前回は、ICUベッドサイド回診を効果的に行うためのコツとして、回診順序やスタッフのグループ分け(ICU回診、ICU退室対応、緊急処置とRRS)の工夫について述べました。
今回は、ICU回診を行うグループの実際の活動についてご紹介したいと思います。
まず、ICU回診を行うグループは、進行役の集中治療医(あるいはICUフェロー)を始めとしてプレゼンテーション役の研修医や担当看護師、検査や治療オーダー役のICUフェロー(あるいは集中治療医)、特定ケア看護師、時間があればリーダー看護師などから成ります。
施設によっては、ここに主治医、薬剤師、身体療法士、ソーシャルワーカーなどが加わるかかもしれません。
自施設では現在、主治医が常にICU回診へ参加するのは救急科と小児科のみで外科系の主治医が参加することはごく稀です。
そのため、外科系が主治医の場合はICU回診前(通常は早朝)に主治医が来棟した際にその日の予定を直接会って話し合うか、ICU回診時に決まった内容を後から主治医へ報告して最終決定するかのいずれかで対応しています。
これは、自分が米国で集中治療研修をした際のセミクローズドICUに沿った診療スタイルと基本的に同じで、このスタイルで困ったことはこれまでにほとんどありません。
主治医以外の職種のベッドサイド回診への参加も、現状では人的・時間的制約から現状は実現できておりません。
ただし、ICUにはそれぞれ専任の薬剤師や身体療法士、管理栄養士がおり、常に連絡が取れるあるいは近くで作業をしているため、いつでも相談が可能な状態です。
話はそれましたが、ICU回診で重要なことは、誰が何時進行役やプレゼンテーション役をしたとしても、制限時間内(自施設ではICU8床で2時間30分を上限)に回診を終了することと、一定の診療の質を確保することです。
そのため、あらかじめプレゼンテーションと患者評価の方法を統一して時間を節約すると共に、系統的に情報を収集して情報の脱落を極力減らすことを心がけています。
具体的なプレゼンテーションの方法は以下に示すとおりで、以前自分が集中治療フェローだった際に上司から教わった方法をそのまま自施設で取り入れています。
1. 病歴(30秒):
XXの既往があるXX歳X性、XXを主訴にX月X日受診しXXと診断、X月X日にXX術
(あるいは病棟で急変)後にICU入室となり、本日ICUXX日(術後XX日となります。
2. 過去24時間イベント(30秒)
3. 過去24時間のバイタル(1分): 最高体温(Tmax)、血圧、心拍数、呼吸数、
In/Outバランス(ドレーン排液量)、体重
4. 身体所見(30秒)
5. 現在の使用薬剤(1分)
6. 血液検査結果(1分) 血算、生化学、凝固、尿、その他特殊検査
7. 画像検査結果(1分) レントゲン、CT、心電図
8. 培養結果(1分)
9. 臓器別の評価(10分)
【神経】
①鎮静・鎮痛:RASSは適切か? 中断や減量は可能か?
疼痛コントロールは適切か?減量や経口は?
②せん妄:CAM-ICU評価は?薬剤介入の必要性は?
【呼吸】
①呼吸状態の評価や指標は適切か?
②気管挿管、人工呼吸器設定変更は必要か?
③SBT(いつ、どれくらい)、抜管は可能か?
【循環】
①循環動態の評価(ショックの分類)や指標(CI,PCWP,MAP,SVV, SVRI etc)は適切か?
②循環作動薬の選択・投与量は適切か?
③ペーシングやその他PCPS,IABPは必要か?
④降圧薬や抗不整脈薬は必要か?
【消化器・栄養】
①便秘や下痢はないか?便秘薬は必要か?
②消化管出血はないか?PPI/H2B投与は?
③経腸栄養は目標量が投与されているか?(難しい場合はTPNを投与すべきか)
【感染症】
①抗菌薬の投与目的、選択、投与量は適切か?
②培養や診断マーカー(Procalcitonin,βグルカンなど)は提出されているか?結果は?
③抗菌薬のDeescalationや中止は可能か?投与期間は?
【腎・電解質】
①時間尿量、24時間及び累積バランス、体重は?
