「この電話、さっきまでコードが抜かれていたんだけど」
「コードがですか? 犯人役の人、そこまで手が込んでたんですね」
電話機に身を寄せたなのはは、真剣な表情をして視線を落としていた。
あるプッシュボタンを押すと、電話機のモニタには、「19:58 ツウワ」と表示が出ている。何回か押すと、表示の数字は若くなり、ツウワの横に、見慣れた電話番号が現れた。登録していた懐かしい友人宅のナンバーだった。
「コードを抜いたのは、たぶんあの人じゃないよ」
「じゃ、誰が?」
「問い詰めてもいいけど、きょうはもうお寝んねしちゃったし。また明日にしよっか」
なのはの視線の先には、すこやかにソファで眠りこけていたヴィヴィオ。まさか?といぶかしむフェイトとて、寝た子を起こすのは酷だと思った。寝かしつけるほうがたいへんなのだから。
「もう夜遅いけど、ギンガはどうする? 泊まっていってもいいよ」
「あ、いえ。お気遣いなく。帰るつもりでいますから。父に今晩のことについて報告もしておかないと」
「そっか」
なのはが至極残念そうだったのは、ヴィヴィオが彼女になついているからだった。自分やフェイトには身内のよしみでわがまま放題な愛娘も、気の許せる知人にはすこぶる愛想がいい。
「私が責任もって送り届けるよ。夜に出歩くとぶっそうだしね」
「私は心配要らないですよ。先ほどの、ご覧になったでしょう?」
たしかにさっきの捕物劇なら、心配ご無用…なのだが。
JS事件でみすみすギンガをさらわれた苦い経験から負い目を感じているフェイトは、少々過保護ぎみである。そして、フェイトの心配性はすっかり忘れていた疑念を掘り起こしてしまった。
「ところで、なのはは今日どうしてこんなに遅かったの?」
「あ、え…っとぉ、それはね」
「その頬の傷と関係あるのかな?」
「ええと、にゃはは。これはねぇ…」
濃い目のファンデーションをはたいて隠していたのだけど、シュークリームを食べた拍子にとれてしまったらしい。まさか秘密の特訓をしていたなんて、言いづらい。ひたすら笑い逃れようとするなのはに、フェイトはキーホルダーの輪を指先で回しながら不敵な笑みをうっすらと浮かべた。
「ま、いいよ。尋問は帰ってきてからにしよう。夜は長いしね」
「ええっ?!」
思わず顔が火照ったのは、宣戦布告されたなのはというよりも、傍で聞いていたギンガのほう。声に出さない驚きは、顔の色に生じた模様。
【目次】魔法少女リリカルなのは二次創作小説「高町家のアフターレッスン」