Blue ocean, White mountain, and Clear sky

All year around activities: SCUBA, Snowboarding, Paragliding

秋の浜リブリーザーダイビング レビュー

2020-11-29 16:50:01 | SCUBA diving

1.エントリー

 

 いま、私は伊豆大島の秋の浜の岩場の縁に立って、ダイビングに飛び込もうとしている。私が背負っているのは、Poseidon社製のSE7ENという潜水器材だ。普通のダイバーは背中に大きな空気タンクを一本背負って、そこから伸びた細いホースの先に付いたレギュレーターを咥えているが、私の背中には細長く小さなタンクが2本付いた四角い機械装置を背負い、そこから両肩の上を越えて2本の太い蛇腹ホースが口元まで延びて、ややごついマウスピースを咥えている。「かっこいい」と言ってくれる人もいるが、あまりスマートとは言えない格好であることは確かだ。

 

 この器材以外は、普通のダイバーとまったく同じ、ウェットスーツを着てマスクを付け、足にはフィンを履いている。今日は外部ストロボを付けた水中カメラも持っている。いま立っている岩の縁は海面から1mほどの高さがあるが、時折50cmを超える波が寄せてくると、足元近くまで海面がせり上がってくる。周期的に寄せてくる波のタイミングを見計らいながら、レギュレーターを咥えて一息大きく吸い込んで呼吸できることを確認し、飛び込んだ瞬間にマスクが外れないよう左手で押さえて、海面が静かになる瞬間を狙って真っすぐ立ったまま片足を前へ大きく一歩踏み出して、足から海面へ飛び込む。ジャイアントストライドというスタイルだ。勢いで一旦は頭まで水面下に沈むが、身に着けた器材に浮力が残っているので、間もなく水面に浮きあがる。マスクのストラップが頭の後ろから外れていないことを確かめたら、すぐに左手でBCDのインフレーターホース先端のボタンを押す。BCDは周囲の水圧で圧迫されて、内部の空気がインフレーターホースの先からブクブクと抜けて行く。さらに今度は息を大きく吐き出して、自分の肺の中の空気を排出する。肺活量の半分くらいの空気を吐き出すことが出来るはずなので、普通のスキューバダイビングならこれで23kgの浮力を失って、自然と体はゆっくり沈み始める。しかし今日背負っている潜水器材では、追加でやるべき事がある。まず口元のマウスピースの側面にあるレバーを14回転まわして“クローズ”に切り替えて、大きく息を吸い込む。そして今度はその息を全部鼻から吐き出すと、マスクの縁から漏れ出して排気される。ここで息を吐き切った状態で少し呼吸を止めて我慢していると、体は浮力を失って海底へ沈んでゆく。十数秒ほどで水深5mほどの海底に着底したら、普通に呼吸を始める。

 

 いま背負っている潜水器材は、Closed Circuit Rebreather(閉回路式潜水器)、略してCCRと呼ばれるタイプの器材だ。スキューバダイビングでは背中の高圧タンクに詰められた空気をレギュレーターを通して吸い込み、息を吐くと全部水中に放出する。吸い込むときには高圧の圧縮空気から水深に応じた水圧と同じ圧力に調整するために、シューっと大きな音がし、続けて息を吐き出すとブクブクブクと盛大に音を立てて泡が立ち上がる。これに対してCCRにはBCDの上半分両側にcounter lungと呼ばれる空気袋を備えている。口元のマウスピースは左右二本の太い蛇腹ホースを介してこの空気袋と繋がっていて、ダイバーが息を吸い込むと左側の空気袋の中の空気を吸い込むことになる。吐いた息は一旦右側の空気袋に蓄えられて、水中には放出しない。その後この吐いた息は背中の装置の中にある炭酸ガス吸収剤が入ったキャニスターを通って、そこで化学反応で二酸化炭素が取り除かれる。そのあと、この器材の心臓部となるマニフォールド部分において、電子制御されたバルブから酸素、または空気が必要なだけ補充されて、また左側の空気袋に戻ってくる。補充される気体は少量なので、一瞬”チュッ”っといった感じで吹き込まれるだけで、スキューバのような”シュー”っという大きな吸気音も発しない。自分の息を空気袋の中へ吐き出してまた吸い込む、静かな呼吸音しか聞こえない。ちょうど、医師が使う聴診器で聞く呼吸音と同じだ。息を吸うときに少しだけ吸い込む力が必要なので、レギュレーターから空気を押し込まれるような感じのスキューバと比べると、初めてCCRで潜った時には最初は「少し苦しいかな」と感じたが、その呼吸感覚にはすぐに慣れて、今はむしろCCRでの呼吸の方が自然な感じがする。