②腎機能(BUN,Cr)、電解質異常(K,P,Mg,Ca)は?補正の必要は?
③輸液投与量は適切か?
④利尿剤は必要か?
⑤透析は必要か?モードは?(間欠vs持続)
【血液・凝固】
①輸血は必要か?
②抗凝固・抗血小板薬は必要か?
【内分泌代謝】
①血糖コントロールは適切か?(180mg/dL以下)
【予防】
①消化性潰瘍予防は行われているか?
②DVT予防は行われているか?
③不要なライン(CV,Aライン)や尿カテーテル、ドレーンは抜去されているか?
④VAP予防は行われているか?
⑤リハビリは行われているか?目標は?
10. 本日の目標(1分)
以上のディスカッションから、その日の目標を 3~5つ列挙
最後に、患者の転帰(退室が可能かどうか)を最終決定
以上がプレゼンテーションとディスカッションの流れで、一症例あたりに費やす時間は平均すると15~20分です。
ただし、これもメリハリが大切で既に全身状態が落ち着き退室候補の患者に15~20分も回診を行う理由はありません。
こうした退室候補や全身状態が落ち着いている症例には、10分弱で終えて余った時間を他の重症患者へ費やすようにしています。
また、上記プレゼンテーションと系統的評価の繰り返しだけでは、スタッフにとって2時間ものICU回診時間は苦痛でしかありません。
患者様への医療の質の維持もさることながら、それを支えるICUスタッフの医療知識の向上とモチベーション維持もとても大切です。
プレゼンテーションは大変だけれど、ICU回診に参加して為になった!と思わせるようなちょっとしたご褒美をあげるのも集中治療医にとっては大切なお仕事です。
具体的には、各症例の中で最も大切なトピックやスタッフが興味を示した内容について、症例のまとめが終わった時点あるいは途中でもきりが良いタイミングで2~3分ほどでショートレクチャーを織り交ぜるのです。
こうすることで、回診へ参加しているスタッフの目つきが変わり、ICU回診が活気づくことを肌で感じることができます。
次回からは、自施設でお家芸としている“多職種カンファレンス”について、その実際と取り組みについてご紹介したいと思います。
今回は、ICU回診を行うグループの実際の活動についてご紹介したいと思います。
まず、ICU回診を行うグループは、進行役の集中治療医(あるいはICUフェロー)を始めとしてプレゼンテーション役の研修医や担当看護師、検査や治療オーダー役のICUフェロー(あるいは集中治療医)、特定ケア看護師、時間があればリーダー看護師などから成ります。
施設によっては、ここに主治医、薬剤師、身体療法士、ソーシャルワーカーなどが加わるかかもしれません。
自施設では現在、主治医が常にICU回診へ参加するのは救急科と小児科のみで外科系の主治医が参加することはごく稀です。
そのため、外科系が主治医の場合はICU回診前(通常は早朝)に主治医が来棟した際にその日の予定を直接会って話し合うか、ICU回診時に決まった内容を後から主治医へ報告して最終決定するかのいずれかで対応しています。
これは、自分が米国で集中治療研修をした際のセミクローズドICUに沿った診療スタイルと基本的に同じで、このスタイルで困ったことはこれまでにほとんどありません。
主治医以外の職種のベッドサイド回診への参加も、現状では人的・時間的制約から現状は実現できておりません。
ただし、ICUにはそれぞれ専任の薬剤師や身体療法士、管理栄養士がおり、常に連絡が取れるあるいは近くで作業をしているため、いつでも相談が可能な状態です。
話はそれましたが、ICU回診で重要なことは、誰が何時進行役やプレゼンテーション役をしたとしても、制限時間内(自施設ではICU8床で2時間30分を上限)に回診を終了することと、一定の診療の質を確保することです。
そのため、あらかじめプレゼンテーションと患者評価の方法を統一して時間を節約すると共に、系統的に情報を収集して情報の脱落を極力減らすことを心がけています。
具体的なプレゼンテーションの方法は以下に示すとおりで、以前自分が集中治療フェローだった際に上司から教わった方法をそのまま自施設で取り入れています。
1. 病歴(30秒):
XXの既往があるXX歳X性、XXを主訴にX月X日受診しXXと診断、X月X日にXX術
(あるいは病棟で急変)後にICU入室となり、本日ICUXX日(術後XX日となります。
2. 過去24時間イベント(30秒)
3. 過去24時間のバイタル(1分): 最高体温(Tmax)、血圧、心拍数、呼吸数、
In/Outバランス(ドレーン排液量)、体重
4. 身体所見(30秒)
5. 現在の使用薬剤(1分)
6. 血液検査結果(1分) 血算、生化学、凝固、尿、その他特殊検査
7. 画像検査結果(1分) レントゲン、CT、心電図
8. 培養結果(1分)
9. 臓器別の評価(10分)
【神経】
①鎮静・鎮痛:RASSは適切か? 中断や減量は可能か?
