歯科医物語

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 リンパ浮腫

2023-02-23 03:58:19 | ☆医療・歯科(口腔外科)医療について
概念・定義
 リンパ管の発生異常や傷害によってリンパ還流障害が起こり,毛細血管から漏出した組織間液がリンパ管の輸送処理能力をこえて組織間隙に貯留した状態と定義される.したがって,心不全や腎不全など全身疾患による浮腫や深部静脈血栓症など静脈還流不全による浮腫とは区別される.
分類
 リンパ浮腫は,その原因により一次性(特発性,原発性,本態性)と二次性(続発性)に分類される.
1)一次性リンパ浮腫:
リンパ浮腫の原因となる疾患や既往が不明なものである.発症には,リンパ管の低形成あるいは過形成が関与していると考えられる.一次性リンパ浮腫は,発症時期と遺伝子異常の有無によって細分類される(表5-19-1).
2)二次性リンパ浮腫:
悪性腫瘍,感染,外傷やリンパ節郭清,放射線治療など何らかの疾患あるいは疾患の治療が原因で,リンパ管の閉塞や損傷を起こし,その結果としてリンパ浮腫を生じたものである.発生頻度は,二次性リンパ浮腫がリンパ浮腫全体の80~90%を占め,原因として医原性が最も多い.





 a)医原性:子宮癌,卵巣癌,前立腺癌や膀胱癌などの手術で,骨盤内のリンパ節郭清が行われると,リンパ節やリンパ管が消失するため,下肢のリンパ還流が障害される.同様に乳癌で腋窩リンパ節の郭清が行われると,上肢のリンパ還流が障害される.また放射線治療後にはリンパ管の線維化が起こり,リンパ還流が障害される.
 b)悪性腫瘍:悪性腫瘍のリンパ管への直接浸潤やリンパ節転移によってリンパ管が閉塞し,リンパ還流が障害される.
 c)感染:リンパ管炎やリンパ節炎が繰り返されると,リンパ管の閉塞をきたす.蚊を媒介して侵入するフィラリアは,リンパ管内に寄生し,直接的なリンパ管の構造破壊と炎症による障害を起こし,リンパ管を閉塞させる.
病期分類
 現在,リンパ浮腫の病期分類として国際的に認められたものはないが,一般的に用いられている病期分類を表5-19-2に示す.
診断
 浮腫の原因となる疾患を念頭におきながら,基本的な診察(問診・視診・触診)によってリンパ浮腫と他疾患を鑑別する必要がある.問診では,悪性腫瘍の有無とその治療歴,蜂窩織炎・動静脈疾患・整形外科的疾患・外傷の既往歴,運動麻痺の有無に留意する.視診では浮腫の左右差(両側性・片側性),静脈疾患の有無,皮膚の色調変化(色素沈着,発赤,チアノーゼ)の有無を観察する.また,過角化・多発性疣贅・箱状趾などの進行したリンパ浮腫に特徴的な所見の有無も観察する.触診では,皮膚温の上昇(炎症性疾患)・圧迫痕・皮膚硬化(皮膚をつまむことができるか)の有無を観察する.





検査成績
 リンパ浮腫の確定診断に有効な血液検査や尿検査はないが,鑑別診断のため血清蛋白濃度の低下,肝・腎機能異常,甲状腺機能異常,炎症所見の有無を確認する.
 画像診断として患肢の超音波検査,リンパ管シンチグラフィ,蛍光リンパ管造影法が用いられる.超音波検査では,リンパ浮腫の確定診断はできないが,静脈疾患との鑑別には非常に有用である.リンパ管シンチグラフィは,放射線同位元素により標識されたコロイド(ヒトアルブミンなど)をトレーサーとして皮下に注入して,経時的にリンパ還流状態を観察する検査で,国際的にリンパ浮腫の確定診断法として推奨されている(図5-19-1).蛍光リンパ管造影法はインドシアニングリーン(以下,ICG)がアルブミンと結合してリンパ管に取り込まれることを利用しており,皮下注射したICGを赤外線照射により励起させてリンパ還流状態を観察できる.





鑑別診断
 四肢に浮腫をきたす疾患を鑑別する必要がある.一般的に全身性浮腫は両側性に認められることが多く,局所性浮腫は,片側性に認められることが多い.リンパ浮腫も上肢では乳癌が原因となることが多いため,ほとんどが片側性であるが,下肢では30~40%が両側性である.
合併症
1)蜂窩織炎:
リンパ浮腫の約半数に合併するといわれる.患肢の発赤・熱感・疼痛など炎症所見を呈し,しばしば38℃をこえる発熱を認める.発症した場合には,安静とし抗菌薬投与を行う.
2)リンパ漏:
患肢に創ができた場合にリンパ液が漏れだすことがある.創感染を併発すると難治性となる.創処置に加えて圧迫処置を行う.
経過
 外科的治療が奏効する症例もあるが,一般的には,リンパ浮腫は完治させることが困難で,生涯にわたって治療を継続しなければならない疾患である.原疾患として悪性腫瘍を有するもの以外の生命予後は良好である.
治療
 有効な薬物療法はなく,保存的治療として,スキンケア・用手的リンパドレナージ・圧迫療法・運動療法による複合的治療(complex physical therapy)が行われる.保存的治療の無効例には,リンパ管細静脈吻合術を主としたリンパ管再建術が試みられることがある.




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