町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で、ディズニーアニメの最新作『ズートピア』を紹介。この映画が実は描いている現代のアメリカの政治的実情を解説しつつ、最後にプリンスを追悼していました。
ズートピア (字幕版)
(町山智浩)ええと、『ズートピア』なんですけども。ディズニーのアニメの最新作なんですけど。これ、もう日本で公開されていますね。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)で、ヒットしていると思うんですけど。公開後になっちゃったのはね、『Fake』の方が球として強かったので。スペシャルウィークに持ってきたからなんですよ。すいません。でも『ズートピア』はね、アメリカに住んでいる人が見るとわかる、もっと面白く、楽しくなるネタがいっぱいあったんで、ちょっとぜひ話したいなと思いまして。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)これは、ピクサーの下に入ってからのディズニーアニメってずっと傑作ばっかりなんですけど。これもそうで。スタッフとかはいままで当ってきたディズニーの『ベイマックス』とか『アナと雪の女王』とか、あのへんのスタッフが全員集まって作っているんですね。
(山里亮太)へー! オールスターで。
(町山智浩)『シュガー・ラッシュ』とか『ボルト』とか。オールスターっていうかこれね、監督3人、脚本家7人で。その全員が、いままでに『アナ雪』とか『ベイマックス』とかのスタッフなんですよ。だから『七人の侍』みたいな感じで、総動員をかけてやっているんですけど。
(赤江珠緒)へー!
(山里亮太)まとまるんですかね、話?
ディズニー制作陣が総動員
(町山智浩)いやー、もうこれはジョン・ラセターというピクサーのトップの人が、とにかくまとめるのが上手い人なんですよ。この人、自分がやった映画はあんまりまとまってないんだけど、他の人の映画をまとめるのは上手い人で。『カーズ2』とかね、全然まとまってなかったんですけど。まあ、それはいいや。
(山里亮太)ああ、『カーズ2』。
(町山智浩)で、『ズートピア』って「ズー(Zoo・動物園)」と「ユートピア(Utopia・理想郷)」っていう意味ですけど。これはね、人間以外の動物たちが進化して、文明を築いて、全ての動物が協同して幸せに、平和に暮らせるズートピアっていう街を作り上げたっていう話になっています。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)で、草食動物のキリンとか鹿とかウサギとか、そういうのと、トラとかライオンとかの肉食動物が仲良く暮らしている大都会なんですよ。ズートピアは。
(赤江珠緒)うんうん。もう現代的な文明社会で暮らしているという。
(町山智浩)スマホとか出てきますよ。ネットとか。はい(笑)。で、主人公は女の子でウサギなんですよ。野ウサギで。ジュディっていうんですが。その子が警察官としてズートピアに就職するっていうところから始まります。ところが、そのズートピアではなぜか、肉食動物が次々と行方不明になっている。失踪事件が起こっている。で、それを捜査するという話なんですね。
(赤江珠緒)ふーん。うん。
(町山智浩)で、一応警察官、刑事ものなんでミステリーになっているんで。あんまり詳しくは言えないんですけども。これね、日本でも絶対に面白い映画なんですが、ただアメリカ人のための話になっているところがあって。それがわかるとね、もっと面白いんですよ。
(山里亮太)なるほど!
アメリカ人向けのネタを解説
(町山智浩)たとえばね、こういう話があって。主人公が、犯人のナンバープレートを照合するために、日本だと鮫洲とかにある運転免許試験場があるじゃないですか。自動車の。ナンバーの登録とかをするところね。そこがアメリカにも、「DMV」っていう場所があるんですけど。そこに行って、ナンバーの照合をしてもらうシーンがあるんですよ。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)ウサギの警察官が。すると、そこで働いている職員が全員ナマケモノっていうことになっているんですね。で、ナマケモノだから、「ナンバー……照合……するん……です……か?」とかって、ゆっくりしゃべるんでイライラするっていう、もう日が暮れちゃうっていうギャグがあるんですけど。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)これは、アメリカのDMVはものすごく遅くて、ものすごく待たせるっていうことを体験している人だと、めちゃくちゃおかしいんですよ。
(赤江珠緒)あ、そうなんですか。
(町山智浩)だからね、アメリカの映画館でも笑っていたのは大人だけでした。子供は試験場に行かないから、わかんないんですよ。だから笑ってないんですけど。あとね、結構これ、スタッフが自虐的なギャグをやっていて。主人公がどうしても事件が解決しない!ってことで悩んでいると、こう言われるんですよ。「これが他のアニメだったら、女の子が楽しく歌っていりゃ解決するのにね。”Let It Go”」って言うんですよ。
(赤江珠緒)おおー!
