1969年のフランス映画「野生の少年」(原題 : L'Enfant Sauvage)は、フランスで実際にあった野生児をめぐる体験をもとにした映画。筋書きは単純で90分あまりと短めのものですが、モノクロフィルムとバロック調のもの悲しい音楽とが相まって、こころにひしひしと迫ってくる作品です。
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1798年の夏、フランス中部のアヴェロンの森にて。
猟師たちが発見したのは、森に隠れ住む衣服も着ておらず全身傷だらけの野生児だった。推定年齢はおよそ11,12歳ぐらいの少年。
駐在所の牢に閉じ込められたあと、パリに移送され、国立聾唖学校に預けられるも、少年は周囲となじまず孤立してばかり。見せ物にされている少年を医師のイタール博士は気の毒がる。生まれつきの知恵おくれではなかったのかという疑いをかけられるなかで、イタール博士は郊外の自宅に彼をひきとって育てる決心をする。
イタールの教育法は、人間の赤ん坊をあやしながら言葉を覚えさせるのではなく、かなりのスパルタ方式でした。
犬を躾けるように、アメとムチを使い分けるのです。少年はヴィクトールと名づけられましたが、その自分の名の意味すらわからない。家政婦として雇ったグラン夫人ですら、あまりの厳しさに口を挟むほど。
しかし、努力の甲斐あってか、アルファベットを覚え、字を書けるまでになったヴィクトール。正しいことと正しくないことの分別もつき、見違えるほど人間らしくなりました。このときの教師の喜びようは、例えんようもないほどですね。
ラストにひょっとしたら、元の木阿弥に戻ってしまうのではないかと思わせる展開がありますが、ヴィクトールは教師の家が帰るべき場所であることを覚えていました。彼は自然よりも文明のある生活に戻ってこられたのです。
感情や感覚がとぼしく、想像力が未発達な子どもをどう育てて導いていくか。その苦労は誰にでもあるもので、のれんに腕を押すような、いくら努力しても打って響いてかえってこない虚しさを感じることがあります。そうした焦燥感や怒りを押さえながら、辛抱づよく寄り添っていく大人としての責任感を感じさせる良作ですね。
主演(イタール役)兼監督は、「大人は判ってくれない」のフロンソワ・トリュフォー。
出演は子役のジャン・ピエール・カルゴル、老人役のポール・ビレなど。
(2010年12月4日)