日本の環境アセスはなぜ後退したのか
Why has Japan's environmental assessment regressed?
日本の環境アセスメント研究の第一人者である原科幸彦(はらしな さちひこ)千葉商科大学長の2001年の論文は環境アセスの将来に期待を込めたものだったようですが、それから20数年、風力発電事業の環境アセスを見ればわかるように、事前調査、影響評価、影響軽減策など、どれを見ても不十分すぎるものばかりで、事業ありきの環境アセスにはあきれています。論文執筆者の原科氏の心中はいかに?
◆「お手本のような環境アセスもあった」
原科氏の論文タイトルは「日本の環境アセスメントの新局面」。当時は産業界などの反発で遅れていた環境アセスの法制化がかない、環境影響評価法が1999年に全面施行された直後のタイミングだった。
原科氏は当時を振り返り「藤前干潟の埋め立て計画撤回や愛知万博の会場変更(いずれも愛知県)など市民団体の意見を受け入れて計画が変更されたお手本のような例も起きた。これから良くなっていく期待感があった」と振り返る。
◆結論ありきの「アワセメント」Environmental Assessment for Business Priority
原科氏は21世紀の日本のアセスについて「特に巨大な事業では、住民が意見を出しても、形だけ聞いて、きちんと答えない結論ありきの『アワセメント』が目立つようになってきた」と指摘。決まった方針にアセスの方を「合わせる」と皮肉った造語だ。具体例として、沖縄の辺野古新基地建設や、リニア中央新幹線、東京の明治神宮外苑地区の再開発などを挙げた。
法制化はかなったもののアセスの仕組みも国際標準からは遅れているという。国内では基本的にどのような事業を行うか決まった後に実施する。このため事業の必要性そのものを問うたり、抜本的な軌道修正を図ることが難しくなる。仕組みからして『アワセメント』を招きやすい状況にある。一方、国際的には、より早い時期に事業の内容を検討する計画段階で行うことが定着している。その方がより柔軟に住民意見に対応できる。
◆開発志向が強い知事や市長などにとってアセスは障害
Environmental assessment is an obstacle for mayors and others who prioritize development
なぜ国内事業では期待外れの結果が目立つのか。原科氏は「自治体の場合は首長の姿勢が大きい」という。たとえば東京都は青島幸男都知事時代(1995~99年)には「計画段階での導入に前向きだった」が、石原慎太郎氏(1999~2012年)になると後退したという。石原氏は開発志向が強く、都市再生の名の下に土地の高度利用開発に乗り出していた。開発をしたい側からすれば、アセスは障害になりかねず、原科氏は「政治姿勢が影響したのではないか」とみる。(響灘洋上風力発電を誘致した北九州市が事業者に厳しく言わないのも同様)
情報公開、説明責任、透明性。アセスをめぐるキーワードは民主主義に必要な要素ばかりだ。原科氏は「アセスが機能していないということは民主主義も停滞している」とずばり指摘する。
抜粋引用:2025年1月5日 東京新聞オンライン版
【ブログ作成者から】
私は福岡県北九州市内の風力発電問題に携わって10年を過ぎましたが、当初は環境アセス制度に感心したものです。時間と費用をかけて事前調査し、風車の回転範囲を飛ぶ野鳥を特定し、影響評価し、さらに風車建設後には、評価が正しかったのかを確認する事後調査も行う制度にです。しかし、その後、事業者にとっては義務である環境アセスがお荷物になってきたようで、手を抜けるところはできるだけ手を抜いて(過去のデータを利用したりコピペをする)、とにかく野鳥への影響は小さいと言い通す、というずる賢さが見えてきました。そして、パブリックコメントは軽視し(一応聴くだけ)、さらに環境審査会のおえらい先生方の意見や注文でさえ、「検討します」「貴重なご意見ありがとうございました」で、市民と識者の意見を聴くだけで終わりです。北九州市の風力発電事業の環境アセス審査会を傍聴して、毎回のようにこの発言をする事業者には本当に呆れました。市長や県知事に至っては、「影響が低減できるように方策を講じること」のお決まりのコメントしか言いません。事業者が「出来得る方策を講じるため影響は小さいと予測する」と言ってしまえば環境アセス手続きはクリアです。実効性ある対策は全くゼロなのにです。
If the developer claims that the impact on the natural environment is small, the environmental assessment will be terminated. It's inexcusable!
こんないいかげんな環境アセスの時代になることを、環境アセスの第一人者と言われる先生は2001年時点では想像できなかったのでしょう。第一人者と呼ばれる威厳に賭けて、政府にやかましく言って欲しいものです。
We want wind power to be wild birds friendly.
Association to protect wild birds from wind power
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