An Oscar Peterson Christmas
地方出身者が仕事のために地元を離れ、都会へ出て働くようになると、なかなか地元に戻る機会も無くなる。たまの休みに地元に戻った時に、昔の仲間と旧交を温めるのが唯一の機会だろう。まして、母国を離れ外国へとなると。
カナダ出身のオスカーピータソン。10代から地元でプロとして活動を始めたが、その時のスタイルはクラッシックピアノの練習に裏打ちされたブギウギスタイルだったという。まだビバップの洗礼は受けていなかった。
JATPの主催者であるノーマングランツに見いだされたのは1949年、24歳の時であった。そこから母国を離れ活動の場はアメリカとなった。すぐにジャズ界を代表するピアニストの一人となると、活動の場は世界中となってツアーが続く毎日となった。
JATP時代からの盟友レイブラウンは、ピーターソンの元を離れるとロスに居を定めてプレーだけでなく、プロデュース業やスタジオワークと幅広く活動するようになった。それに対して、ピーターソンは生涯プレーヤーとしてステージやレコーディングを続けた。
クリスマスアルバムを作る有名ミュージシャンは多いが、このピーターソンも1995年にこのアルバムを作った。ちょうど70歳になった時で晩年のアルバムである。1993年に脳梗塞で倒れ歩くこともできなくなり、プレーヤー生命が危うかった時から復帰直後の録音といった方がいいかもしれない。
まだ後遺症が残って左手が不自由であったので、往年のダイナミックで縦横無尽に鍵盤の上を指が踊るような演奏は期待できない。
ということもあってか、ピーターソンのピアノを大フィーチャーするのではなくフロントラインはヴァイブやフリューゲルホーン、左手代わりにはギターを加えて周りを固めている。さらにストリングスを加えてバックに厚みを出して左手をカバーしている。クリスマスソングというのはアップテンポな曲よりもスローな曲が多い。ピーターソンのリハビリにも最適であったのかもしれない。
と思うと、一曲目はいきなりアップテンポの曲から始まる。右手だけであってもピーターソンスタイルは健在だった。次はスローな曲だが、ピーターソンのスローな曲でのリリカルなプレーは昔から得意であった。結果的に元気な時は派手すぎるピアノも、このようなクリスマスアルバムにはバックと溶け合って丁度いい匙加減かもしれない。
そして、このアルバムのもう一つの特徴はバックのメンバーに母国カナダのミュージシャンを起用し、録音もカナダで行われている点だ。メンバーは昔一緒にプレーしていた仲間達かどうかは分からない。が、ピーターソンにとっても一歩ずつの復帰のステップを歩んでいる中で、生まれ故郷のミュージシャンが一緒に付き合ってくれたのはリハビリにも大きな支えになったであろう。
このアルバムを作ったのはTelarkレーベル。デジタル時代の到来と共に、デジタル録音を売りにして登場したレーベルだが、クラシックだけでなく一時ジャズにも力を入れた。
このピーターソンだけでなく、昔の仲間であるレイブラウンを始めとしてベテランミュージシャン達のアルバムを数多く作った。ちょうどコンコルドレーベルがカールジェファーソンの元にベテランミュージシャンが集い、そこに若手が参加したのと同じような図式で。ベテラン達に若手が加わったアルバムも多い。
このテラークレーベルは、2005年にコンコルドミュージックグループに売却され事業が縮小された。テラークの良さを作って来たプロデューサーやエンジニアはその時レーベルを去った。
最近、東芝が伝統ある白物家電、パソコン、テレビなどの事業を分離、売却するニュースが流れた。何故、不正会計をしなければならなかったのか、伝統ある事業を切り離さなければならないのか、反対にお荷物の原子力事業を背負込まなければならなくなったのか、その原因のひとつが利益至上主義の今の企業会計制度にあるのは明確だ。昔のように確実な内部留保の元に健全な赤字部門を持つことが企業文化を守り、商品開発を続けるには必要だと思うのだが。
テラークレーベルを買収したのが、カールジェファーソンが育てたコンコルドであったのも皮肉だ。コンコルドもジェファーソンが亡くなった後には、テレビプロデューサーであったノーマンレアの手に渡り、ファンタジーレーベルを買収してからはメジャーレーベルになってしまった。同じように、ここでも利益優先のアルバム作りをしなければならないのであろう。傘下にConcord Jazz、Telarkのレーベルは残るが、そこには創設者であるカールジェファーソンやジャックレナーの想いが引き継がれているとは思えない。
ピーターソンのリハビリを兼ね、昔の仲間とのセッションの機会を作り、決して大儲けをしようと思って作ったとは思わないこのアルバムが、結果的にロングセラーとなってコンコルドのカタログに今でも残っているのも皮肉なものだ。
1. God Rest Ye Merry Gentlemen Traditional 3:24
2. What Child Is This? William Chatterton Dix / Traditional 4:47
3. Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow! Sammy Cahn / Jule Styne 3:39
4. White Christmas Irving Berlin 3:48
5. Jingle Bells James Pierpont 3:12
6. I'll Be Home for Christmas Kim Gannon / Walter Kent / Buck Ram 2:46
7. Santa Claus Is Coming to Town J. Fred Coots / Haven Gillespie 3:28
8. O Little Town of Bethlehe Phillip Brooks / Lewis Redner 3:16
9. The Christmas Waltz Sammy Cahn / Jule Styne 6:50
10. Have Yourself a Merry Little Christmas Ralph Blane / Hugh Martin 3:55
11. Silent Night Franz Gruber / Joseph Mohr 3:07
12. Winter Wonderland F. Bernard / R. Blane / H. Martin / D. Smith 4:06
13. Away in a Manger James R. Murray / Traditional 3:33
14. O Christmas Tree Traditional 2:19
Oscar Peterson (p)
David Young (b)
Jerry Fuller (ds)
Dave Samuels (vib)
Lorne Lofsky (g)
Jack Schantz (flh)
& Strings Orchestra conducted by Rick Wilkins
Produced by Elaine Martone & Robert Woods
Engineer ; Jack Renner
Recorded at Manta / Eastern Studio A, Tronto, Canada
On January 15-16, May 23-24, June23 and July 30, 1995
地方出身者が仕事のために地元を離れ、都会へ出て働くようになると、なかなか地元に戻る機会も無くなる。たまの休みに地元に戻った時に、昔の仲間と旧交を温めるのが唯一の機会だろう。まして、母国を離れ外国へとなると。
カナダ出身のオスカーピータソン。10代から地元でプロとして活動を始めたが、その時のスタイルはクラッシックピアノの練習に裏打ちされたブギウギスタイルだったという。まだビバップの洗礼は受けていなかった。
JATPの主催者であるノーマングランツに見いだされたのは1949年、24歳の時であった。そこから母国を離れ活動の場はアメリカとなった。すぐにジャズ界を代表するピアニストの一人となると、活動の場は世界中となってツアーが続く毎日となった。
JATP時代からの盟友レイブラウンは、ピーターソンの元を離れるとロスに居を定めてプレーだけでなく、プロデュース業やスタジオワークと幅広く活動するようになった。それに対して、ピーターソンは生涯プレーヤーとしてステージやレコーディングを続けた。
クリスマスアルバムを作る有名ミュージシャンは多いが、このピーターソンも1995年にこのアルバムを作った。ちょうど70歳になった時で晩年のアルバムである。1993年に脳梗塞で倒れ歩くこともできなくなり、プレーヤー生命が危うかった時から復帰直後の録音といった方がいいかもしれない。
まだ後遺症が残って左手が不自由であったので、往年のダイナミックで縦横無尽に鍵盤の上を指が踊るような演奏は期待できない。
ということもあってか、ピーターソンのピアノを大フィーチャーするのではなくフロントラインはヴァイブやフリューゲルホーン、左手代わりにはギターを加えて周りを固めている。さらにストリングスを加えてバックに厚みを出して左手をカバーしている。クリスマスソングというのはアップテンポな曲よりもスローな曲が多い。ピーターソンのリハビリにも最適であったのかもしれない。
と思うと、一曲目はいきなりアップテンポの曲から始まる。右手だけであってもピーターソンスタイルは健在だった。次はスローな曲だが、ピーターソンのスローな曲でのリリカルなプレーは昔から得意であった。結果的に元気な時は派手すぎるピアノも、このようなクリスマスアルバムにはバックと溶け合って丁度いい匙加減かもしれない。
そして、このアルバムのもう一つの特徴はバックのメンバーに母国カナダのミュージシャンを起用し、録音もカナダで行われている点だ。メンバーは昔一緒にプレーしていた仲間達かどうかは分からない。が、ピーターソンにとっても一歩ずつの復帰のステップを歩んでいる中で、生まれ故郷のミュージシャンが一緒に付き合ってくれたのはリハビリにも大きな支えになったであろう。
