大学院を中退し、某大手食品メーカーの検査部門に入社した。
製造したものがエラー品でないか試験をして調べる仕事だ。
学生の頃から実験が好きだった。
なので仕事はとても楽しかった。
もちろん合わないなと思う先輩もいたが、ほとんどの先輩は丁寧に優しく教えてくれた。
鬱っぽい日もあったが、薬を飲みながらなんとかやっていけた。
このまま順調にいくと思っていた。
事件はある日突然起きた。
手の震えがとまらない…
これは炭酸リチウムの副作用だ。
細かい作業が多い実験。
手が震えることで失敗や器具を割ってしまうことも多くなった。
『○○さん(私)、ちょっといいかな?』
所長からとうとう呼ばれてしまった。
『何かあった?大丈夫?』
所長は私を責めることなく、逆に心配をしてくれた。
病気のことは隠していたため、本当のことは言えなかった。
『ちょっと眠れない日が続いていて…』
この言い訳でその場はなんとか乗り切った。
もう隠し通すのは限界だ、ちゃんとこの病気と向き合おう。
ここでようやく療養に入る決意ができた。
ここでまた心療内科の先生に診断書を書いてもらい、所長へ提出した。
所長からは、退職はもったいない、休職にしたらどうだ、と提案されたが、休職だと休める期限が決まっている。
期限が決まってしまうと焦りにつながると思い、退職することに決めた。
これで心の底から休める…やっと開放される…
その考えは甘かった…
家族に病気への理解がなかったのだ…
心無い言葉、罵声…
次回、療養への壁〜家族編〜を書きたいと思います。