参議院選挙までには、いよいよネット選挙運動が解禁される可能性が高くなってきている。
ネット選挙運動の法的問題点については、情報ネットワーク法学会が特別講演会「ネット選挙運動の現状と課題」を2010年10月2日に開催した。
http://in-law.jp/bn/2010/index-20100916.html
その際に登壇された岡村久道先生が法的な論点を整理されており、私自身も何本かネット選挙運動の問題点に関する論考を公開している。
「アメリカにおけるインターネット上の選挙運動の一断面 ──Vote-Pairing規制をめぐって──」『九州国際大学法学論集』14巻1号(2007年7月)51-79頁
「アメリカにおけるインターネット選挙運動の規制」『九州国際大学法学論集』17巻1号(2010年)71-115頁
「韓国の公職選挙法におけるインターネット利用の規制に関する条項」『九州国際大学法学論集』17巻2号(2010年)43-117頁
現行の公職選挙法に関係する法的な論点は、ネット選挙研究会編『公職選挙法に基づくインターネット選挙要覧』(国政情報センター、2012年)に集約されているが、論点はほぼ出尽くした感があり、あとはまさに政治の決断次第である。
したがって今後の論点は、ソーシャルメディアの利用に関する部分と、実際にネット選挙運動が解禁された後の公職選挙法違反事例の取締の実効性の確保に移ってくるであろう。
選挙運動のために使用されるインターネット上のサービスの例としては、従来はホームページやブログ、電子メール等が想定されてきた。しかし近年は、情報の発信者と受信者との間での双方向のコミュニケーションにとどまらず、ユーザー間のコミュニケーションやユーザー間の人的結びつきを利用した情報流通など、社会的な要素を含んでいることを特徴とするいわゆるソーシャル・メディア、ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)が利用されるようになってきている。
これらのインターネット上のサービスは、日本の事業者によって提供されているものもあるが、ソーシャル・メディアやSNSはFacebookやtwitterのように海外の民間事業者によって提供されるものが少なくない。また検索サイトについては、電子メールや地図、ストリートビューなど多様なサービスを包含する形でGoogleが世界的に非常に大きなシェアを持っている。動画共有サイトであるYoutubeもその傘下に入れているが、Googleもアメリカのカリフォルニア州に本社を置く海外事業者である。
多くの国々では重要な産業を外国資本が所有することについての規制(外資規制、外国性排除)を行っている。情報通信や放送、言論等の領域でも、外資規制が行われている例は非常に多い。
また放送については、放送の社会的な役割・公共的性格に応じて、電波法および放送法によってさまざまな規制が導入されている。外国人には放送施設の免許が与えられず、外国人が役員に就任することや、日本の放送局の株式を所有することについての上限が定められている。さらに放送は、放送法によって放送番組の表現内容に関する規制も行われている。放送法では、放送局に対して政治的中立を要求し、放送番組の編集の基準を定めて公開するように求めている。
また電気通信事業法では電気通信事業者やそれに従事する者に対して通信の秘密を守ることを要求している。
現時点においては、インターネット上で提供されているSNSの多くは「サービス」であり、「放送」や「電気通信事業」には当たらないと解されている。このため、外資規制や表現内容規制、通信の秘密を保護する義務等をこれらのサービスは負っていない。仮にこれらのサービスに対しても外資規制や表現内容規制、通信の秘密を保護する義務を課したとしても、FacebookやGoogleのような海外の民間事業者に対し日本の法律の規定を適用するのは難しい。他方、日本の民間事業者だけが規制を受け、海外事業者には全く規制が及ばないとすれば、イコール・フッティングの観点から問題が発生する。
1995年のインターネット商用利用の解禁以来、すでに20年近くが経過した。匿名性や自由というインターネットの初期の特質は失われつつあり、個人の有権者がブログ等で発言することの自由を守り、他方では組織的かつ大規模な情報発信や、通信回線事業者やサービスプロバイダ、サーチエンジン等による情報コントロールからネット空間の中立性を守ることの両立は、決して容易ではない。このことは、ネット選挙運動がまさに一国の政治に関係するだけに、非常に大きな影響を与える要素である。
公職選挙法違反事例の取締の実効性の確保に関して、尖閣諸島中国漁船衝突映像流出事件(尖閣ビデオ流出事件)が参考になる。この事件において、捜査当局である東京地検は、投稿者に関する通信記録を押収するため、Youtubeを運営するGoogleに対する差し押さえ令状を取ったとされるが、結局、Youtubeを運営するGoogleが任意で情報提供に協力したとされている。
尖閣ビデオに関する一連の通信記録やビデオの画像データ自体が、どの国にあるサーバに実際に蔵置されているのかは明かではないが、Googleがアメリカ合衆国に本社を置く外国企業である以上、Googleが共犯者となっている場合でもないかぎり外国に対して差し押さえを実行するのは実務上きわめて困難であろう。
