○か×か。答えは二つにひとつ。とても簡単なことなのに、選択に迷ってしまう。それがひと一人の命を左右する決断なら、なおさらにそうでしょう。
つい、先月(2010年7月)のこと。千葉景子法務大臣の命令のもと、ほぼ一年ぶりに死刑が執行されました。私は凶悪犯罪者の死刑存続は当然だと思っています。しかし、いざ、裁判員に選ばれたとして、毅然として決断が下せるのか。また、強制自白による冤罪も絶えないなか、検察の用意した証拠だけで判断する危うさも伴っていないか。いろいろ考える余地はありそうですね。およそ考えたくないことですが、いつなんどき自分が裁かれるか、事件に関与してしまう立場にならないとは限らないわけですし。
1957年の映画「十二人の怒れる男」は、映画史上に残る裁判心理劇の傑作との誉れ高い一作ですね。
三谷幸喜脚本の「12人の優しい日本人」が、これを下敷きにしたことは有名ですね。
手短にいえば、とうしょは有罪かと思われた審議が、みごとに無罪へと傾いてしまうしくみ。本作を観た後で、あの「12人の優しい日本人」がいかにパロディしつつ、さらにそれを上回るおもしろさを獲得していることがわかります。
十七歳の少年が父親殺しの容疑で裁判にかけられる。
最初の投票では、十二人の陪審員のうち、十一人までがあっさりと有罪を下した。だが、八番目の陪審員(建築家)のみがなぜか無罪を主張する。少年の弁護人の無能ぶり、少年のアリバイの妥当性、証言者たちの虚言、そして凶器にかんする疑問点。このひとりが鮮やかに明らかにしていく章子によって、ひとり、またひとりと、審判はくつがえっていく。
有罪を頑なに最後まで主張した三番審判員(宅配便会社の社長)は、自分の私怨から、容疑者の少年を罰したいだけだった。そして、声高に叫ぶ彼に同調していた無関心派も、しだいにその論理の綻びに、そして人をなじるような尊大な態度に、叛旗を翻していってしまう。
無罪主張者がわにいるのは、どちらかといえば、気性が穏やかなメンバー。しかし、最後には気圧されていた弱々しい老人が、みずから信じるところを堂々と主張するあたりは、溜飲がおりますね。
数を頼みにして強引な屁理屈でねじ伏せようとする陪審員。そして、自分のことを棚に上げて形勢不利と見るや、相手の人格攻撃に走り出す。
そういう連中を、みごとに言いくるめていく手腕がなんとも小気味いい。疑わしきは罰せず(Benefit of the profit)のために、正しい審判に目覚めて、同調し友情を深めていく様子は、こころあたたまりますね。
「アラバマ物語」ともども、法廷国家アメリカの良心がかいまみえる名作です。
主演はヘンリー・フォンダ。
監督はシドニー・ルメット。1957年度の第7回ベルリン国際映画祭金熊賞、国際カトリック映画事務局賞を受賞。
原作は、レジナルド・ローズのテレビドラマ用のシナリオで、この映画でも脚本を担当。
こういう正当な映画はどうして、最近、あまり見られないのでしょうね。とても残念です。
(〇九年八月三〇日)
十二人の怒れる男(1957) - goo 映画
つい、先月(2010年7月)のこと。千葉景子法務大臣の命令のもと、ほぼ一年ぶりに死刑が執行されました。私は凶悪犯罪者の死刑存続は当然だと思っています。しかし、いざ、裁判員に選ばれたとして、毅然として決断が下せるのか。また、強制自白による冤罪も絶えないなか、検察の用意した証拠だけで判断する危うさも伴っていないか。いろいろ考える余地はありそうですね。およそ考えたくないことですが、いつなんどき自分が裁かれるか、事件に関与してしまう立場にならないとは限らないわけですし。
1957年の映画「十二人の怒れる男」は、映画史上に残る裁判心理劇の傑作との誉れ高い一作ですね。
三谷幸喜脚本の「12人の優しい日本人」が、これを下敷きにしたことは有名ですね。
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十七歳の少年が父親殺しの容疑で裁判にかけられる。
最初の投票では、十二人の陪審員のうち、十一人までがあっさりと有罪を下した。だが、八番目の陪審員(建築家)のみがなぜか無罪を主張する。少年の弁護人の無能ぶり、少年のアリバイの妥当性、証言者たちの虚言、そして凶器にかんする疑問点。このひとりが鮮やかに明らかにしていく章子によって、ひとり、またひとりと、審判はくつがえっていく。
有罪を頑なに最後まで主張した三番審判員(宅配便会社の社長)は、自分の私怨から、容疑者の少年を罰したいだけだった。そして、声高に叫ぶ彼に同調していた無関心派も、しだいにその論理の綻びに、そして人をなじるような尊大な態度に、叛旗を翻していってしまう。
無罪主張者がわにいるのは、どちらかといえば、気性が穏やかなメンバー。しかし、最後には気圧されていた弱々しい老人が、みずから信じるところを堂々と主張するあたりは、溜飲がおりますね。
数を頼みにして強引な屁理屈でねじ伏せようとする陪審員。そして、自分のことを棚に上げて形勢不利と見るや、相手の人格攻撃に走り出す。
そういう連中を、みごとに言いくるめていく手腕がなんとも小気味いい。疑わしきは罰せず(Benefit of the profit)のために、正しい審判に目覚めて、同調し友情を深めていく様子は、こころあたたまりますね。
「アラバマ物語」ともども、法廷国家アメリカの良心がかいまみえる名作です。
主演はヘンリー・フォンダ。
監督はシドニー・ルメット。1957年度の第7回ベルリン国際映画祭金熊賞、国際カトリック映画事務局賞を受賞。
原作は、レジナルド・ローズのテレビドラマ用のシナリオで、この映画でも脚本を担当。
こういう正当な映画はどうして、最近、あまり見られないのでしょうね。とても残念です。
(〇九年八月三〇日)
十二人の怒れる男(1957) - goo 映画