独裁政権時代から盧武鉉政権に至る40年余の韓国政治のなかで、〈反米感情〉はいつの時代にもわき上がった。そしていまわき上がっている〈反米感情〉の奥底に潜む本音とは何か?
■〈反米感情〉の本音
これまで韓国では三回、〈反米感情〉が吹き出したことがあった。
初めは1970年代初頭、朴正熙独裁政権に反対する学生運動が盛んだった時期で、政治の構図でいえば民主化勢力対反民主化勢力の対立だった。朴正熙政権は民主化勢力を力で押さえ、親米路線を突き進んだ。ふたつ目は1980年の光州事件のときだった。アメリカは独裁政権であっても親米であれば支持する、と公言し、光州市民の怒りに火を点けた。そして3回目が女子中学生の死亡事件だった。
いったいにいま韓国で芽生えている〈反米感情〉の深層はなにか、若手評論家としてテレビや新聞などで活躍中の韓国外国語大学 李相桓教授は、次のように分析する。
「いま反米感情を募らせているのは普通の市民たちです。運動の性格もSOFA協定の不平等性や基地がもたらす環境破壊だけに止まらず、アメリカ国民の韓国を卑下したような見方、裏を返せば優越意識に対する拒否行動となって広がったのです」
これを政治的な構図で示せば、独裁政権時代のような〈民主勢力〉対〈反民主勢力〉ではなく〈進歩派〉対〈保守派〉の図式に変わった。〈保守派〉はアメリカ軍撤退に反対し、南北統一にも距離を置く。〈進歩派〉はアメリカ軍の再編や縮小に理解を示し、南北統一にも目を向ける。いまはその〈進歩派〉が政権の座にあり対北朝鮮政策を進めている。
このようなきっかけを作ったのが金大中前大統領が始めた〈太陽政策〉であり、さらに大きなきっかけとなったのは、アメリカにブッシュ政権が誕生したことだった。
「太陽政策を阻もうとしたのはまさにブッシュ政権であり、それに呼応した韓国内の保守派、すなわち反統一勢力でした。この勢いに対抗する形で、反米・親北朝鮮勢力からの流れが加速されたんです。これを国際政治という視点から見ると、南北関係の改善を阻むのがアメリカということになります。盧武鉉政権を支持する人たちから見れば、アメリカこそ国際的反統一勢力です。従って、わが国における反米感情というものは、韓国とアメリカの対北朝鮮政策の対立から生まれたものなのです」
韓国を信頼できないため北朝鮮の核情報を共有できない、という谷内正太郎事務次官の発言は、まさにこのような脈絡のなかで生きてくる。オフレコだったはずの谷内発言がどうして漏れたのかは不明だが、盧武鉉政権内で静かに進行するアメリカ離れが事実であればあるほど、否定しなければならないのは外交の常でもある。
最後に李相桓教授は韓国の若者たちの思考のひとつだ、といってこんなエピソードを話してくれた。
北朝鮮の核問題に関連して、彼らはアメリカの先制攻撃論に与するのだったら、むしろ北朝鮮が核兵器を保有していたほうがずっといい、と思っている、というのである。なぜならば統一されたあかつきには、韓国というひとつの国家が核を保有することになるのだから、アメリカに対抗していく上ではそのほうが望ましい、というのである。
極論かも知れない。しかしこれは〈反米感情〉の奥底に潜む本音なのだと、誰が否定できるのだろうか。(終わり)
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