妄想と戯言2

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はじめに!を読んでください。

YES/NO(ガロ金)

2024-05-30 07:03:00 | 漫画
ガロさん視点ガロ金。
支部でたまに見かけるYES/NO枕持ってる金バ君かわいいですね!!!






 その日、金属バットの家にお呼ばれした俺は、ヤツと妹と俺の三人で晩飯を囲んでいた。妹特製だというカレーライスをたらふく食って、満足気にリビングのソファーにふんぞり返る。

「ねぇガロウさん!カレーおいしかった?」

ソファーの背凭れ越しに顔を覗いてきた妹が、楽しそうに笑っている。

「おう、美味かったぜ」
「ほんと?今度はシチュー作ってあげるね!」
「そりゃ楽しみだな!」
「ゼンコ、あんまり甘やかすなよ」

 洗い物を終えたらしい金属バットが片眉をあげて近づいてくる。どこか面白くなさそうに顔を歪めている。シスコンは相変わらずだな。

「だってガロウさん、たくさん食べてくれるんだもん!」
「そんなん俺だって!」
「お兄ちゃんはわたしに甘いからだめー!」
「ぐっ…」
「ハハ、妹に言いくるめられてらぁ」
「うるせぇ!」
「フフ、わたし先にお風呂はいっちゃうね!ガロウさん、ゆっくりしていって!」
「おう」
「ぜ、ゼンコぉ!」

 風呂場へ消えて行った妹を見送りながら、バツが悪そうな顔でドカリと隣に座った金属バット。
俺だってマジで美味いと思ってるし、とぶつぶつ言い淀むその肩に、笑いながら手を回す。

「拗ねんなよ。妹だって、真新しい感想が欲しかっただけだろ」
「す、拗ねてねーし……つか触んな」
「あ?妹見てねーんだからいいだろ」

 言いながら、身体を捩って俺の手から逃れようとする。何となくその態度が気に入らなくて、その肩を一層強く掴んで引き寄せて距離を詰めた。リーゼントに顔を埋めて、嗅ぎ慣れた整髪料の匂いを思いきり吸い込んでやると「やめろ!」と手で突っぱねてくる。
 妹の前じゃ頑なに弱みを見せない性格を理解はしているが、俺だって恋人との時間は大切にしたいじゃねーか。ここまで直接的な拒否に少し面白くなくて、口をへの字に曲げて体を離した。

「いいじゃねーか、少しくれーよぉ」
「ちがう、そうじゃなくて!」
「なんだよ?」

 チラリと見上げてくる黒目。ほんのり目下が赤くなっている。

「…おまえ、今日泊まってくんだろ?」
「あ?ああ」
「こ、こーいうのは部屋ですりゃいーだろ…」
「こーいうの…」

 所謂、イチャイチャというやつか。
肩から俺の手を払いのけた顔が真っ赤に染まっている。ほーん?と目を細めて、その耳元まで顔を近づけた。

「こーいうの、にイヤらしい事は含まれてんのか?」
「っ、ねーよ!ゼンコいるのにするわけねーだろ!!」

 肩を揺らして笑って、へいへいと素直に顔を離す。少なからずコイツも俺と「イチャイチャ」したいと思っている事実が、どうにも嬉しくてならない。
 しかし、おあずけなんて珍しくもないが…今日はやけに素直な金属バットの未だに赤い耳を眺めながらニヤリと口角を歪めた。普段は張り詰めた空気感を纏うコイツを、どうやって甘やかしてやろうか。脳内でありとあらゆるイチャイチャを想像してみる。

「…おまえ、先に風呂入れよな」

 首まで真っ赤になったうなじを見つめながら、緩みかける口元を何とか耐えて「おう」と返す。
 お楽しみは後でだな、と内心でほくそ笑んだ。



 時刻は22時を過ぎたところで、言われた通り先にシャワーを浴びて寝室へ向かった。妹は既に自室で寝ているらしく『ゼンコ』と書かれたプレートのかかる部屋からは物音ひとつしない。
 おまちかねのイチャイチャタイムに、そわりと肩を揺らした。前もって言われていると違う興奮が湧き上がってきて、何とも落ち着かない。