 

 既にマウスピース横のレバーは”クローズ”に切り替えたので、いま私はCCRの呼吸回路で普通に呼吸している。自分の肺とCCRの空気袋が二本の蛇腹ホースで結ばれて、息はこの間を行き来する。その途中で化学反応で二酸化炭素を取り除き、消費した分の酸素を電子制御で補充する。このシステムが正常に働いているかどうか、左腕に取り付けたPaddleと呼ばれる計器盤に表示されている。このPaddleの表示を見るが、異常を知らせる警告表示などは何も出ていないので、OKだ。水中カメラの方もストロボの向きなどを整えて、すべてOK。同行インストラクターのK君にOKサインを送って、いよいよダイビングを始める。

 

2.浮力調整

 

 左手でインフレーターを操作してBCDに少し空気を入れると、体は浮きも沈みもしない中性浮力となる。現在の水深は4m。これも左腕に付けているPaddleに表示されている。周囲は大きな岩が数多く転がっているので、真っすぐ泳ぐにはもう少し、あと50cmくらい浮上したい。ところがこの「少しだけ」浮上したり潜降するのが、CCRでのダイビングでは結構厄介なのだ。スキューバなら大きく息を吸い込むだけで1kg以上浮力が増すので、そのくらいはすぐに浮上出来る。続けて息を吐き出せばその浮力は無くなるので、浮上も止まる。少々の浮力調整は息の吸い加減と吐き加減で簡単に出来るのだ。ところがCCRでは息を吸い込んでも空気袋の中の気体を吸い込むだけなので、少しも浮力は増えない。潜降したいときも同じだ。吐き出した息はすべて空気袋に蓄えられるので、少しも浮力は減らない。体全体の浮力を調整する方法はただ一つ、BCDの空気量の調節だけだ。少しの浮力調整のためでも、いちいち左手でインフレーターを操作する必要がある。呼吸の深さの調節だけで簡単に浮力を調整できる術を身に着けた、ある程度熟練したスキューバダイバーにとっては、かなり煩雑に感じる。

 

 しかし、もう一つCCRで微妙な浮力を調整する方法があった。普通の呼吸で息を吸ったり吐いたりしている状態から、少し大きく息を吸い込むのだ。ある程度息を吸い込むと、空気袋の中の気体をすべて吸いきってしまう。そこからさらに、少し力を込めて息を吸い込むと、電子制御のバルブが作動して”チューッ”と気体が補充される。この分はそのままあらたな浮力となるのだ。吸い込む量を加減すれば、追加したい浮力も調整できる。手を一切使わずに浮力調整出来るので、ずいぶん便利だ。これで海底から50cmほど浮き上がって、スムーズに水平に泳げる。

 

 ただし4mという浅い水深では、少し浮上しただけでBCDや呼吸回路内の空気が大きく膨張するので、すぐに浮力が付き過ぎてしまう。この時もいちいちBCDを排気するのではなく、呼吸回路内の息を鼻から少し吐き出してやれば良いのだ。さらに、泳ぎ出してしまえばフィンキックの推進力の一部も浮上/潜降に使える。体を少し上向き/下向きに傾けて進めば、少しずつ浮上/潜降して行く。ここ秋の浜では飛び込んだ岩場から50mくらいは水深5mほどの浅い海底が続くので、しばらくは水深3~4mを維持して水平移動する。

3.酸素分圧の自動調整

 

 沖合へ向けて5分ほど泳ぐと、海底は深場へ続く斜面へ変わる。イサキの群れに囲まれる中を少しずつ潜降しながら、ガイドのK君を先頭に中層を沖合へ真っすぐ進む。この日は曇りがちの天気のため海中もやや薄暗いものの、透明度はまずまずで、水深30mに至るまで眼下に海底の砂地や転石が見えている。そろそろ目的とするー30m付近の岩壁を目指して潜降のペースを上げて、BCDに空気を足して潜降速度を調節しながらも海底へ急降下してゆく。

 

