《以下引用》
「拿捕・脱北者(北朝鮮を脱出した人)人権連帯は12日、北朝鮮へら致された金英男(キム・ヨンナム)氏の家族と共に記者会見し「金氏家族に横田めぐみさんの家族を会わせるなど、金氏問題の解決に努力したい」と述べた。人権連帯の都希侖(ド・ヒユン)事務総長は、(中略)会見で「韓国政府が21日に予定された南北(韓国・北朝鮮)閣僚級会談で、金氏問題に関連、国民と家族が納得できる成果をあげるべき」だとした。(中略)金英男氏の母親チェ・ゲウォル氏(82)は「北朝鮮にいる息子に一日も早く会わせてほしい。死ぬ前に息子の顔を一度見たい」とした。同氏は「孫娘(金ヘギョン)にも会いたい」と涙を流した。金氏の姉ヨンジャ氏(47)は「東京にいる横田さんの両親も私たちと同じ心情だろう」とし「会って、どうすべきかについて話し合う考え」と語った(4月12日韓国『中央日報』)《引用ここまで》
記事に登場する都希侖(ド・ヒユン)事務総長は、私もよく知っている人物である。韓国の人権問題に果敢に取り組んできた人物で、特に北朝鮮との関係において、韓国政府の手ぬるさには厳しい批判を重ねてきていた。
しかしこれまで、いまの政権が彼の意見を素直に汲み取ってきたわけではない。しかし今回、都希侖氏は、日本と韓国の拉致被害者家族らが連帯を組み始めることで、流れが変わる可能性を見いだしたのだろうと思う。
昨日、私が危惧したとおり、韓国の政府が苦慮している、と日本のマスコミは一斉に報じている。日本の主張に歩み寄れば、〈太陽政策〉のもと、これまで良好な関係を維持してきた金正日政権との関係が崩れるかも知れない、しかし、日本の主張をむげにすれば、逆にそれはそれで日韓、韓米の関係を決定的に悪くする・・・。そのジレンマである。
金大中政権、盧武鉉政権と続いた〈太陽政策〉という対北朝鮮融和策の中で、北朝鮮に拉致された485人の韓国人のその家族たちは、北朝鮮を「刺激」したくない、という一点のために、声を上げることすらはばかれるような状態におかれてきた。韓国の対北朝鮮外交では、常に政治が人権に優先されたからである。
そういう実態を、私は何度となく目にしてきた。今日から4回の予定で、韓国人拉致被害者とその家族が舐めた辛酸をお送りしたい。
題して『拉北者たちの沈黙』の第1回。「拉北者」とは北朝鮮に拉致された人たちのことをいう。
□日本人拉致
小泉首相と金正日総書記との会談で、金正日総書記が日本人5人の拉致を認めたことは衝撃的だった。だがもっと衝撃的だったことは、拉致された別の8人はすでに死亡していた、といって北朝鮮から渡され、政府が〈遺族〉に手渡した死亡診断書などの報告書の内容だった。というのも、北朝鮮から提出された書類からは8人が死亡したとされる根拠が皆無だったからだ。
なにかが隠されている、私はそう実感した。
しかし確かめる術はひとつしかなかった。それはかつて北朝鮮で対南工作などを担当していた脱北者たからの情報を得ることだった。
そのひとり李相(イ・サンチョル)氏。
彼は朝鮮労働党作戦部の元工作員で、1983年12月、釜山の海岸で工作員を連れ帰ろうとしたとき、事前の密告によって逮捕された、という。本人の弁によれば、基本的には海から工作員を陸上に送り込む、逆に陸から船に工作員を連れ戻すという任務だった。日本の山口県にも工作員を送り込んだことがある、日本に入り込むのは簡単だった、といって李相氏はこうつけ加えた。
「日本の沿岸では誰も警備にあたっていませんし、ときに巡視船に見つかることもありましたが、北朝鮮の工作船だとわかっても、発砲してくるわけではありません。せいぜい発煙筒を焚いたり飛行機が低空から出て行け、というぐらいでしたからね」
工作員だったというその李相氏に、金正日総書記が認め謝罪したという日本人拉致問題について聞いてみた。
― 5人生存、8人死亡という北朝鮮の発表をどう思いましたか?
「日本人を拉致した理由は日本語を工作員に教えるため、日本の生活や風習、習慣を工作員に教えるためでした。死亡したという発表をしたのは、彼らは対南工作部署に所属していたために、もし生きていると発表してしまったら、日本に帰さなければならないことになる。対南工作に関わっていた彼らを帰すということになれば、北朝鮮が行ってきた対南工作の全貌が暴露されてしまいます。それはできない、だから死んだことにしてしまったんだと思います」
― なぜ日本人拉致が必要だったのでしょうか?
「1945年、日本から解放されて間もなく朝鮮半島は分断され、南北は敵対関係に入りました。最初北朝鮮では帰国事業で祖国に戻った在日同胞が対南工作に駆り出されましたが、70年代になると彼らは引退してしまったため、新しく日本人になりすますための教育者が必要になったのです。日本人拉致はこの必要性のなかで始まったのです。なかには日本にある朝鮮総連を使えばいいではないか、という意見もありましたが、彼らは表の顔として合法的に使ったほうがいいという結論だったのです」
― 日本人になりすます、ということはどんな利便があるのでしょうか?
「身分を合法化させるためです。朝鮮総連や韓国人ではチェックされるのではないかという不安がいつもあります。完全に日本人になりすますことができれば日本での活動も、日本を拠点に東南アジアや外国での迂回工作などやりやすくなります。なんといっても日本人は信用される身分なのですから」
― 拉致された日本人はどこに連れて行かれるのでしょうか?
「まず拉致したら、彼らの調査が始まります。その結果使い道があると判断されれば一定の教育のあとに、彼らは対南工作機関に勤務することになります。使い道がない、と判断されれば一般社会に送り出され、特別の管理体制のなかで生活することになります」
― 対南工作はなぜ必要だったのでしょう?
「北朝鮮の目的はいまも昔も赤化統一です。1960年代、70年代、独裁国家だった韓国では反独裁・民主化のデモが盛んに行われていました。このデモをさらにあおりながら、武装蜂起が可能になるぐらいにまで独裁政権を追い込み、その上で正規軍の投入を図る、こうした赤化統一のシナリオに近づくためには、まず北朝鮮からの工作員を大量に送り込むことが必要だったのです」
― 金正日総書記の謝罪にはどんな意味がありますか?
「北朝鮮は経済的には相当落ち込んでいます。経済改革を断行しましたが、なにしろ資材や原料がありません。太陽政策のお陰で韓国からの援助があるとはいっても限界があります。だから謝罪したんです」
「もうひとつは、アメリカとの関係です。アメリカは北朝鮮を悪の枢軸と呼び、イラクの次は北朝鮮だと脅しています。それを避けるためには南北関係を円滑にさせることで韓国を味方につけ、次いで日本とは国交樹立を図ることができれば、アメリカからの圧力を弱めることができると踏んだからでしょう」
金正日総書記が日本人拉致を認め、謝罪したというニュースは、南北の分断この方大きな声を上げることもできないまま、社会の一隅でひっそりと暮らさざるを得なかった人々には、とりわけ大きな驚きを持って受け止められた。
私がそういう人たちの存在を知ったのは、1枚の手紙のコピーを見せてもらったときからだった。(第2回に続く)
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