 金属バットの寝室はシンプルなもので、大きめのローベッドが壁際に沿って置かれている以外は小さめのサイドチェストがあるだけだ。そのチェストの上にある間接照明のスイッチを入れると、部屋が薄ぼんやりとした橙色に包まれる。
 グレーのシーツが優しい色に照らされていく中、ふとその枕元に、見慣れないピンク色が混ざっていることに気づく。なんだ?と主張するそれを手にとってまじまじと観察する。ピンク色の生地に赤字で描かれた「YES」の文字が何ともチープだ。

「これって…」

 裏返してみると、水色の生地に青字で「NO」の文字が描かれている。所謂、YES/NO枕というやつだ。

「なーんでこんなもんが…」

 ベッドの横に立ち尽くして、部屋の主である金属バットと手中の枕を頭の中で掛け合わせてみるが、あまりにも似合わない。
 いそいそとこの枕を「YES」にセットする金属バットなんて、天地がひっくり返ってもあり得ない。いやしかし、だったら何故こんなものがヤツの寝室に?

「…マジでそーいう意味、だったり?」

 ジッと枕を見つめて呟いてみる。
妹がいる時は頑なに行為を拒否する男だが、今日はやけに素直だった事を思い出してその可能性に考え込む。激しくしなけりゃ大丈夫とか?いや、挿入無しならイケる的な?そもそもこの「YES」には何処まで含まれているってのか。
 枝分かれしたありとあらゆる可能性を一つずつ潰していく。いや、分かってんだ、本当はこんな事はあり得ない。分かってはいるが、ほんの少しの期待がにょきりと顔を出して、俺の中でふんぞり返っていく。

「なに突っ立ってんだ?」
「ッ--!!」

 不思議そうに響いた低めの声に、ギクリと肩を揺らして振り返る。
 目をぱちくりとする金属バットが開けっ放しだった扉の前で、ん?と首を傾げていた。風呂上がりで血色の良くなった頬が目について、思わず持っていた枕を後ろに隠してしまう。自分の中で変な緊張感が増していくのが分かって、ごくり、と生唾を飲んだ。

もしも、本当にコイツが用意したもんだとしたら…?

「…ガロウ?」
「あ、いや別に」

 ふーん?と見上げる瞳は、さして興味も無さそうに俺から視線を逸らした後、さっさと扉を閉めて近づいてくる。これはどっちの反応だ?

「なあ、おまえまだ寝ないだろ?」
「あ?お、おう、まあ」
「明日、バイトは?」
「午後からだけど…」
「あっそ、なら朝はゆっくり出来るな」

 寝る寝ないの確認もそうだが、このタイミングでシフトの確認なんてしてくるもんだから、やっぱりもしかしてって期待が高まっていく。
 立ちすくむ俺を怪訝な表情で見つめながら、俺に向き合う形でベッドの淵に腰掛けた金属バットの、その見上げてきた表情が妙に色気づいている……気がする。

 少し濡れた黒い瞳がまるで誘っているようで、試す意味も込めて頬に手を伸ばした。訝しんでいる割に、これといった抵抗をする事もなくすんなりと触れてしまう。その無防備さに堪らなくなり、おもわず親指の腹で優しく撫でてやると、それに応えるようにして目を瞑って擦り寄ってくる。今日は流石に、反応が可愛すぎねーか?

 俺の中で曖昧だった興奮が確かなものになって、背筋を這い上がった。持っていた例の枕を後ろ手からポトリと落として、俺もベッドに膝をついて這い上がる。

これは、あり得るんじゃねーか?!

「…バッド」
「ん、」

 顎に手を添えて、唇に触れるだけのキスで様子を伺うがやっぱり抵抗もなく受け入れている。そのまま閉じた瞼や赤い頬にキスを繰り返して、ゆっくりと押し倒す。
 胸に手をついてその心地の良い体温を確かめるように撫であげる。薄手のTシャツ越しの感覚は、金属バットの弾力ある胸筋を楽しむには十分だ。
 密着した体温に、はあ、と安堵したような息を吐いた金属バットの、グレーのシーツに広がった黒髪にすら興奮して、ゆっくりと生唾を飲む。