(町山智浩)これは『アナ雪』のことをちょっと笑っているんですけど。スタッフは同じですけどね。
(赤江珠緒)ねえ。自ら、自虐的に。へー。
(町山智浩)そうなんですよ。あとね、羊の副市長さんが出てくるんですね。その羊の副市長さんの毛は、羊だからふわふわじゃないですか。それを見ているうちに、触りたくなって触ろうとするんだけど、「触っちゃダメ!」っていうシーンがあるんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)これ、たぶん日本の人だと全く意味がわからないシーンだと思うんですよ。
(赤江珠緒)私もわからない。全然。
(町山智浩)これはね、アメリカでアフロヘアーの女の子。要するに、アフリカ系の血が入っている人。の、ちりちりの毛を見ると、女の子同士だったりすると、「ちょっと触らせて」っていう人がいるんですよ。「ちりちりでふわふわね。触らせて」って言う人がいるんですけど、それは、アフロ系の人には絶対にやっちゃいけないことなんですよ。
(赤江珠緒)あ、そうなんですか。
(町山智浩)そうなんですよ。いちばんイラッとすることらしいんですよ。で、それを羊の毛でやっているシーンなんですね。だからこれはたぶん、日本の人には全くわからないと思います。あとは、主人公のウサギが警察署に入った時、警察署の受付の人がヒョウなんですけど。「ウサギがこの警察署に入ってくるっていうのは聞いていたけど、本当にかわいいね。思っていたより」って言うんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)それで言われたウサギの主人公のジュディが、「ウサギが他のウサギに『かわいいね』って言うのはいいんだけど。ウサギ以外の人がウサギに対して『かわいいね』って言うのはマズいんですよ」って言うんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)これは、ある特定の言葉がその人種同士だといいけれど、その人種と違う人が言ったらいけないっていう言葉があるんですよ。
(赤江珠緒)はー。
(町山智浩)これはたとえば、いわゆる「ニガー」っていう言葉なんですよ。で、ニガーっていうのは黒人の、アフリカ系同士が言った場合は、「マイ・ニガー」とか言うんですけど。「仲間・友達」みたいな意味なんですよ。でもこれを、白人とかが黒人に対して「ニガー」って言ったら、「この奴隷め!」って言っている意味になっちゃう。
(赤江珠緒)ああー、そうか!
(町山智浩)だから、絶対に言っちゃいけないんですよ。
(赤江珠緒)じゃあアメリカの実社会のそういったいろんなことが散りばめられているんですね。
(町山智浩)この『ズートピア』っていうのはそういう映画になっているんですよ。で、このズートピアっていういろんな動物が仲良く暮らしている街っていうの自体がアメリカを象徴しているんですね。
(赤江珠緒)うんうんうん。
ズートピア自体がアメリカそのものを象徴する
(町山智浩)だからこれね、ある店……アイスクリーム屋さんかなんかに行くんですね。主人公たちが。すると壁に「私たちにはお客さんにサービスをしない権利もあります」っていうプレートが貼ってあるんですよ。お店に。これは、アメリカではものすごく問題のあるプレートなんですよ。いま現在も貼ってある店がたまにあるんですけど。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)これは態度の悪い客とか、汚い格好をして入ってきた人とか、ホームレスの人とかを入れたくないよとか。そういう人たちにお店のものを買わせたくないよっていう意味で貼るわけですね。酔っぱらい客とかね。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)でも、それ自体が法律的にどうなのか?っていうことで、いっつも裁判になることなんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)で、そのプレートは実際に使われていた時期があって。1960年代までアメリカ南部のレストランとかは、白人専用のレストランは黒人が来ても注文も取らないし、料理も出さないっていう状態があったんですよ。
(赤江珠緒)ええ、ええ。
(町山智浩)メキシコ系の人が来たりすると。南部ではですね。そういう時にそのプレートを貼って、それを示すっていうのがあったんですよ。そういうシーンなんですよ。だからこの映画は、実はすごくアメリカの非常に政治的な実情を描いているんですよ。『ズートピア』っていう映画は。
(赤江珠緒)ねえ。ものすごいかわいい動物のアニメに見えて。へー!
