オメガねこ

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「シリア撤退」と「アチソンライン」

2019年11月01日 | 戦争史

 2019年10月28日に、過激派組織「イスラム国」の最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者が、米特殊部隊の攻撃を受け、逃亡中に自爆して死亡したと報道されています。これは、トランプ大統領の選挙公約であった「米軍のシリアからの撤退」を去年の12月に決めた、その後の作戦行動ですが、バグダディ容疑者の支持者らも「大量に」死亡したそうです。

 これは、ブッシュ大統領の時代にCIAの援助の下に作られたとされる「ISIS(2006年)」が、オバマ大統領の時代に建国宣言した「イスラム国(2013年)」に対する殲滅作戦をトランプ大統領が実行したと言えます。

 元々、シリアに投入された米軍は、正式には500名(特殊・工作部隊を含めると4000名)程とされ、実際に戦う陸戦部隊では無い為、実際に引き上げたかどうかは判りませんが、表面上引き上げても軍事的には影響ありません。これは政治的な工作でしかなく、関係者の混乱振りを見た「イスラム国」が行動を活発化させた事で「バグダディ容疑者」の動静が明らかになって、今回の作戦が成功したと思われます。しかし、「イスラム国」とは特定の地域を示す概念ではなく、世界中に分散したイスラム過激集団のうちの一つの系統の名称なので、SNSを通じて直ぐにでも新しい「最高指導者」は誕生します。

 トランプ大統領の「シリア撤退作戦」でトルコとロシアは泥沼に更に深く足を踏み入れることになり、米軍は離れたところで様子見を決め込み、今後の米軍の展開は経済的な採算が取れるかどうかに掛かってきます。

 これに似た例が過去にもあり、本格的な朝鮮戦争が勃発する原因となったとされる「アチソンライン」です。

 太平洋戦争の終結が見えてきた頃に、朝鮮半島を米国とソ連で分割統治する事が決まっていて終戦直後(1945年)には、北はソ連が間接統治し、南は米国に直接統治され、朝鮮半島の分割統治が始まりました。それから数年後に韓国と北朝鮮が独立させられ、米国が責任を持つ防衛ラインは38度線では無く「フィリピン - 沖縄 - 日本 - アリューシャン列島までである。それ以外の地域は責任を持たない。」と発言した為、北朝鮮が韓国に軍事侵攻してきました。これが「アチソンライン」の謀略?です。

 つまり、北朝鮮をまんまとおびき出した事になりますが、李承晩の率いる韓国軍はあまりにも弱すぎた為、自国民を見捨てて韓国南端の釜山まで退却してしまい、失敗しました。ここが、シリアでのクルド人との違いで、「米軍の撤退計画」が有ってもクルド人は引き下がる事は無く「イスラム国」に対して攻勢をかけバグダディ容疑者を追い詰め、今回の「斬首作戦」に成功しました。

 李承晩は日本の山口県に韓国臨時政府を作る様にGHQに要求しましたが拒否され、李承晩によって排除された旧日本軍(韓国人)と米軍を主軸とする国連軍との合同作戦で北朝鮮を38度線まで押し返し、現在に至ります。しかし、この時の米軍の戦死者は3万人を超えました。

 この失敗はアメリカが、韓国軍は旧日本軍と同等の強さが有ると勘違いした事にあり、同じ作戦でも利用する同盟軍の力量を誤認すると、取り返しのつかない事になる事を示しています。今回の「シリア撤退作戦」は、取り敢えず勇気あるクルド人のお陰で成功しました。後は、シリア・トルコ・ロシアによる混乱が始まり、米国は外から見ているだけです。

 現在の朝鮮半島でも第二の「アチソンライン計画」である「米軍の韓国撤退計画」が進んでいるようですが、今の所、最初にこの罠に嵌まる国が何処かは判りません。



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