 CCRでは、基本的にはダイバーが体内で消費した酸素の分を、背中の2本のうち純酸素が詰められている方のタンクから補充する。加えて水深が増して周囲の水圧が高くなるにつれて、CCRの呼吸回路内の気体も圧縮されて体積が減った分、タンクから酸素もしくは空気を補充している。背中の方からバルブの作動音とガスが注入される音が頻繁に聞こえてくる。酸素だけを補充して行くと、呼吸する気体の酸素濃度はどんどん上がってゆく。酸素は人間が生きるのに欠かせない気体ではあるが、その一方で濃すぎる酸素もまた人間にとって有害な作用を持っている。具体的には、水深10mより深いところの水圧で100%の酸素を呼吸すると、突然意識を失って痙攣を起こすなど大変危険な状況を引き起こす。そこまで急激な症状を示さない場合でも、長時間濃すぎる酸素を呼吸すると肺を傷めてしまうらしい。これを防ぐため、CCRでは必要に応じて酸素以外の気体を補充して、酸素の濃度が濃くなり過ぎないように調節する。CCRでは酸素を詰めたタンクの他に、圧縮空気を詰めたタンクをもう一本装着するのは、この圧縮空気に含まれる79%の窒素を使って呼吸する気体の酸素濃度を調節するのが目的である。圧縮空気を詰めたタンクを”希釈ガス”と呼ぶ所以である。実際に様々な水深においてどのくらいの酸素濃度に調節するかは、結構複雑な計算が必要で、すべて電子制御で自動的に調整してくれている。その結果、いま呼吸している気体の酸素濃度は、常に手元のPaddleに表示されている。エントリーしてから13分後に水深32mの目的の海底に到着したとき、Paddleには現在の酸素分圧が1.2気圧と表示されていた。周囲の水圧は約4.2気圧なので、酸素濃度は1.2 ÷ 4.2 ≒ 29%ということになる。まぁ、自分が吸い込む空気中の酸素が陸上での21%より濃くなったところで、匂いも味も変わるわけでもなく、体では何も違いを感じることはない。ただ、30mくらいの深いところまで来ても、スキューバの様にレギュレーターから吸い込む空気が重くなって吸い難くなることはなく、CCRでは浅いところと同じように普通に呼吸できるように感じる。スキューバのレギュレーターでは調整バルブの細いノズルを通って出る空気が、水圧下で密度が増すにつれて呼吸抵抗が増大するが、CCRの呼吸回路にはそのような細いノズルがないためだろうか。

4.減圧停止不要限界

 

 秋の浜の水深30mから40mくらいの海底には、通称「際」と呼ばれている高低差3~4mのほぼ垂直の岩壁が真っすぐに伸びている。壁と言っても溶岩質で無数の穴や割れ目、凹凸があり、そこに数多くの生き物が棲みついているので人気の場所だ。いつもなら、その岩壁に沿って海底に張り付いて、珍しいサカナやエビ、カニ、ウミウシなどを探し始めるところだ。ところが今日は先頭のガイドのK君が突然岩壁の上へ上がって、さらにその先の砂地の斜面の方へ猛ダッシュで泳ぎ始めた。その視線の先には、なんと大きなニタリザメが悠然と泳ぎ去るところだった。距離は15mくらい離れていただろうか。長く伸びた尾の先まで入れると2m以上あろうか、ダイバーの身長よりはるかに大きかった。猛ダッシュしたところで、海中で泳ぎ去るサメに追い付くのは、最初から無理というもの。ほどなく追跡は諦めて、同行していた他のダイバーと共に、言葉は話せずとも身振り手振りで
「ニタリ、見た?
大きかったね~」
と喜びと興奮を共有した。やはりニタリは何度見てもカッコいい!

その後は岩壁に戻って、いつも通り手に持ったライトで岩の窪みや割れ目を照らしたり、壁面に生えているイソバナや海藻類を捲ったりして、何か珍しい生き物、可愛らしい生き物を探しながら、少しずつ少しずつ水深を上げてゆっくりと帰路についた。

 