(町山智浩)もちろんそれでも楽しめるんですけど、根底にあるのは、そうじゃないところがあるんですよ。リアルなものなんですよ。で、もう1人、キツネのニックっていうのが出てくるんですね。すると、キツネだっていうだけで、「キツネは嘘つきだし、人を騙すから」って言われて、就職ができないんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)いろんなところで弾かれちゃうんですね。キツネと言えば、英語では「キツネのようにズルい」っていう言葉があるんですよね。だから、「キツネなんか信用できない」って言われるんですよ。これは、要するに「ある一定の人種は全部そうなんだ」っていう言い方ですよね。
(赤江珠緒)そうか。
(町山智浩)これは、レイシャル・プロファイリング(Racial Profiling)って言われる人種による決めつけで、いちばん問題があることなんですよ。
(赤江珠緒)うん、
(町山智浩)でも、英語にも日本語にも、動物を比喩に使うっていうのはありますよね。いっぱいね。でも、それ自体が決めつけで。いわゆる「ステレオタイピング(Stereotyping)」っていうことなんですよね。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)「○○は△△だ」と。「キツネだからズルいんだ」みたいな。「ウサギだから賢いんだ」みたいな。そういうことなんですよ。で、それの危険性とか間違いを描いているんですね。『ズートピア』っていう映画は。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)だからね、動物が出てきて、みんな人間みたいに生活して楽しいねっていう話では、実はないんですね。
(赤江珠緒)ふーん! ディズニー、盛り込んでますね。メッセージ性を。
(町山智浩)いや、やっぱりこれね、すごい早いなと思うのは、いま現在、ドナルド・トランプとかテッド・クルーズとか共和党の議員たちは、たとえばドナルド・トランプはこういうことを言っているわけですね。「メキシコ系の不法移民は全部叩きだせ!」。ないしは、「メキシコ系の人間はみんな犯罪者とレイピストだ」って言ったりで、決めつけているんですよ。まさに。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)で、テッド・クルーズに至っては、「イスラム系の住民が住んでいるところは、警察が巡回しろ」って言ってるんですね。これ、「イスラム系=犯罪者である」っていう決めつけなんですよ。で、それより前にこの映画は制作されていたんですけど、まさにドンピシャリなんですよ。
(山里亮太)なるほど!
(町山智浩)はい。で、その草食動物に対して、肉食動物は実際に数が少ないですよね。アフリカなんかでも、草食動物はものすごい群れをなしてたくさんいるけども、肉食動物は少ないじゃないですか。そういう人口比になっているんですよ。ズートピアも。
(赤江珠緒)うんうんうん。
(町山智浩)で、これ草食動物はおとなしくて文明的なんですね。この映画の中だと、いわゆるステレオタイプが。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)でもこの「草食動物がおとなしくて、肉食動物が凶暴である」っていうのも実はステレオタイピングで。決めつけなんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)どう思います? それに関して。
(山里亮太)でも、そのイメージでずっと考えちゃいますね。草食動物。ロバとかね。
(町山智浩)そうですね。でも、アフリカで一対一で戦った場合に、ゾウを除いて最も最強の動物ってなんだと思います?
(赤江珠緒)ああー。あのね、カバが強いって聞きましたけど。
(町山智浩)カバも強いですね。
(山里亮太)ワニ?
(町山智浩)最強なのは、水牛なんですよ。
(赤江・山里)水牛!?
(町山智浩)水牛。英語だからバッファローですけど。「buffalo lion」でインターネットで検索すると、水牛がライオンを殺しまくっている映像が山のように出てきますよ。
(赤江・山里)ええーっ!?
(町山智浩)水牛、最強なんですよ(笑)。でも、牛だから草食ですよ。でも、最強なんですよ。本当は。だから、「草食=やさしい」っていうのは勘違いで。あとは、たとえば羊っていうのは、英語で「Sheepish」っていうのは「おとなしい」っていう意味なんですね。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)でも、牡羊ほど凶暴な生き物はいないですよ!
(赤江珠緒)ああ、そうか。
(町山智浩)牡羊とか牡鹿は嫁取りの時に男同士でもって徹底的な戦いをするんですよ。頭突きして。で、それは時には相手を殺すほどやる時もあるんですよ。で、しかもその時期は、人間とか自動車を見ても立ち向かってくるんですよ。彼らは。
(赤江珠緒)そうかー。
(山里亮太)牡鹿に襲われたことある。俺。
(赤江珠緒)ええっ?
