1996年の映画「戦火の勇気」(原題 : Courage under Fire)は、その頃、まだ終息してはいなかった湾岸戦争を扱った戦争映画。しかし、イラク人への敵意を描いたものではなくして、戦場に散ったある女性将校の叙勲を巡るミステリードラマ。
日本語字幕と、英語字幕で吹き替えでニ度鑑賞しなおしましたが、視聴を重ねるにつれ、何げない人物のつぶやいた言葉がとても重い意味をもっていたことに気づかされます。邦題のつけ方も、よく考え抜かれていると感じました。
湾岸戦争で戦車部隊を率いていたナット・サーリング中佐が、帰国後命じられた任務は、救助ヘリの女性パイロットである故カレン・ウォールデン大尉に関する調査。イラク兵の多くを占める戦火のさなかに果敢に飛び込み戦死を遂げたという、彼女がはたして名誉勲章授与に値する人物だったかどうか。史上初の女性の受賞者というビッグニュースに沸き立つホワイトハウスの思惑を尻目に、冷静に調査を続けるサーリングには、疑問が浮かぶ…。
生き残った部下四名の証言が食い違ってきたことで、さまざまに異なってくるウォールデン大尉という人物像。ヘリの操縦桿を握って墜落し収容されるまでの三日間意識不明だったレイディは、大尉こそ命の恩人だと言い放つ。衛生兵のイラリオは大尉には好感情的だが、何か隠し立てている様子。荒くれ者のモンフリーズは、彼女が臆病風に吹かれて錯乱状態にあったと口を割った。入院中のアルタマイヤーは、悪夢にうなされなにかに脅えていた。
そして、サーリングはある銃声の有無に着目し、証言者に再度揺さぶりをかけて、真実を引き出すことに成功する。
サーリングがおいそれと、上層部からの圧力によって、ウォールデン大尉を英雄と価値づけない裏には、自身の湾岸戦争での過失が絡んでいました。味方を敵だと誤認して、親友の男を死なせてしまった行為。なのに、上司は自分の責任逃れのためもあって、叙勲メダルと前線からの離脱によって事件を葬ろうとしている。
サーリングはこの自虐の念に駆られるため、酒に溺れ、妻との関係もぎくしゃくとしてしまいます。
ウォールデン大尉の死に関する真相が明らかになったとき、サーリングはみずからの過失を亡き親友の両親に告げるのです。サーリングは、その勇気を、どんな戦火にまみれても常に部下の安全を考え続け、悲しい最期を遂げたひとりの女性から教わったのでした。
奇しくも、サーリングが同士討ちを犯した日と、ウォールデン大尉の最期の日はおなじ。”Fire”(撃て)と命じて部下を死なせてしまった軍人の贖罪は果たされ、部下を助けるために”Fire”(ナパーム弾の砲火)を浴びてしまった軍人の無念は晴らされることになったのです。
噛み合ない部下の証言によりいくども再現される場面と、ラストにわずかながら見える人間の良心の輝き。この秀逸な構成は、黒澤明の「羅生門」を彷彿とさせます。米国が関わった戦争での、自国の兵士の虚実をえぐったものとしては、ベトナム戦争を扱った「プラトーン」にも近い感動を覚えました。
サーリング中佐役は、「ボーン・コレクター」や「フィラデルフィア」など知的な黒人役の似合うデンゼル・ワシントン。
血も涙もない鬼大尉から、部下思いの女性上司までと、幅広く演じ分けたのが、メグ・ライアン。ラブコメクイーンから勇ましい女性軍人への変わり身に、注目を集めました。
マット・デイモンは真相の鍵を握る小心者の優男で助演していますが、後年の「ボーン・アイデンティティ」でのマッチョぶりからは考えらないですね。役づくりのために、かなり減量したのでしょうか。
監督は「ラストサムライ」のエドワード・ズウィック。
(2010年2月9日)
戦火の勇気(1996) - goo 映画
日本語字幕と、英語字幕で吹き替えでニ度鑑賞しなおしましたが、視聴を重ねるにつれ、何げない人物のつぶやいた言葉がとても重い意味をもっていたことに気づかされます。邦題のつけ方も、よく考え抜かれていると感じました。
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湾岸戦争で戦車部隊を率いていたナット・サーリング中佐が、帰国後命じられた任務は、救助ヘリの女性パイロットである故カレン・ウォールデン大尉に関する調査。イラク兵の多くを占める戦火のさなかに果敢に飛び込み戦死を遂げたという、彼女がはたして名誉勲章授与に値する人物だったかどうか。史上初の女性の受賞者というビッグニュースに沸き立つホワイトハウスの思惑を尻目に、冷静に調査を続けるサーリングには、疑問が浮かぶ…。
生き残った部下四名の証言が食い違ってきたことで、さまざまに異なってくるウォールデン大尉という人物像。ヘリの操縦桿を握って墜落し収容されるまでの三日間意識不明だったレイディは、大尉こそ命の恩人だと言い放つ。衛生兵のイラリオは大尉には好感情的だが、何か隠し立てている様子。荒くれ者のモンフリーズは、彼女が臆病風に吹かれて錯乱状態にあったと口を割った。入院中のアルタマイヤーは、悪夢にうなされなにかに脅えていた。
そして、サーリングはある銃声の有無に着目し、証言者に再度揺さぶりをかけて、真実を引き出すことに成功する。
サーリングがおいそれと、上層部からの圧力によって、ウォールデン大尉を英雄と価値づけない裏には、自身の湾岸戦争での過失が絡んでいました。味方を敵だと誤認して、親友の男を死なせてしまった行為。なのに、上司は自分の責任逃れのためもあって、叙勲メダルと前線からの離脱によって事件を葬ろうとしている。
サーリングはこの自虐の念に駆られるため、酒に溺れ、妻との関係もぎくしゃくとしてしまいます。
ウォールデン大尉の死に関する真相が明らかになったとき、サーリングはみずからの過失を亡き親友の両親に告げるのです。サーリングは、その勇気を、どんな戦火にまみれても常に部下の安全を考え続け、悲しい最期を遂げたひとりの女性から教わったのでした。
奇しくも、サーリングが同士討ちを犯した日と、ウォールデン大尉の最期の日はおなじ。”Fire”(撃て)と命じて部下を死なせてしまった軍人の贖罪は果たされ、部下を助けるために”Fire”(ナパーム弾の砲火)を浴びてしまった軍人の無念は晴らされることになったのです。
噛み合ない部下の証言によりいくども再現される場面と、ラストにわずかながら見える人間の良心の輝き。この秀逸な構成は、黒澤明の「羅生門」を彷彿とさせます。米国が関わった戦争での、自国の兵士の虚実をえぐったものとしては、ベトナム戦争を扱った「プラトーン」にも近い感動を覚えました。
サーリング中佐役は、「ボーン・コレクター」や「フィラデルフィア」など知的な黒人役の似合うデンゼル・ワシントン。
血も涙もない鬼大尉から、部下思いの女性上司までと、幅広く演じ分けたのが、メグ・ライアン。ラブコメクイーンから勇ましい女性軍人への変わり身に、注目を集めました。
マット・デイモンは真相の鍵を握る小心者の優男で助演していますが、後年の「ボーン・アイデンティティ」でのマッチョぶりからは考えらないですね。役づくりのために、かなり減量したのでしょうか。
監督は「ラストサムライ」のエドワード・ズウィック。
(2010年2月9日)
戦火の勇気(1996) - goo 映画