 エントリーしてからすでに潜水時間は20分を過ぎて、最大水深は32mに達しているから、ガイドのK君を含めて同行している他のスキューバダイバーたちはそろそろ減圧停止不要限界に近付いているはずだ。ダイバーは皆、潜水中は深く潜るにつれて呼吸する圧縮空気の中の窒素が血液や体組織などに溶け込んで体内に蓄積されて、普通に陸上で生活している状態よりも多くの窒素が体内に溶け込んだ状態になる。この余分な窒素は浮上すれば吐く息と一緒に自然に排出されるのだが、それには少々時間がかかることが厄介な問題を引き起こす。浮上するペースが速すぎるとこの窒素を排出するスピードが追い付かず、吐いた息と一緒に排出される前に血液中や体組織の中で過飽和の状態で残ってしまう。これによって引き起こされるのが減圧症、別名潜水病とも呼ばれる障害だ。この危険を避けるためには、血液や体組織に溶け込む窒素の量を抑えるとともに、早めに浮上を開始してゆっくりと時間をかけて窒素を排出しながら浮上するしかないのだ。それでも体内に窒素が余分に残っている場合は、水面まで浮上するより手前で、例えば水深3mで少し水圧がかかった状態でしばらく停止して、そこで普通の呼吸を続けて窒素が十分に排出されるのを待つ必要がある。これが”減圧停止”という動作だ。最近のレジャーダイバーは皆ひとりひとりダイブコンピューターを携行して、このダイブコンピューターが各人の体内に溶け込んだはずの窒素量を計算し、潜水深度に応じてあと何分潜り続けたら浮上する途中で減圧停止が必要になるかを知らせてくれる。これが減圧停止不要限界だ。

 

 ところがCCRを使って潜っている私は、減圧停止不要限界がスキューバダイバーよりはるかに長い。私が呼吸しているCCRの中の空気は酸素の割合が多くなっているので、その分窒素の割合は少なく、血液や体組織に溶け込んでゆく速度が遅いのだ。だから、減圧停止不要限界のレベルまで窒素が溶け込むまでに要する時間が長いことになる。加えて、ゆっくりと浮上するに従ってCCRは呼吸する空気の中の酸素の割合をどんどん増やしてゆくために、引き換えに窒素の割合は減るので体内から排出される速度は速くなる。具体的にはたとえば、水深18mくらいまで戻って来た状態では、CCRは呼吸する気体の酸素濃度が常に1.2気圧になるよう調節するので、水深18mでの周囲の水圧は2.8気圧だから、酸素濃度は43%、同時に窒素濃度は57%、窒素分圧は1.6気圧となる。圧縮空気を使ったスキューバダイバーは、水深18mで呼吸する空気も酸素21%、窒素79%のため、窒素分圧は2.2気圧となる。体内に余分に溶け込んだ窒素は、窒素分圧が低いCCRのダイバーの方が速く排出されることになる。CCRの電子制御部分はこれらを随時計算してくれるので、CCRを使って潜っている限り減圧停止不要限界に近付いてPaddleに警告表示が現れることは、ほとんどない。もちろん、あまりに深く長く潜っていれば、いくらCCRを使っていても減圧停止が必要になる可能性はあるが。

 

 私はこれまで数多くこの秋の浜にスキューバで潜ってきたので、最大水深32mで潜水時間が20分を過ぎる頃には大抵ダイブコンピューターが減圧停止不要限界を知らせてくるし、それを過ぎると浮上途中で減圧停止しなければならない時間がどんどん増えて、そのために必要な圧縮空気も残しておかなければならないので、否が応でもダイブコンピューターの表示が気になってくる。しかし今、CCRで潜っているとその心配はまだ程遠く、安心して同じ水深に滞在して写真撮影などに集中できるのだ。この安心感は、水中での活動のストレスを大きく軽減してくれる。ストレスの少ないダイビングは、より安全で楽しい活動に結びつくことを実感できる。

5.気泡のない静寂

 

 あちこち寄り道して様々な生物を観察したり撮影したりしながらゆっくりと水深を上げて戻ってくる途中、ガイドのK君が砂地で前方を静かに指さして、チンアナゴの存在を知らせてくれた。チンアナゴは体の大部分を砂の中に潜らせて、頭だけ出して周囲を警戒しながら流れてくるエサを捕食する。とても警戒心の強いサカナだ。大抵は周囲に何匹か集団で生息しているが、この日は一匹だけ頭を出していたのでなおさら臆病で、近付くとすぐに砂の中に引っ込んでしまう。

 