(町山智浩)でしょ?殺されますよ。下手すると。本当に。
(山里亮太)たしかに。すっげータックルかまされて。
(町山智浩)そうなんですよ。だからアメリカでは、牡羊なんていうのは「Ram」って言って、男らしさの象徴でもあるんですよ。凶暴な。トラックの名前になっていますね。
(赤江珠緒)あ、そうですか!
(町山智浩)だから、草食動物と肉食動物っていうのも、すごくみんな決めつけをしているんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)だからそれこそ、さっきの「DMVっていう試験上に行くとみんなノロマだ」っていうのも、ひとつの決めつけなんですよね。
(赤江珠緒)うんうん。
危険な決めつけ
(町山智浩)だからこれは僕もよくやっちゃうんで、本当に危険なことなんですけど。「○人はナントカだ」っていうこと自体が、だいたい通用しないですよね。本当はね。
(赤江珠緒)そうですよね。本来はね。
(町山智浩)そんなもので、なにも決まらないですよ。
(赤江珠緒)日本人の中でも、バラバラなのにね。
(町山智浩)そうなんですよ。たとえば、アメリカン・インディアン。先住民っていうのはいますけど、先住民の身体的特徴っていうのは、もう全くかけ離れているのに全部ひとくくりにしていたりしますよね。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)ただ、この映画はそのことをものすごく突き詰めて考えていて。特にズートピアっていうのは本来だったら敵同士だったり食ったり食われたりする関係の動物同士が仲良く暮らしているんですけど。これはまさに、アメリカを言っているんですよね。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)アメリカはたとえば、中国人もチベット人も仲良く暮らしていますよ。アメリカは。
(赤江珠緒)ああー。
(町山智浩)で、ウクライナとロシアも戦争してるけど、ウクライナとロシアってアメリカだと同じ東ヨーロッパ系のレストランとか食料品店で働いたりしていて。隣人ですよ。
(赤江珠緒)そうか。入り混じっているわけですもんね。
(町山智浩)あと、ユーゴスラビアが内戦になった時、セルビアとクロアチア人が殺し合いをしましたけども。あの時、セルビアとクロアチア人同士で結婚している人とかがみんな、アメリカに逃げてきましたよね。
(赤江珠緒)うーん。そうか。
(町山智浩)アメリカに行ったら、セルビア人もクロアチア人も友達で隣人なんですよ。アルメニア人とトルコ人も仲間なんですよ。アメリカに来たら。だから、このズートピアっていうのはアメリカそのものを一種象徴していて。で、セリフの中で出てくるんですよ。「もしあなたがキツネに生まれて、ゾウになりたかったら、ゾウにでもなれるのがこのズートピアなんだ」って言うんですよ。
(赤江珠緒)へー。
(町山智浩)これは、アメリカの国是みたいなものなんですよね。「なりたいものになれるんだ」と。で、昔、ヨーロッパはお百姓さんに生まれたら、一生農民になるしかなかったのが、アメリカに行ったら何にでもなれたわけですからね。だから実際にそうかどうかっていうのは、実際にそうじゃなくても、そういう風にしようよっていうのがこういう映画なんですよね。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)ディズニーは昔からやっているんですよ。
(山里亮太)昔から?
(町山智浩)そうなんですよ。『わんわん物語』って1955年にディズニーが作っているでしょ?あれは、主人公はレディっていう血統書付きのコッカー・スパニエルなんですよ。で、コッカー・スパニエルはイギリスが原産で、イギリスから来た、いわゆるWASPを意味しているんですよ。
(赤江珠緒)はー。
(町山智浩)で、それが全く親のわからない浮浪児の男の子(トランプ)と結婚するっていう話ですよね。で、子供を作るっていう。あれは要するに、何人でもない、アメリカ人っていう新しい民族が生まれるんだっていう話ですよね。
(赤江珠緒)あっ、そうか! 子供の時、そんな、わかってなかったね。なるほど。
(町山智浩)だからあれは、トランプっていう浮浪児の男の子の仲間の犬の名前はボリスっていう名前で、あれはロシア系ですよね。それでペドロっていうのがいて、プエルトリカンなんですよ。で、イタリアンレストランに行くんですよ。
(赤江珠緒)ああ、そっかー!
