冬桃ブログ

突然の暗闇

 
 ソファと格闘した右腕がどうにも使い物にならないので、マッサージ師さんに来てもらう
ことにした。
 予約は九時だが、この方は前に仕事が入ってないと早めに来る傾向がある。
 八時半頃、そろそろ支度(床に敷くマットだの枕だの足に掛ける毛布だの)しなきゃと机
の前から立ち上がったとたん、部屋の電気が消えた。
 
 電球が切れた、とその瞬間は思った。が、暗くなったのはいまいる部屋だけではない。
 どこもかしこも真っ暗。電話もファックスもパソコンも、その闇にすっと溶けた。

 え? 私、またなんかヘマやった? どこ触った? ショート?

 手探りで玄関へ行き、ドアを開けた。廊下の電気はついてる。いやだ、やっぱり、うちだ
けだ。どこへ電話すりゃいいの、夜なのに……なんて落ち込んでる間もなく、あちこちのド
アが開いて人が出てきた。良かった(?)、うちだけじゃない。マンション全体が停電にな
ったんだ!

 まあ、それにしても珍しい。私が子供の頃は、台風がくるたびに停電になったものだが、
いまはめったにそんなことはない。しかもマンションなのに。

 見れば、辺り一帯、マンションも一戸建ても灯が消え、ぽつりぽつりと懐中電灯らしき
明かりが灯っている。私も室内に戻り、また手探りで古いキャリーバッグを捜した。これが
うちの非常袋である。
 懐中電灯を出してスイッチを入れた。しかし古びていたせいか電池がとぼしかったのか、
気が滅入るような乏しい明かりである。蝋燭があったはずだとキャリーバッグを引っかき回
し、見つけ出して火をつけた。が、つかなかった。これも古くて芯がいかれてたのだ。

 明かりがないというのはなんとも心細い。また廊下に出た。同じ階の人がいた。
 「エレベーターに誰も閉じ込められてないといいけど」
 「通りの信号も駄目になったそうですよ」
 そういえば、さっきからパトカーか救急車かわからないがサイレンが鳴っている。
 「なにかの工事のせいでしょうかねえ」

 二つ向こうの部屋の奥さんが携帯電話を掛けている。緊急センターに掛けているが、
電話が殺到しているらしく繋がらないのだという。
 偉いなあ。携帯にちゃんと、そういう時のための番号が登録してあるんだ。
 私も急いでまた部屋に戻り、携帯でマッサージ師さんに連絡を入れる。
 「真っ暗だから、電気が復旧するまで待ってください」

 ベランダから下を見ると、近所の人達が何人も表に出てきている。
 ああ、不安なのは私一人じゃないんだと、またなんだか安心する。

 ふと、水道も出なくなるんじゃないかと心配になり、鍋に一杯、水を汲んだ。
 で、また、なんとも心細い懐中電灯の明かりでキャリーバッグの非常用品を調べた。
 もう一個くらい懐中電灯があったんじゃないかと思ったが、ない。替えの下着だの
ほかほかカイロだの爪切りだの、どうでもいいものばかり出てくる。
 いかに自分が「非常」に備えていなかったか、身にしみてわかった。
 これが大地震だったとしたらアウトだ。いつだったか誰かに、手回しの懐中電灯
兼ラジオというのも貰ったはずなのに、それもどこにあるのかわからない。
 
 結局、30分後に電気は復旧した。
 なにはともあれ、明日は非常持ち出しの品を買い揃えよう。
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