陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

神無月の巫女精察─かそけきロボット、愛に準ずべし─(十)

2015-10-12 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女


ロボットアニメとしての「神無月の巫女」を各話ごとに再考するレヴュー。今回はその三回目です。
全十二話を序破急、いわゆる三段構成で考えてみれば、まさしく四話と八話が節目であることがおわかりになるでしょう。ソウマは最終的には雄々しく戦いに勝利をおさめ、地球を救ったヒーローとしての道を歩みます。それはロボットアニメの王道といってもいい。陽のあたる王道的なヒーローの進む先には勝利しかなかったはず。その勝利の大きなつまづきとなったのが、四話と八話。どちらもソウマは痛い敗北をしてしまうのですね。そして、八話以降は「パワーアップした新機体」で戦場に臨むことになります。苦杯を舐めた後に勇ましく立ち上がるヒーロー、それはバトルものの定石。復活をした勇者には、拍手喝采の嵐が起こるはず。しかし、悲しいかな、このセオリーどおりに進む勇者を演じてしまったがために、終局になればなるほど、ソウマ少年、いささか存在の影が薄くなっていきがちになるのですね。

第九話:黄泉比良坂へ
千歌音に去られてしまった姫子には、辛い選択が待っていました。ただでさえ、巫女二人がかりでも負担のかかるアメノムラクモ復活の儀式をたったひとりで行わねばならないこと。ロボットを奪われてしまったソウマも、オロチの呪いにからだが蝕まれはじめ、こちらは不利な状況に。ところが、オロチに寝返ったはずの千歌音は、なんと味方であるはずのオロチ衆しめて六名をあっけなく始末してしまいます。オロチの本性を現したソウマロボもといタケノヤミカズチは、もはや無敵万歳。まさしく黒宮様無双。そのころ、姫子は真琴や乙羽たちの励ましを胸に、千歌音をオロチの闇から救うべく、復活の儀式に望む一歩を踏み出します。いままで、どこか他人任せだったような姫子の積極性を引き出すために、ロボットにはじめて立ち向かう姫子。ちょっとだけ凛々しさのある、いい表情のラストカット。二話あたりまで、すぐ気絶していたり、泣きべそ掻いていたのとは大違いですね。


第十話:愛と死の招待状
愛機を奪われたソウマに残された武器は、ツバサに送られたひと振りの剣のみ。弓矢でしか戦う術がなかった千歌音と、いまとなってはすっかり逆転しているこの戦力差。しかし、姫子がなんとか自力で月から召還したアメノムラクモに、ソウマは搭乗すると宣言。個人的には巫女ではない人間、しかもオロチ面子であったソウマがアメノムラクモに乗れるということが不思議でならないわけですが(仮面ライダーのベルトが拾った誰にでも装着できるぐらい軽い扱い)、原作漫画のほうでは巫女の因子を持った者はオロチにもなれるという説明があるし、千歌音がオロチ神を御することから考えあわせても、剣神アメノムラクモとオロチ神たちは、もともとおなじ出自だったりするのかもしれませんね。アメノムラクモに搭乗すると決めたソウマの台詞、「きょうから俺は君の拳で…」は、ほんらいは月の巫女が座すべき位置を乗っ取るような宣言にも聞こえますが、姫子に代わって戦ってやる、つまり千歌音を殴れないであろう姫子に代わって、俺がそれをやってやる、汚れ役を買ってやろうという決意表明なのですね。その直後、ソウマは姫子に愛情の証としてキスを送る(場所はおでこです)のですが、それは騎士が姫に忠節を誓うような軽いもの。さらにややいじわるな見方をすれば、「ソウマが姫子の拳になる」という事態は、ソウマは姫子を抱きとめる腕になれない、とも受け取れます。なぜって、自分の腕で自分を抱きしめられるわけはないのですから。ひょっとしたら、ソウマはこの時点から姫子の気持ちが自分にないことにうすうす勘づいていたのかもしれませんが、戦いが終わったら告白したいともほざいていたので、まだ望みは抱いていたのでしょうか。少年よ、いと健気。
姫子は一時的に舞い戻った千歌音と、延期になっていた二人だけの誕生パーティを催すものの、一夜明ければそこに悪夢が…。


第十一話:剣の舞踏会
姫子・ソウマ組と千歌音との対決の日。空に黒い月がのぼりつめ、世界が闇に覆われたその日。粉砕されたはずのオロチ神七機も復活し、容赦なくアメノムラクモに襲いかかります。千歌音操るタケノヤミカヅチは単機ながらも絶対的な強さを誇るうえ、さらには八機合体してオロチの最終形態ヤマタノオロチが現れ、剣神アメノムラクモとも言えども歯が立たない状態。オロチの本能に刃向かったがための呪いに全身を蝕まれつつも、ソウマは捨て身の攻撃で、姫子を千歌音のもとへと送り届ける道を開きます。
さて、重々お気づきでしょうが、最終兵器であるはずのアメノムラクモ、まったく巫女が操縦していないと言っても過言ではありません。奮闘してるのはソウマだけなんですよね。吠えてるのもソウマ。「姫子の拳になる」と宣言した手前、ソウマの見せ場づくりのためにと言えなくもないですが。まあ、それもそのはず、姫子はうっかり千歌音を傷つけないようにセーブしてたのかもしれませんし。それとも、巫女が乗るアメノムラクモは、片方の巫女を殺すようにはできていないのかもしれませんね。
千歌音ちゃん恋しさに道往くトラップをも弾きとばし、月の社へと辿り着いた姫子。そこで待っていたのは笑顔から一転、千歌音の狂気に満ちた告白、そして正気の沙汰とは思えない千歌音のふるまい。我が身が切り裂かれる分には恐れはない、しかし、千歌音の乱心が招いた地球の破滅を目の当たりにしたとき、姫子の刃が…。にしても、矢一本で地球を滅ぼしてしまう圧倒的なパワー。矢でソウマロボも止められず、ギロチにも抗えず、ミヤコにも苦戦したというのに。前半での千歌音と比べると、戦闘力百万倍といったところでしょうかね。この時点で、巫女どうしの対決は刀身交える生身の剣戟となり、ロボットはその舞台へふたりを押し上げるための足がかりでしかなくなってしまいます。巨体ロボどうしがくんずほぐれつで殴り合う最終戦となると、絵的にどうも美少女にはそぐいませんしね。



神無月の巫女精察─かそけきロボット、愛に準ずべし─(目次)
アニメ「神無月の巫女」を、百合作品ではなく、あくまでロボット作品として考察してみよう、という企画。お蔵入りになった記事の在庫一掃セールです。

【アニメ「神無月の巫女」レヴュー一覧】


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 悪い奴ほど、やたらと正義と... | TOP | 映画「マルホランド・ドライブ」 »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女