(町山智浩)だからWASP以外の人たちとWASPが混じりあってアメリカを作っていくんだよっていう話が『わんわん物語』だったんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)だからディズニーは一貫してそれをやっているんですけどね。だからこれ、ステレオタイプでやるっていうことはすごい危険だということを言っていて。中で、ウサギが運転するんで、「ウサギは運転が下手だよな」っていうセリフが出てくるんですけど。あれは、アメリカではね、「女は運転が下手なんだ」っていうステレオタイピングがあるんですよ。
(赤江珠緒)はー。
(町山智浩)だからそれも言っちゃいけない。
(赤江珠緒)ねえ。そういう決めつけって、なんでか、自分のデータで分析して分類したいっていう、そういう欲望なんですかね? なんか、しちゃいますもんね。そういう……
(町山智浩)それはもう本当に、僕もやっちゃうんですけど。それは本当によくないことなんですね。
(赤江珠緒)怖いですね。人間がよくやりがちなことですけど。
(町山智浩)やりがちなんですよ。だからそういうことを、子供の頃に、楽しいアニメで教えてくれるのが『ズートピア』なんですけど。ちょっといま、プリンスが書いた曲をシニード・オコナーが歌っている歌をかけていただきたいので。プリンス、この間亡くなったんですけども。
『Nothing Compares 2 U』
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)これ、聞いていただくと、『Nothing Compares 2 U』というプリンスが書いた曲なんですけど。この歌、ジャンルとして何だと思います?
(赤江珠緒)う、うん?
(山里亮太)バラード的なやつ? ゆったりとした……
(町山智浩)これ、ジャンルがないですよね。このプリンスの歌って。これ、プリンスが書いた曲をシニード・オコナーっていうアイルランドの歌手が歌っているんですけど。まあ、強いて近いものといえば、ゴスペルですけど。プリンスっていうのは本当にジャンルがない人だったんですよ。で、彼はソウル・ミュージックとかファンク・ミュージックとロックとがもうごっちゃになっていて。それで、黒人の間では「ロック寄りすぎる」って批判されたりもしていた人なんですよね。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、彼自信が紫っていう色を自分のテーマカラーにしていたんですけど。あれは、青は男の子の色で、赤は女の子の色だからなんですよ。
(赤江珠緒)はー!
(町山智浩)男でも女でも関係ねえだろ?っていう色で、パープルにしていたんですね。彼は。
(赤江珠緒)それでパープル。
(町山智浩)で、プリンスのシンボルマークっていうのは、いわゆる男のシンボルマークと女のシンボルマークを足したものなんですよ。「どっちでもないよ」っていうことなんですよ。
Twitter! @unicode decides which emojis are released. Pls RT this to URGE them to release a Prince Love Symbol emoji. pic.twitter.com/ZMNMZdlpI8
— moe ?????? ?? (@MoeArora) 2016年4月26日
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)で、ジャンルも決まっていないし。だから「決めつけ」っていうものを破壊していく人がプリンスでしたね。
(赤江珠緒)そういうこと。そういう枠組みみたいなものをね。
(町山智浩)枠組みみたいなものを。それが、まさにアメリカだなって思うんですよね。ということで、無理やり『ズートピア』からプリンスにつなげてみました。はい。
(山里亮太)このタイミングでね、聞きたかったですもんね。町山さんの口から、プリンスの件は。
(赤江珠緒)そうですね。
(町山智浩)はい。でもこの歌はすごくいいのは、歌詞はね、「いろんな男の人と付き合ってみたけれども、とてもあなたとは比べ物にならないわ」っていう歌なんですよ。だからまあ、これは恋愛の歌ですけども、まさにプリンスのことをね。プリンスが書いた曲ですけども。いまはもう、みんなのプリンスに対する気持ちが歌われていると思いますね。
(赤江珠緒)「あなたが最上である」っていうね。
(町山智浩)だから、「他とは比べ物にならない」っていうことです。ジャンルに分けられないから。
(赤江珠緒)そうか。じゃあ『ズートピア』はただただ楽しい映画かなと思っていましたが、そういうことを感じながら見ると、また違うかもしれませんね。
(山里亮太)より一層。
(町山智浩)だから子供の頃にこれを見ていくと、大人になってからそういう場に行った時に、「ああ、私は決めつけをしていたんだ。それじゃ、いけないんだ」っていうことを小さい時から教えてくれるアニメですね。
(赤江珠緒)はい。わかりました。今日は現在公開中のディズニーアニメ最新作『ズートピア』のお話でした。町山さん、ありがとうございました。
(山里亮太)ありがとうございました。
(町山智浩)どうもでした。
町山智浩さんによる補足
翌週放送の『たまむすび』で町山智浩さんが一部、補足説明をしていました。
(町山智浩)あのね、先週ちょっと話した『ズートピア』について補足したいんですけども。主人公のウサギが警察署に入ってきた時に「かわいいね(キュートだね)」って言われて。「キュートって別の動物から言われると、ちょっと困る」って話をするシーンがあって。それについて、人種的な問題もあるんですけど……あれ、セクハラですよね?