 これはまだ、イチャイチャの範疇なんだろうか。線引きがいまいち分からない。

 とりあえずキスは大丈夫だろって事で、薄く開いていた金属バットの唇に自分の唇を擦り寄せて、下唇を甘噛みしてからちろりと舐めあげる。ん、と舌を出すように催促すると、素直に口を開いて俺の舌に自分のモノを絡ませてきた。

 徐々に深いキスへと変えて、小さめの口内を味わうようにピタリと隙間なく口付けて貪っていく。
 硬口蓋を舌先でちろちろと撫でてやると「んん」と潜った声が漏れた。シーツを握っていた手が遠慮がちに俺の肩口を握りしめて、もっとと強請るように角度をつけて唇を押し付けてくる。その様にひどく興奮して強めに同じところを擦ってやると、びくりと肩を揺らす。

「っ、んっ…ハァ、」

 熱い息を吐いて、名残惜しいが一度口を離す。混ざった唾液が糸を引いて、金属バットの唇をてらてらと濡らしいる。正直、めちゃくちゃエロい。
 照れているのか伏目がちに全てを受け入れる姿がいじらしいと感じて、思わず顔がニヤけた。
けっきょくイチャイチャの範疇は分からないが、あちこちに散らばっていた興奮が下半身に集中しだして、なあ、と少し性急気味にその顔を覗きんだ。

「触るぜ、いいよな?」
「ん、がろう…」

 どこか舌足らずな声が、甘えたように耳を刺激していく。普段はこんな素振り見せねーくせに、かわいい所もあンじゃねーか、と今度は無防備に晒されていた喉仏に食いつこうとした、その時だった。

「ガロウ…」
「ん?」
「わり…ねみぃ……」
「…あン?」

 予想外の言葉に顔をあげる。口の周りの汚れもそのままに、熱い息を吐きながらぐったりとする金属バットが目に入る。かろうじて俺の肩に腕を回してはいるが、服を掴む力は弱弱しい。
 よくよく見れば伏目だと思っていた瞳は眠気を耐えているだけで、微睡んでいるようにも見える。されるがままだったのも同じ理由なのか、心地の良かったらしいキスも相まって、とろんとした表情で俺を見つめている。

「は?お、おい、マジで寝るのか?」
「あ?なに…?」

言いながら、どんどん瞼が下りていく。

「も、げんかい…」

 数秒後、穏やかな寝息が聞こえてきて、その無邪気な寝顔をポカンと眺めた。

え?まじで寝たのか?
金属バットの顔の前で手を振って確認するも、一度寝てしまうとなかなか起きないコイツを思い出して肩を落とした。
 自分の口元を拭いながら、後ろを振り返る。
床に転がる、今は水色で否定されたこの枕はけっきょく何だったのか。

「……ハァー」

 考えたって、答えを知る男はグースカ寝むりこけているんだ。中途半端な位置で寝てしまった金属バットを抱えて、定位置である壁際へ転がしてやる。その隣に潜り込み、肩まで布団を被った。昂りかけていた熱が引き、冷静になった頭でさっきまでの妙にしおらしかった金属バットを思い出す。

 そもそも続きは後でとおあずけ食らわせといて、この仕打ちは無いんじゃないか?俺はただ、ちょっと触れ合えれば満足だったってのに!だいたい、あの枕の意味は何だったんだ!?

 自然と頭を抱えかけた瞬間、ゆっくりと息を吐いて心を落ち着かせる。ただやっぱり若さというものは厄介で、悶々とした葛藤が湧き上がってくるのも事実だ。

「…あの流れで寝るかフツー」

 隣で穏やかな寝息を立てる男を見つめて、ほんの少しだけ泣きたくなった。






翌日。

「おい、これ何だよ」
「は?ああ、去年ヒーロー協会の忘年会でもらったんだよ。残念賞っつってな」
「残念賞…」
「見た目はふざけてるが寝心地はなかなか良くてよ、たまに使ってんだよ」
「あ、そういう…」

 顔を引き攣らせた俺に、何かに気づいた金属バットがジトリとした視線を寄越す。

「…おまえ、まさか」
「分かってる!何も言うなっ」
「……」

 絶妙な顔でため息を吐いたあと、俺から枕を引っ掴んでクローゼットに閉まった金属バットが振り返りながら一言。

「…バカじゃねーの」
「うるっせぇ!!」











アホなガロさんもたまにはいいじゃない!


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