ネット選挙運動の法的問題点については、情報ネットワーク法学会が特別講演会「ネット選挙運動の現状と課題」を2010年10月2日に開催した。
http://in-law.jp/bn/2010/index-20100916.html
その際に登壇された岡村久道先生が法的な論点を整理されており、私自身も何本かネット選挙運動の問題点に関する論考を公開している。
「アメリカにおけるインターネット上の選挙運動の一断面 ──Vote-Pairing規制をめぐって──」『九州国際大学法学論集』14巻1号(2007年7月)51-79頁
「アメリカにおけるインターネット選挙運動の規制」『九州国際大学法学論集』17巻1号(2010年)71-115頁
「韓国の公職選挙法におけるインターネット利用の規制に関する条項」『九州国際大学法学論集』17巻2号(2010年)43-117頁
現行の公職選挙法に関係する法的な論点は、ネット選挙研究会編『公職選挙法に基づくインターネット選挙要覧』(国政情報センター、2012年)に集約されているが、論点はほぼ出尽くした感があり、あとはまさに政治の決断次第である。
したがって今後の論点は、ソーシャルメディアの利用に関する部分と、実際にネット選挙運動が解禁された後の公職選挙法違反事例の取締の実効性の確保に移ってくるであろう。
選挙運動のために使用されるインターネット上のサービスの例としては、従来はホームページやブログ、電子メール等が想定されてきた。しかし近年は、情報の発信者と受信者との間での双方向のコミュニケーションにとどまらず、ユーザー間のコミュニケーションやユーザー間の人的結びつきを利用した情報流通など、社会的な要素を含んでいることを特徴とするいわゆるソーシャル・メディア、ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)が利用されるようになってきている。
これらのインターネット上のサービスは、日本の事業者によって提供されているものもあるが、ソーシャル・メディアやSNSはFacebookやtwitterのように海外の民間事業者によって提供されるものが少なくない。また検索サイトについては、電子メールや地図、ストリートビューなど多様なサービスを包含する形でGoogleが世界的に非常に大きなシェアを持っている。動画共有サイトであるYoutubeもその傘下に入れているが、Googleもアメリカのカリフォルニア州に本社を置く海外事業者である。
多くの国々では重要な産業を外国資本が所有することについての規制(外資規制、外国性排除)を行っている。情報通信や放送、言論等の領域でも、外資規制が行われている例は非常に多い。
また放送については、放送の社会的な役割・公共的性格に応じて、電波法および放送法によってさまざまな規制が導入されている。外国人には放送施設の免許が与えられず、外国人が役員に就任することや、日本の放送局の株式を所有することについての上限が定められている。さらに放送は、放送法によって放送番組の表現内容に関する規制も行われている。放送法では、放送局に対して政治的中立を要求し、放送番組の編集の基準を定めて公開するように求めている。
また電気通信事業法では電気通信事業者やそれに従事する者に対して通信の秘密を守ることを要求している。
現時点においては、インターネット上で提供されているSNSの多くは「サービス」であり、「放送」や「電気通信事業」には当たらないと解されている。このため、外資規制や表現内容規制、通信の秘密を保護する義務等をこれらのサービスは負っていない。仮にこれらのサービスに対しても外資規制や表現内容規制、通信の秘密を保護する義務を課したとしても、FacebookやGoogleのような海外の民間事業者に対し日本の法律の規定を適用するのは難しい。他方、日本の民間事業者だけが規制を受け、海外事業者には全く規制が及ばないとすれば、イコール・フッティングの観点から問題が発生する。
1995年のインターネット商用利用の解禁以来、すでに20年近くが経過した。匿名性や自由というインターネットの初期の特質は失われつつあり、個人の有権者がブログ等で発言することの自由を守り、他方では組織的かつ大規模な情報発信や、通信回線事業者やサービスプロバイダ、サーチエンジン等による情報コントロールからネット空間の中立性を守ることの両立は、決して容易ではない。このことは、ネット選挙運動がまさに一国の政治に関係するだけに、非常に大きな影響を与える要素である。
公職選挙法違反事例の取締の実効性の確保に関して、尖閣諸島中国漁船衝突映像流出事件(尖閣ビデオ流出事件)が参考になる。この事件において、捜査当局である東京地検は、投稿者に関する通信記録を押収するため、Youtubeを運営するGoogleに対する差し押さえ令状を取ったとされるが、結局、Youtubeを運営するGoogleが任意で情報提供に協力したとされている。
尖閣ビデオに関する一連の通信記録やビデオの画像データ自体が、どの国にあるサーバに実際に蔵置されているのかは明かではないが、Googleがアメリカ合衆国に本社を置く外国企業である以上、Googleが共犯者となっている場合でもないかぎり外国に対して差し押さえを実行するのは実務上きわめて困難であろう。