2023年7月も末に近いこの時期。
岸田政権がなんと健保証廃止の時期延長を打ち出した。さすがに政権の支持率が急降下したのを気にしての措置か。
マイナ保険証のトラブルが絶えないのが理由であろう。
コンビニで住民票を取得しようとしたら、まったく他人のものがプリントアウトされなど、前代未聞の話。私もマイナンバーカードは持っているが、気が気でない。ポイント付与をえさに政府がわんさかと取得を促したマイナカード、こんな負の効用があるとは誰が思ったのか。
しかし、私は公務関係者のITレベルの低さはうすうす感じていた。
十数年前の大学院生時代、公立図書館での非常勤職員をしていた時代、正職員の司書は新しいシステムが導入されてパソコンで貸出されるようになったとたん右往左往。職員さんが私にまでキーボードの使い方を尋ねられたぐらいなのだ。
学校現場に導入されているタブレットさえも、どこだか大手キャリアだのIT企業だののぼったくり価格で提供されていて、実はもうすぐ廃棄処分に近いとさえ言われる。そもそも、プログラミング学習と称してゲームを作らせているらしいが、そんな教育が何の意味があるのだろう。マインクラフトというレンガを積み上げるみたいに空間をデザインするゲームがあるが、遊んでいるだけで、脳の発達になにがいいのかすら不明だ。子どもにクイズをさせたら、無駄な知識は増えるが、けれども、生活能力を育てるのとは別次元ではないだろうか。プログラミングなんぞ教えるぐらいならば、Excelの基本的な操作を中学ぐらいでマスターさせた方がマシなのではないか。
私はもとよりマイナ保険証には反対である。
マイナンバー関連のトラブルもあるが、それ以前に、現在の健康保険証の廃止には懸念材料がある。
たしかに現況の保険証はめんどくさい。
保険者ごとに保険証が異なる。自営業、学生、無職の国保、士業・建設・医師などの国保組合、中小企業などの協会けんぽ、さらに大企業の健康保険組合、公務員の共済。転職するたびに切り替えねばならない。75歳以上ならば、国保とは別の後期高齢者医療保険加入で、もはや会社員の被扶養者にはなれない。
結婚相手が会社員と個人事業主だとどちらを選ぶか、と問われたら。
常識的な労働者であれば、まず真っ先に保険の被扶養者のことが浮かぶだろう。女性でキャリア会社員の人は、よほど家事育児を丸投げできる男性を求めていない限りは、フリーランスや個人事業主、フリーターと結婚しない。妻の扶養にされている夫は幸福感が低く、家庭の不和が絶えないからだ。これは同性どうしのパートナーでも同じであろう。LGBT差別だ!とネットで声高に叫びながら経済的自立できていないヲタク女性が、同性のハイスペック相手とは出会いがないのと同じである。なので、お嬢さまと庶民派の女の子二人の百合カップル作品が人気なのは、ヲタクに夢を買わせているからだ。
転職が多かった私は、後期高齢者医療保険以外の保険者の保険証を持ったことがある。
それぞれに特色があり、たとえば国保組合は保険料は安いが家族を扶養にはできず、任意継続被保険者制度もない。日本年金機構の契約職員だったときの健保組合は、インフルエンザの接種費用まで負担してもらえるので、その福利厚生の良さに驚いてしまった。
中小企業の正社員よりも、大企業や公務員の非正規のままでいたいと思う人がいるのは、病院の窓口で出すときの保険証の見栄えもあるだろう。保険証には、勤務先があるだけで、契約職員です、などとは書かれていないからだ。
つまり、現況の健康保険証は被用者の身分保障をする。
私はこれまで職業や経歴をいつわる人間に遭遇してきた。市役所勤務のSEですと言いながら、実は派遣社員だったアラフィフ男性。フリーランスの派遣コーディング屋に過ぎないのに、マスコミのウェブデザイナーですとか、グローバルサイトのディレクターです、などとツイッターで経歴を盛っている女性だとか。
保険証を見せてといえば、その嘘が一発でばれる。
持続化給付金の申請のために個人事業主である偽った人間がいたが、保険証を見せてもらうと、国保でしかも世帯主の親に扶養されている40代男性なんて、とんでもないケースもあったわけだ。インターネット上では、ITスペシャリストです、などと名乗っておきながら、こうしたえせ専門家は多いのだろう。働くことに挫折したので、仮面をかぶって生きなければ、自分が砕けてしまうからだ。
健康保険証は職業詐称者を発見できるのみならず、マイナ保険証のように、医療情報以外の金融資産などの個人情報とも紐づけされていないので、一元化するときのデメリットを最小限にすることができるだろう。
なによりも、健康保険証をマイナ保険証に一元化した場合、社会保険の手続きはどうなるのだろうか? 現在は会社が行うのは、社保の得喪届や住所変更、被扶養者の異動ぐらいなものだが。マイナ保険証の使い方がわからないからと、従業員が会社の総務部に押しかけられても困るのだ。パスワードを失くしたから再発行を代わりにやってくれとか。とくに高齢の従業員ほどそうで、通常の業務に支障が出る。現在のように、行政が労働保険、社会保険は健保と厚年、などと縦割りで専門分化されていたほうが、行政事務を行う側も、会社の人事も楽ではないのだろうか。社会保険手続きはマニュアル化されているので、社労士ぐらいの知識があれば、それ自体は総務事務の作業としてはさほど負担が大きいものではない。
保険証は資格取得日もわかるので、入社日もごまかせない。人事は通常、過去の職場の保険証を見せてなどといわないし、照会をするほどの時間もないが、応募者の中には勤め先の勤続年数を偽っていたりする人もいるだろう。だいたい、働かせてみたら、その能力でバレるのだが。
まあ、初対面で名乗った職業の信憑性を確かめたくば、相手の名刺よりも、その保険証を見せてもらうのがてっとり早い。
私は転職するたびに会社からもらった保険証をコピーをカラーで残してある。
そして、退職するごとに、次こそは絶対にこの勤め先よりもいい会社名に! 正社員に! 病院で出しても恥ずかしくない会社に! という根性で転職を繰り返してきた。いま勤め先は老舗だが地元での有名企業ではあるので、私は多いに気に入っているのだ。保険証が協会けんぽから、任意継続や、国保に変わると、金融機関や病院の窓口での対応も変わってきたりする。
日本の保険証は、それだけ社会に浸透し、信頼を勝ち取ってきたのだ。それをむざむざマイナ保険証として合体させる理由は何か? 引きこもり無職や低所得の事業主の多い国保の財政悪化を、会社員加入の健保組合や協会けんぽに肩代わりさせる腹積もりなわけだ。ちなみに国会議員は、大臣や政務官でないと共済加入できず、ただの国保らしいとのこと。
現在のように、職種や業界によって収入は異なり、収める保険料も異なるわけだから、各保険者ごとの健康保険制度のままのほうがよろしいのではなかろうか。
出産手当金などの増額の財源として社保料があがるのはまあわかるが、年金や保険制度が恵まれていない業界や職種にとどまる人はそれなりのリスクを自分で考えておくべきでは…と。それと医療費が無料の生活保護制度についてはより厳正な審査が必要なのは言うまでもない。
ちなみに、稀に他人に自分の保険証を貸す人がいるらしいが。
自分の健康情報がゆがんで蓄積されてしまったり、その相手が医療費を払わない場合、国保なら保険証を止められる可能性もあるので、絶対にやらないように。
(2023/07/29)
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