陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

【追悼】神無月の巫女の名脚本家・植竹須美男を悼む

2025-02-15 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女

2月になると、植竹須美男先生のことを思い出します。
(昨年2024年は、私がこの時期うっかり倒れていたので書けずじまいだったのですが…orz)

この2月15日が命日とのこと。2023年御逝去、享年54歳、あまりに若すぎます。惜しまれる死です。寒波が押し寄せるこの時期、私の周囲でも訃報が相次ぎました。20数年前、私の実父が亡くなった年齢とほぼ同じ。なので、よけいに痛ましい出来事でした。



言わずもがな「神無月の巫女」の名脚本家、後継作の「京四郎と永遠の空」のアニメ構成ならびに公式小説「京四郎と永遠の空: 前奏曲」、さらにさらにWEBノベル「姫神の巫女~千ノ華万華鏡~」も手がけられました。

神無月の巫女ファンならば、彼の名前を知らない人はいないでしょう。
もともと企画段階では後から参加されたようですが。女の子同士の恋愛が勝ってしまうという当時なら異色の結末に、筋金入りの百合マニアだった植竹氏にはノリノリの仕事であったと、旧版DVDブックレットにうきうき語られていましたね。姫子と千歌音のお話、もっともっと書いてほしかったな。

あの作品が硬派で漢気あるロボットバトル作品にして艶っぽい場面(まあ原則、男性向け漫画だからね…)があるのに、いっかな気品を損なわず、往年のかぐわしき少女漫画らしき恋愛ロマンスをカルト的に世界のそこたしで愛されつづけているのは、ひとえに植竹須美男脚本の文学性の高さと、熱烈にこだわり抜いたクィア表現のおかげといわざるを得ません。

令和になっても神無月の巫女のあらたな視聴者層を確認していますが。
もしお時間があれば、ぜひとも植竹先生の書かれたものを手に取ってみてほしいです。ウェブノベルの姫神の巫女は無料公開されています。富士見ファンタジア文庫の小説『京四郎と永遠の空: 前奏曲』も中古で入手できるのではないでしょうか。アニメや原作漫画の空気感とは一風ことなって、キャラの背景を繊細な文章で掘り下げたこの小説はもっと評価されるべきだと思います。挿絵が美しい原作者の介錯先生描きおろしなのもベスト。

植竹先生のウィキペディアが編集されていて、けっこう、生前の人となりがわかるの胸熱なんです。 マリみての今野緒雪先生もそうなんですが、ツイッターや個人ブログで発信されない方なんですよね。こういう控えめなクリエイターはどうしても世に埋もれてしまいます。









たいそうな読書家だったようで、世俗の言葉にまみれるよりも、いにしえの声に囲まれて静かに暮らしたいタイプだったのかな、と感じます。
血肉を削って創作にのめりこむ、孤高の芸術家タイプなのかも。柳沢監督は彼の才能を開花させるのがうまかったのでしょう。アニメ「健全ロボダイミダラー」の植竹シナリオ回は神がかっていましたし、同監督作のアニメ「オリエント」にも関わっていたようです。昨年放映されたウルトラシリーズでも、傑作との呼び声が高い。多くの人の胸を打つ作品を遺されました。

記録されていないだけで氏の参加作品、もっと多かったんじゃないでしょうか。「ドラゴンボールZ」でも複数回参加されており、柳沢テツヤ監督の関わった「太陽の勇者ファイバード」や「鎧伝サムライトルーパー」ともども、知らず、自分の子ども時代を楽しませてくれた創作者のひとりであったわけです。





特撮ファンによれば、植竹回の脚本はかならずそれとわかる印象深さがあり、いまだに語り草になっています。遺作となった「ウルトラマンブレーザー」の第9・10話は放映を待たず亡くなられたのですが、あらすじを聞くだけで涙がでそう…。人たらざるものの生きづらさみたいなズレは京四郎小説のかおんの章でも巧みに表現されていました。あれは、素晴らしかったな。アニメ神無月の巫女の、誰にも悟られまいとして秘恋を隠しとおす姫宮千歌音(一見華やかで強いのに、脆くはかない)の苦みを描ききれたのは、植竹氏の目線の低さといえるのかもしれません。

神無月の巫女関連でいえば、コミケで無料頒布された乙羽さんの外伝小説「神無月の巫女~卒業雪~」(2007年12月)と、姫子&千歌音フィギュア付録特典だった小冊子の「神無月の巫女~はじまりの春~」(2007年5月)も知られざる名作です。ウィキペディアに掲載されていないけれど。京四郎と英永遠の空のDVD‐BOXは買わなかったのですが、ひょっとしたら付録の書きおろし小説なんかがあったのかもしれません。

あのもってまわった台詞回しと古めかしい言葉遣い、時代小説好きや歴史マニアにはたまらない。なのに、けっこう現代っ子らしいお茶目なギャグ要素もあったりして。

ウェブノベルの姫神の巫女は字数制限がないせいか、思う存分、健筆をふるわれたらしく、とにかく主人公の千華音の前半部の、めくるめく心情描写が寄せてはかえる波のようにすさまじく濃密。これをよく闊達な画力でバトル要素も加えた介錯先生が商業出版としてコミカライズできたものだと思います。

アニメ神無月の巫女の旧版ブックレットの解説文は豪華なカラー仕様。
最初に心揺さぶる百合ポエムがあって、最終巻のはもう感涙しっぱなしです。いまだにくりかえし読んでいます。あの贅沢なブックレットがなかったならば、私はここまで神無月の巫女にいれこんでいなかったのかも。





最後にその文面をお見かけしたのは、漫画「姫神の巫女」第三巻の寄稿
柳沢テツヤ監督のイラストともども、ファンには嬉しいサプライズ。幻の姫子と千歌音のマル秘エピソード没ネタ案もありつつ、かなり濃厚な植竹節がさく裂した文章で。原案がウェブノベルタイトル表記にされていましたが、あのウェブノベルは力作ではあったので、小説版の著作者としてクレジットされてほしかったな、と。出版社の事情だったのか…。

植竹先生のほかの活躍をあまり存じ上げなくて。
原作を担当された漫画「少女奇談まこら」も最近になって読んだばかり。推しは推せるうちに推せ!と申しますが、もっと生前にその作品のことを語ることができていたら、と悔やむことしきりです。

2018年にはメカデザイナーの村田護郎氏が、さらに昨年夏にはアメノムラクモ役の声をつとめた名声優の田中敦子さんまで鬼籍に入られました。
20周年を前にしてひじょうに悲しい事実が重なったばかり、ショックも大きい。自分も元気なうちは過去の想い出語りとして地味ながらブログの片隅にてファントークをつづけていきたいと願っています。




★★神無月の巫女&京四郎と永遠の空&姫神の巫女ほかレビュー記事一覧★★
「神無月の巫女」と「京四郎と永遠の空」、「姫神の巫女」ほかに関するレビュー記事の入口です。媒体ごとにジャンル分けしています。妄言多し。



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