このアルバムを作ったのはTelarkレーベル。デジタル時代の到来と共に、デジタル録音を売りにして登場したレーベルだが、クラシックだけでなく一時ジャズにも力を入れた。
このピーターソンだけでなく、昔の仲間であるレイブラウンを始めとしてベテランミュージシャン達のアルバムを数多く作った。ちょうどコンコルドレーベルがカールジェファーソンの元にベテランミュージシャンが集い、そこに若手が参加したのと同じような図式で。ベテラン達に若手が加わったアルバムも多い。
このテラークレーベルは、2005年にコンコルドミュージックグループに売却され事業が縮小された。テラークの良さを作って来たプロデューサーやエンジニアはその時レーベルを去った。
最近、東芝が伝統ある白物家電、パソコン、テレビなどの事業を分離、売却するニュースが流れた。何故、不正会計をしなければならなかったのか、伝統ある事業を切り離さなければならないのか、反対にお荷物の原子力事業を背負込まなければならなくなったのか、その原因のひとつが利益至上主義の今の企業会計制度にあるのは明確だ。昔のように確実な内部留保の元に健全な赤字部門を持つことが企業文化を守り、商品開発を続けるには必要だと思うのだが。
テラークレーベルを買収したのが、カールジェファーソンが育てたコンコルドであったのも皮肉だ。コンコルドもジェファーソンが亡くなった後には、テレビプロデューサーであったノーマンレアの手に渡り、ファンタジーレーベルを買収してからはメジャーレーベルになってしまった。同じように、ここでも利益優先のアルバム作りをしなければならないのであろう。傘下にConcord Jazz、Telarkのレーベルは残るが、そこには創設者であるカールジェファーソンやジャックレナーの想いが引き継がれているとは思えない。
ピーターソンのリハビリを兼ね、昔の仲間とのセッションの機会を作り、決して大儲けをしようと思って作ったとは思わないこのアルバムが、結果的にロングセラーとなってコンコルドのカタログに今でも残っているのも皮肉なものだ。
1. God Rest Ye Merry Gentlemen Traditional 3:24
2. What Child Is This? William Chatterton Dix / Traditional 4:47
3. Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow! Sammy Cahn / Jule Styne 3:39
4. White Christmas Irving Berlin 3:48
5. Jingle Bells James Pierpont 3:12
6. I'll Be Home for Christmas Kim Gannon / Walter Kent / Buck Ram 2:46
7. Santa Claus Is Coming to Town J. Fred Coots / Haven Gillespie 3:28
8. O Little Town of Bethlehe Phillip Brooks / Lewis Redner 3:16
9. The Christmas Waltz Sammy Cahn / Jule Styne 6:50
10. Have Yourself a Merry Little Christmas Ralph Blane / Hugh Martin 3:55
11. Silent Night Franz Gruber / Joseph Mohr 3:07
12. Winter Wonderland F. Bernard / R. Blane / H. Martin / D. Smith 4:06
13. Away in a Manger James R. Murray / Traditional 3:33
14. O Christmas Tree Traditional 2:19
Oscar Peterson (p)
David Young (b)
Jerry Fuller (ds)
Dave Samuels (vib)
Lorne Lofsky (g)
Jack Schantz (flh)
& Strings Orchestra conducted by Rick Wilkins
Produced by Elaine Martone & Robert Woods
Engineer ; Jack Renner
Recorded at Manta / Eastern Studio A, Tronto, Canada
On January 15-16, May 23-24, June23 and July 30, 1995
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