 ただ、この日のこのチンアナゴは一度砂の中に引っ込んでしまっても、ダイバーなど危険が遠ざかるとすぐにまた出て来てくれる、性格の良い子だ。私は一旦手前に下がって、自分の体をチンアナゴと垂直の方向に真っすぐ伸ばして静かに着底し、頭も低くして、チンアナゴから見える姿を少しでも小さくして怖がらせないよう努めた。そしてカメラとストロボの各種撮影パラメーターを調節した上で、威圧感を与えないようストロボも上方からではなく側方から当てるように整えて、腕を思いっきり伸ばしてカメラだけゆっくりとチンアナゴに近付けて行った。

 

 スキューバで潜っていてこのような臆病なサカナを撮影するときは、息を止めた状態でジワリと近寄って、そのまま一枚かせいぜい2枚シャッターを切ったら、息を止めたまま後ろへ下がってある程度距離を離してから、ようやくこらえた息を静かに吐いて呼吸を整えたりする。距離を離れられない時は、少しずつプクップクッといった感じで時間をかけて静かに息を吐き、吐き出す泡で驚かせるのをなるべく抑えるよう努める。どちらの場合でもこんな呼吸でしばらく被写体と格闘していると、換気不良で次第に頭が痛くなってくる。その点、今日はCCRで潜っている。普通に呼吸を続けている間、一切気泡が出ないのだ。シャッターを急ぐ必要は全くない。普通に呼吸を続けながら、いつも以上に接近していつまででもじっくりとシャッターチャンスを待つことが出来る。今日のチンアナゴは、自分史上もっとも接近して撮影出来たと思う。

 ただし、CCRは終始一切気泡を出さない訳ではない。秋の浜でのダイビングの終盤には、水深10mの海底から水深5mまで約5m垂直に立ち上がる岩壁がある。「段落ち」と呼ばれている場所だ。その段落ちを上がろうとゆっくり浮上しているとき、頭上の水面近く、水深3mくらいをアオリイカの群れが泳いできた。自分との距離はまだ10m以上ある。カメラのズームを少し広角側に引き、ストロボの位置と向きも変えて、より接近を試みた。ここで盛大に呼吸の泡を出しながら泳いで接近すれば、相手は当然逃げる。その点、今日はCCRのおかげで呼吸で排出する泡は皆無だ。容易にアオリイカとの距離を詰めることが出来る。しかし相手はまだ3m以上頭上にいる。この、頭上にいる相手への接近が厄介なのだ。特に今回は水深10mより浅いので、なおさらだ。自分の水深が少しでも浅い方へ浮上すると、BCDの中、自分の肺、そしてCCRの呼吸回路の中の気体はすべて膨張する。この膨張した気体は排出しないと、そのまま浮力が増大して意図した以上に浮上してしまう。どんな器材を使っていても、ダイビング中は急な浮上は減圧症に繋がるので絶対にやってはいけない。BCDの空気はインフレーターから放出するとともに、CCRの呼吸回路の膨張した空気は自分で鼻から吐き出す必要がある。やはりアオリイカに接近するために浮上に伴って、スキューバでの呼吸の排気よりはずっと少ないとは言え、これらの排気の泡が立ち上がってしまう。アオリイカたちは当然泡を嫌って遠ざかって行ってしまった。

6.振り返り

 

 かくして、CCRを使っての秋の浜でのダイビングも一本、楽しく安全に終えることが出来た。最大水深32m、平均水深12.9m、潜水時間は70分だった。ガイドのK君をはじめ、馴染みのショップのダイビング友達と一緒なので、このパターンはいつも秋の浜で潜る時とほぼ同様だ。

 

 しかし、スキューバダイビングと大きく違った事が一つある。この日はこの一本を含めて午前・午後併せて3本秋の浜で潜った。スキューバでは一本ダイビングを終える毎にタンクをフル充填の新しいタンクに交換するが、この日の私はダイビングの合間にタンクを交換したり追加で充填することなく、3Lの各1本の酸素と希釈ガス(空気)のタンク合計2本だけで3回潜った。合計の潜水時間は190分、実に3時間を超えた。それでも酸素タンクには69気圧、希釈ガスの空気タンクには68気圧が、3回のダイビング終了後も残っていた。スキューバでのファンダイビングと同じような潜水計画と深度、時間、コース取りで潜っている限り、ダイビング途中でのエア切れの心配からは完全に開放されたように感じる。私が自分のレジャーとしてダイビングを楽しむ中で、このエア切れの心配から解放されることはダイビング中のストレスを大幅に軽くしてくれて、その分一層安全で楽しく充実したダイビングにつながると実感している。

 

(完)



最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。