疼痛コントロールは適切か?減量や経口は?
②せん妄:CAM-ICU評価は?薬剤介入の必要性は?
【呼吸】
①呼吸状態の評価や指標は適切か?
②気管挿管、人工呼吸器設定変更は必要か?
③SBT(いつ、どれくらい)、抜管は可能か?
【循環】
①循環動態の評価(ショックの分類)や指標(CI,PCWP,MAP,SVV, SVRI etc)は適切か?
②循環作動薬の選択・投与量は適切か?
③ペーシングやその他PCPS,IABPは必要か?
④降圧薬や抗不整脈薬は必要か?
【消化器・栄養】
①便秘や下痢はないか?便秘薬は必要か?
②消化管出血はないか?PPI/H2B投与は?
③経腸栄養は目標量が投与されているか?(難しい場合はTPNを投与すべきか)
【感染症】
①抗菌薬の投与目的、選択、投与量は適切か?
②培養や診断マーカー(Procalcitonin,βグルカンなど)は提出されているか?結果は?
③抗菌薬のDeescalationや中止は可能か?投与期間は?
【腎・電解質】
①時間尿量、24時間及び累積バランス、体重は?
②腎機能(BUN,Cr)、電解質異常(K,P,Mg,Ca)は?補正の必要は?
③輸液投与量は適切か?
④利尿剤は必要か?
⑤透析は必要か?モードは?(間欠vs持続)
【血液・凝固】
①輸血は必要か?
②抗凝固・抗血小板薬は必要か?
【内分泌代謝】
①血糖コントロールは適切か?(180mg/dL以下)
【予防】
①消化性潰瘍予防は行われているか?
②DVT予防は行われているか?
③不要なライン(CV,Aライン)や尿カテーテル、ドレーンは抜去されているか?
④VAP予防は行われているか?
⑤リハビリは行われているか?目標は?
10. 本日の目標(1分)
以上のディスカッションから、その日の目標を 3~5つ列挙
最後に、患者の転帰(退室が可能かどうか)を最終決定
以上がプレゼンテーションとディスカッションの流れで、一症例あたりに費やす時間は平均すると15~20分です。
ただし、これもメリハリが大切で既に全身状態が落ち着き退室候補の患者に15~20分も回診を行う理由はありません。
こうした退室候補や全身状態が落ち着いている症例には、10分弱で終えて余った時間を他の重症患者へ費やすようにしています。
また、上記プレゼンテーションと系統的評価の繰り返しだけでは、スタッフにとって2時間ものICU回診時間は苦痛でしかありません。
患者様への医療の質の維持もさることながら、それを支えるICUスタッフの医療知識の向上とモチベーション維持もとても大切です。
プレゼンテーションは大変だけれど、ICU回診に参加して為になった!と思わせるようなちょっとしたご褒美をあげるのも集中治療医にとっては大切なお仕事です。
具体的には、各症例の中で最も大切なトピックやスタッフが興味を示した内容について、症例のまとめが終わった時点あるいは途中でもきりが良いタイミングで2~3分ほどでショートレクチャーを織り交ぜるのです。
こうすることで、回診へ参加しているスタッフの目つきが変わり、ICU回診が活気づくことを肌で感じることができます。
次回からは、自施設でお家芸としている“多職種カンファレンス”について、その実際と取り組みについてご紹介したいと思います。