ヴィヴィオをソファに横たえさせたなのはは、がさごそと箱を開封してみた。
段ボールの中に四方を緩衝材でまもられた、さらに小さな紙製の箱。そこを開けると、プラスティック製の容器に保護された、青い小瓶が見えた。本体の容量には見合わない程かさ増しした、明らかな過剰包装だとわかる。
取り出した拍子に、つづら折にされた説明書きが落ちた。拾ったフェイトの手がそれを開いて目を通している隙に、なのはは小瓶を電灯の明かりに透かして眺めた。壜が厚いわりには、中身は三分の一ほどしか詰められていない。
「化粧水…かな?」
「『お買い上げありがとうございます。本品は開封なさいましたら、お客さまがすでに使用したものとみなし、返品には応じかねます。商品が到着後、一週間以内に同封の振込み伝票にて代金をお振込みください』──だって。ええっ?! 一本でこんなにするの?!」
恬淡として説明書を読み上げていた、フェイトは仰天していた。
伝票には、なのはの月給の三分の一が軽く持っていかれるほどの高額が、印字されていた。
「壜の底に割れ目が入って中身が漏れたんですね…」
「もしかして、さっきの騒動で?」
「だとしたら、こっちが悪いんだよね~。やっぱ、買取りしなきゃいけないのかな?」
ふたりの養子を育てあげて家計のやりくりにも長じているフェイトに比べたら、新米ママのなのはときたら、どこか金銭的に無頓着なところがあった。他人事のように捉える物言いが、それを証明している。
さきほどの逮捕劇のせいでひびが入ったのだとしたら、フェイトたちにも責任の一端はある。だが、フェイトとしたら腑に落ちない。
「でも、なのはは注文してないし、身に覚えのない商品なんでしょ?」
「うん。だって化粧品はたいがい、フェイトちゃん推薦品をつかってるし」
ね? とばかりに目配せすると、フェイトも心なしか頬を緩める。しかし、そこは捜査中の執務官、後輩の手前もあるからしてお惚気もできず。ふと小難し気な顔つきで、
「いきなり商品を送り付けといて、代金をせしめる詐欺とか?」
「いっそのこと、こちらの会社に直接お問い合わせしてみては、どうでしょうか?」
ギンガが伝票に書かれた連絡先に、指を滑らす。
後輩の鶴の一声で、フェイトがまず請け負って電話をかけた。だが、相手先は誰も出ない。二分ほどのコールののち、フェイトが根負けして受話器を下ろしてしまった。
「あ、そういえば」
電話のコードを指先に巻き取りつつ、思いついたようにフェイトが口を開く。なのはもギンガも、さて何ごとかと息をつめて見つめた。
【目次】魔法少女リリカルなのは二次創作小説「高町家のアフターレッスン」