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『人魚のお姫さま 天性の才能の根拠』 鬱を消す絵本
原作：Hans Christian Andersen 「人魚姫」
海の底の一番深いところには、人魚の王さまの城があり、王さまは孫むすめである六人の人魚姫を可愛がっていました。特に一番下の人魚姫が美しかったものの、彼女たちは皆、足がなく、尾びれを持っていました。静かで考え深かったこのお姫さまは、光る太陽に似た赤い花や、海の底で見つけた白い大理石の少年の像を大切にしていました。彼女はおねえさまたちが海の上に浮かぶ姿を毎晩見送るたびに寂しさを感じていましたが、涙を流すことができなかったため、その思いはさらに募りました。
False princesses cannot shed a tear.
やがてお姫さまは十五歳になったので、海の上に浮びあがってもよいことになりました。ある日、嵐のため船が難破しました。人魚姫は、海底へと落ちていく王子を見つけ、彼を救うために水面に導きました。人魚姫は、王子さまにキスをして、どうか生きていてくれますようにと心の中で祈り、他の人々が駆けつけるのを遠くから見守ります。しかし、王子は、自分を救ったのが、岸辺の修道院の一番若い娘であることを信じて疑いませんでした。
「ああ、王子さまは、あたしが命を助けてあげたことをごぞんじないんだわ」と、人魚のお姫さまは心の中で思いました。
「あたしが、海の上を、修道院のある森のところまで連れていってあげたのに。それから、あたしは、海のあわをかぶって、だれかこないかと見ていたんだわ。そうしたら、きれいな娘さんがきたんだわ。その娘さんを、王子さまは、あたしよりも好いていらっしゃる」
人魚姫は、深いため息をつきました。けれども、涙を流して泣くことはできませんでした。
「そのむすめさんは、一生修道院につかえているんだと、王子さまはおっしゃったわ。そうすると、この世の中へは出てこられないんだから、おふたりはもう会えない。それにくらべれば、あたしは、こうしておそばにいて、毎日毎日、お顔を見ている。あたしは、王子さまのお世話をしてあげよう。心から王子さまをお慕いしよう。そして、王子さまのためなら、この命も喜んで捧げようささげよう」
お姫さまは人間になることができれば、死なない魂を持つことができるかもしれないと考え、海の上のことを知っているおばあさまに尋ねました。おばあさまは、人間には死なない魂があり、愛されることでその魂を得られることを教えてくれました。しかし、王子を想う人魚姫は、その魂を持たないことが悲しかったのです。人魚姫は、王子のために何でもする覚悟を決め、海の上で人間の姿に変わるために毒薬を飲み、美しい足を手に入れます。とがった針か、するどいナイフの上を踏んでいるような思いがしました。けれども、このくらいの苦しみは喜んで我慢しました。
The soul that never dies is gained by being loved.
王子は、「口のきけない捨て子さん」と人魚姫を呼んで、おとなしい、かわいい子供をかわいがるように、可愛がっていたのです。ですから、お妃にしようなどとは、夢にも思っていませんでした。
ところが、そのうちに、王子は結婚することになりました。そして王子の結婚話を耳にすることで、運命が変わることを人魚姫は理解します。王子が隣国の王女と結婚することが決まり、その王女が、王子の探し求めていた修道院の娘であることを知ったとき、人魚姫は深い絶望に暮れます。王子と王女の結婚の夜、おねえさまたちが、海の面へ浮びあがってくるのが見えました。「お日さまがのぼらないうちに、あなたは、これで、王子の心臓を突き刺さなくてはいけないのよ。王子のあたたかい血が、あなたの足にかかると、足がちぢこまって、また、さかなのしっぽが生はえるのよ。だから、また、もとの人魚になれる。そうして、水の中へはいって、三百年も生きていられるのよ。」お姫さまは、鋭いナイフをじっと見つめました。それから、また目を王子にむけました。王子は夢のなかで、花嫁の名前を呼びました。ほかのことは、すっかり忘れて、王子の心は、ただただ花嫁のことでいっぱいだったのです。人魚姫の手の中で、ナイフがふるえました。
There is no greater love than to lay down one's life for love.
しかし、その瞬間、人魚姫は、ナイフを遠くの波間に投げすてました。すると、ナイフの落ちたところが、まっかに光って、まるで血のしたたりが、水の中から噴き出たように見えました。お姫さまは、なかばかすんできた目を開いて、もう一度王子を見つめました。と、船から身をおどらせて、海の中へ飛びこみました。自分のからだがとけて、あわになっていくのがわかりました。彼女は自らが泡になって消える運命を受け入れ、明るい日差しの中で優しい音楽が響く魂の世界へと旅立ちます。
人魚姫は生まれて初めて涙を流し、王子に微笑みを送ることで彼に愛を伝えました。