1947年の映画「紳士協定」(原題 : Gentleman's Agreement)は、ユダヤ人排斥の暗黙のルールに立ち向かったジャーナリストの直面する苦悩を描いたドラマ。「波止場」で肉体労働者の悲哀を描き、「エデンの東」では双子の兄弟の葛藤と保守的な父親との確執をみごとに描ききった、社会派ドラマの名手エリア・カザンの傑作ドラマ。主演は、1962年にも黒人差別に果敢に挑む正義感あふれる弁護士を演じたグレゴリー・ペック。ジャーナリスト役はオードリー・ヘプバーン演じる「ローマの休日」でもありましたが、今回は、甘いロマンスで終わりそうにはありません。
売れっ子ライターのフィリップ・スカイラー・グリーン、通称フィルは、七年前に妻を亡くし、幼い息子トミーと母と暮らしている。
『週刊スミス』誌の編集長から招きを受けて、反ユダヤ主義の記事を依頼された。
これまで低所得労働者や浮浪者への体当たり取材で記事を書いてきたフィルは、みずからがユダヤ人になりきることで、反ユダヤ主義を体感しようとするが…。
採用されたばかりで顔なじみでないのをよいことに、ユダヤ人だとおおっぴらに名乗るフィル。しかし、自由主義を信条とする雑誌社でありながら、その内部にすら、根強い差別意識があることに、否応なく直面させられてしまいます。
社内で彼を観る目つきがどことなく変わり、事情を知る編集長を除いては、気を許せる社員は、ファッション担当ライターのアンだけ。心臓病が悪化した母を診る医者も暗にユダヤ人嫌悪を口にし、レストランでは同僚に煙たがられる始末。
フィルは、反ユダヤ主義を助長しているのが、他ならぬユダヤ人自身であることにも気づかされます。
ユダヤ人であることを隠しとおしている女性秘書、(アインシュタインがモデルと思われる)科学の業績を理由に自分がユダヤ人を超えて認められたと自負している教授。彼らは同胞を捨てて、社会進出のチャンスを得、優越感に浸ることで差別から目を背けている人間です。
そして、いちばんやっかいだったのが、表立っては反ユダヤ主義を唱えながら、じっさいは差別を許している「いい人たち」
フィルと恋仲になった編集長の姪キャシーは、反ユダヤ主義の記事執筆を発案した本人でありながら、ユダヤ人であることを装いつづけるフィルと気持ちがすれ違っていきます。そしてトミーが学校で虐めを受けたこと、戦線から帰国した友人のデヴィッドが罵られたことなどをめぐって、二人にも決定的な亀裂が。
最後は、キャシーが口では反差別を唱えながら行動に移せなかった自己を恥じ、フィルと寄りを戻します。
無言で多勢の見えない圧力に屈せず、正しいことを貫くことの勇気を力強く説いているドラマですね。「この世紀には、ユダヤもアメリカも、ソ連も原爆もなくなる。そんな世紀を長生きしてみたい」と語った母親こそ、まさにアメリカの希望の代弁者。ソ連はとうに崩壊し、大国としての米国も失速し、核軍縮の動きに傾いている現代がこの言葉においつくのには半世紀かかりました。
しかし、いまだすべての民族差別がなくなったとは言いがたいのでしょう。差別の本質には、偏見を見逃している多数派がいることを鋭く指摘しています。
本作は第20回(1947年)アカデミー作品賞、アカデミー監督賞(エリア・カザン)、アカデミー助演女優賞(セレステ・ホルム)を受賞。
(2010年2月22日)
紳士協定(1947) - goo 映画
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売れっ子ライターのフィリップ・スカイラー・グリーン、通称フィルは、七年前に妻を亡くし、幼い息子トミーと母と暮らしている。
『週刊スミス』誌の編集長から招きを受けて、反ユダヤ主義の記事を依頼された。
これまで低所得労働者や浮浪者への体当たり取材で記事を書いてきたフィルは、みずからがユダヤ人になりきることで、反ユダヤ主義を体感しようとするが…。
採用されたばかりで顔なじみでないのをよいことに、ユダヤ人だとおおっぴらに名乗るフィル。しかし、自由主義を信条とする雑誌社でありながら、その内部にすら、根強い差別意識があることに、否応なく直面させられてしまいます。
社内で彼を観る目つきがどことなく変わり、事情を知る編集長を除いては、気を許せる社員は、ファッション担当ライターのアンだけ。心臓病が悪化した母を診る医者も暗にユダヤ人嫌悪を口にし、レストランでは同僚に煙たがられる始末。
フィルは、反ユダヤ主義を助長しているのが、他ならぬユダヤ人自身であることにも気づかされます。
ユダヤ人であることを隠しとおしている女性秘書、(アインシュタインがモデルと思われる)科学の業績を理由に自分がユダヤ人を超えて認められたと自負している教授。彼らは同胞を捨てて、社会進出のチャンスを得、優越感に浸ることで差別から目を背けている人間です。
そして、いちばんやっかいだったのが、表立っては反ユダヤ主義を唱えながら、じっさいは差別を許している「いい人たち」
フィルと恋仲になった編集長の姪キャシーは、反ユダヤ主義の記事執筆を発案した本人でありながら、ユダヤ人であることを装いつづけるフィルと気持ちがすれ違っていきます。そしてトミーが学校で虐めを受けたこと、戦線から帰国した友人のデヴィッドが罵られたことなどをめぐって、二人にも決定的な亀裂が。
最後は、キャシーが口では反差別を唱えながら行動に移せなかった自己を恥じ、フィルと寄りを戻します。
無言で多勢の見えない圧力に屈せず、正しいことを貫くことの勇気を力強く説いているドラマですね。「この世紀には、ユダヤもアメリカも、ソ連も原爆もなくなる。そんな世紀を長生きしてみたい」と語った母親こそ、まさにアメリカの希望の代弁者。ソ連はとうに崩壊し、大国としての米国も失速し、核軍縮の動きに傾いている現代がこの言葉においつくのには半世紀かかりました。
しかし、いまだすべての民族差別がなくなったとは言いがたいのでしょう。差別の本質には、偏見を見逃している多数派がいることを鋭く指摘しています。
本作は第20回(1947年)アカデミー作品賞、アカデミー監督賞(エリア・カザン)、アカデミー助演女優賞(セレステ・ホルム)を受賞。
(2010年2月22日)
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