者を
生きている者の都合で
殺してはならない

生きている者は
彼らの死にざまを
受け入れるのだ

それが 彼らへの
供養なのだ

 


父母のまなざし

2024年02月25日 | 日記

父母のまなざし


病室の窓から見える朝空
ぽっかりと 一つだけ
色の違う雲が 浮かんでいる

まるで 自分と対峙するように
こちらを のぞき込んでいる

私が それに気付くと
その雲は 逃れるように 東の方へ
紅みを増しながら
やがてそれも薄くなり 消えてしまった

追っていた目を戻すと
自分の正面に ふたたび同じ雲が
姿を顕し始めている

昨夜 遅れた手術を終えて
今朝は 追い出されるように
退院する


うずくまっていた自分

2024年02月23日 | 日記

うずくまっていた自分


『素敵な十六歳』を 私は十三の歳に聞いた
『悲しき六十歳』を聞いたのも おなじ歳だった

今私は 母の子守歌を聞いた歳を思う
いつの間にか自分は
母が死んだ年齢より 十年も多く歳老いた

記憶の中で
今の自分の歳より若い母が 
病院のベッドに 横たわっている

あれから自分は 老いただろうか
肉体は 老いて衰えて 
そして病んでいる
けれど私の心は 老いただろうか

母が死んでから
私は もう老わなくなった
親の歳を 追いかけることを
やめてしまった

私の心は ますます幼くなっていく
目を閉じると 私の記憶は
幼児の頃に 戻っていく

昨日のことより 若い頃のことより
子供の頃のことより 
幼児の頃のことが 記憶によみがえる

裏庭のイチジクの葉をすかし
座敷の畳の上に差していた陽のひかり
黄金の日だまりが 
這いずる私の小さな指の先に
まぶしくゆれていた
人声は聞こえない
憶えているのは スズメの鳴き声と
母の気配だけだ

あぁ それはたぶん
弟が生まれてくるまでの 三年間の記憶なのだ
あぁ そうだったのだ
弟が生まれてきてから
私は 私でなくなってしまっていたのだ

覆いの布のかかった鏡台
右がわの引き出しにあった白粉の匂い
シンガーの足踏みミシン
鋳物のペダルとミシン車を繋いでいた
茶色のゴムのベルト

あの三年間が 私が私であった一生だったのだ
弟が生まれて 私は 私を捨てたのだ
私は 私に捨てられたのだ

捨てられた私が 私の中で
すっとうずくまっていたのだ

母は 子守歌を歌ってくれただろうか
私の中にすり込まれている子守歌は
やはり 母が歌ってくれたものだろうか

私だけのものだった
母の気配が恋しい
うづくまっていた自分が 泣いている

 


シュレディンガーのねこ

2024年02月22日 | 日記

シュレディンガーのねこ


その家に生まれ その家に育ち大きくなったとしても
ねこには 飼い主の知らない秘密があるものだ

ねこたちには お勤めがあるらしい
時々 残業や徹夜もあるらしい

冷え込む朝 どこからか帰ってくると
ぐっすりを いびきをかいて 眠っている

ねこたちは 何人もの飼い主を
掛け持ちしている

夜の塀を 乗り越えて
ねこたちは 平行宇宙を
ひょいひょいと 
行き来しているらしい

鼻の頭を 撫でながら
布団の上のシュレディンガーのねこの実在を
確かめる 


芋のうた

2024年02月21日 | 日記

芋のうた


蒸し芋の 病みせし部位の 愛おしき
除きて食める 我もまた持つ

蒸し芋の 固きところ 黒きところ
我が身のうちにも 在るらし

病める芋の まだ喰えるところ
惜し見て食める 拝みて食める