陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「高町家のアフターレッスン」(二十七)

2015-08-05 | 感想・二次創作──魔法少女リリカルなのは

フェイトがギンガを連れて出ようとした矢先。玄関のチャイムが鳴った。

フェイトがドアノブを回したのか、向こうから押されたのかわからない。
宅配業者の男は、さも当然といったふうでお構いなしに押し入ってきた。小柄な撫で肩の訪問者は、自分の肩幅分だけのドアを開いて、するりと身を滑らせてきたのだ。野球帽をとって広くなった額を撫で付けるようにしながら、白髪交じりの髪がおじぎする。好々爺といったふうの初老の男に、警戒心も緩くなる。フェイトとギンガは、男のために玄関の脇へと退いていた。

「どうも、夜分遅くにすみません。お届けものにあがりました」
「あれ。うちのマンションね、夜間の宅配は一階の保管庫のほうへお願いして…」

なのはがウグイス嬢のようなかしこまった、しかしじんわりと甘みの残った声を出すので、フェイトはすこし面食らった。
初対面の人には声色が違うのは、長年連れ添った仲だから言えるのだけど。その甘えた喉をふるわす回数が最近減ったように感じるフェイトには、いささか悔しい。

「ああ、こりゃあ、しまった! また、降りていかにゃならんのですかな」

首の後ろに手をあてがって、ひたすら頭をさげる宅配人。
片手で抱えた荷物が滑りそうになって、慌てて膝をあげて支えようとしたものだから、なのはとて気が気でない。こんな調子で落とされるくらいなら、いま預かったほうがいいに決まってるのだ。

「せっかくだから、この際、受け取りますよ。でも、今度からは気をつけてくださいね。うち、小さな子もいて、もう寝てる時間なんです」

だが、張り付いたような笑顔をみせる男の手の動きに、フェイトは不審を察知した。男が小脇か抱えた小包の下に手をあてがっているが、その手首が不自然に消えていた。

「なのは、下がって!」

言い置くと同時に、フェイトがなのはの前を塞いだ。
真顔になった男が、小包の底に空いた穴から、拳銃を取り出す。構える余裕も与えずに、フェイトの手刀が男の手首から叩き落した。
たちまち腹ばいにされ、床にねじ伏せられてしまった現行犯の一丁上がり。拳銃はフェイトの足に蹴飛ばされていた。

フェイトちゃん、お見事とばかりになのはが拍手しながら、犯人を見下ろした。

「今夜は、物騒なお届けものが多いよね」
「課外授業の二限目なのかな? それとも、やはりこっちが実戦かな?」

男をバインドで後ろ手に拘束したフェイトは、埃をはたくように手のひらを叩いた。

「実戦? ハッ、何を言っとるんだね、君たちは」

薄汚れた風体をしてはいるが、口調にはどこか品が漂っている。
フェイトとなのは、思わず顔を見合わせた。どちらも疑問符が浮かんだ顔だ。



【目次】魔法少女リリカルなのは二次創作小説「高町家のアフターレッスン」




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