お招きいただいた。
建物も囲炉裏でいただいたご馳走も素晴らしかったが、
圧巻は帰りしなに見た満天の星空。
天の川もくっきりと見えた。
私はいつも、自宅のベランダから狭い星空を見上げている。
カシオペアやオリオンのように、ごくごくわかりやすい
季節の星座しか見えない。
でもここは見渡す限り、隙間もない星々の競演。
茫然と見上げているうちに、山の端にかかっていた三日月が
少しずつ尾根の向こうに沈んでいった。
20代の後半、イラクの砂漠で見た星空を思い出した。
夜空が星のドームになって砂漠を包んでいる。
この星々だけを頼りに、キャラバンが遠い旅をしたのだ。
占星術はメソポタミアから生まれた、という説を、
後年、なにかで読んだ。
あの光景を思い出すたびに、納得して頷く。
最近、大佛次郎のことを書く機会があった。
当然ながら大佛の兄で「星文学者」と呼ばれる
野尻抱影を思い出した。

ずっと昔から、この本は私の愛読書。
若いころは星座もたくさん知っていた。
でもごくわかりやすい星座しか見えない都会暮らしの中で、
どれがなにやらわからなくなってしまったのが悲しい。
西行法師は「願わくば花の下にて春死なん」と詠んだ。
ここでいう「花」は満開の桜。
私は「願わくば星の下にて冬死なん」を夢見ている。