(赤江珠緒)はー! ああ、そうかそうか。上司から「かわいいね」と。
(町山智浩)そうそうそう。だって、仕事で評価すべきところなのに、かわいいかどうか、関係ないじゃないですか。だから女の人同士だったら「かわいいね」っていうのはありでも、男性の職員が女性の新人職員に対して「かわいいね」って言うのは、それでもうおかしいよっていう話ですよね。
(赤江珠緒)ああ、そういうこと!
(町山智浩)そう。だから非常に多重的に、何重構造にもなっていますね。あの映画は。ひとつのセリフがね。まあ、非常に深いものだと思いました。はい。
ズートピア (字幕版)
(町山智浩)ええと、『ズートピア』なんですけども。ディズニーのアニメの最新作なんですけど。これ、もう日本で公開されていますね。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)で、ヒットしていると思うんですけど。公開後になっちゃったのはね、『Fake』の方が球として強かったので。スペシャルウィークに持ってきたからなんですよ。すいません。でも『ズートピア』はね、アメリカに住んでいる人が見るとわかる、もっと面白く、楽しくなるネタがいっぱいあったんで、ちょっとぜひ話したいなと思いまして。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)これは、ピクサーの下に入ってからのディズニーアニメってずっと傑作ばっかりなんですけど。これもそうで。スタッフとかはいままで当ってきたディズニーの『ベイマックス』とか『アナと雪の女王』とか、あのへんのスタッフが全員集まって作っているんですね。
(山里亮太)へー! オールスターで。
(町山智浩)『シュガー・ラッシュ』とか『ボルト』とか。オールスターっていうかこれね、監督3人、脚本家7人で。その全員が、いままでに『アナ雪』とか『ベイマックス』とかのスタッフなんですよ。だから『七人の侍』みたいな感じで、総動員をかけてやっているんですけど。
(赤江珠緒)へー!
(山里亮太)まとまるんですかね、話?
ディズニー制作陣が総動員
(町山智浩)いやー、もうこれはジョン・ラセターというピクサーのトップの人が、とにかくまとめるのが上手い人なんですよ。この人、自分がやった映画はあんまりまとまってないんだけど、他の人の映画をまとめるのは上手い人で。『カーズ2』とかね、全然まとまってなかったんですけど。まあ、それはいいや。
(山里亮太)ああ、『カーズ2』。
(町山智浩)で、『ズートピア』って「ズー(Zoo・動物園)」と「ユートピア(Utopia・理想郷)」っていう意味ですけど。これはね、人間以外の動物たちが進化して、文明を築いて、全ての動物が協同して幸せに、平和に暮らせるズートピアっていう街を作り上げたっていう話になっています。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)で、草食動物のキリンとか鹿とかウサギとか、そういうのと、トラとかライオンとかの肉食動物が仲良く暮らしている大都会なんですよ。ズートピアは。
(赤江珠緒)うんうん。もう現代的な文明社会で暮らしているという。
(町山智浩)スマホとか出てきますよ。ネットとか。はい(笑)。で、主人公は女の子でウサギなんですよ。野ウサギで。ジュディっていうんですが。その子が警察官としてズートピアに就職するっていうところから始まります。ところが、そのズートピアではなぜか、肉食動物が次々と行方不明になっている。失踪事件が起こっている。で、それを捜査するという話なんですね。
(赤江珠緒)ふーん。うん。
(町山智浩)で、一応警察官、刑事ものなんでミステリーになっているんで。あんまり詳しくは言えないんですけども。これね、日本でも絶対に面白い映画なんですが、ただアメリカ人のための話になっているところがあって。それがわかるとね、もっと面白いんですよ。
(山里亮太)なるほど!
アメリカ人向けのネタを解説
(町山智浩)たとえばね、こういう話があって。主人公が、犯人のナンバープレートを照合するために、日本だと鮫洲とかにある運転免許試験場があるじゃないですか。自動車の。ナンバーの登録とかをするところね。そこがアメリカにも、「DMV」っていう場所があるんですけど。そこに行って、ナンバーの照合をしてもらうシーンがあるんですよ。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)ウサギの警察官が。すると、そこで働いている職員が全員ナマケモノっていうことになっているんですね。で、ナマケモノだから、「ナンバー……照合……するん……です……か?」とかって、ゆっくりしゃべるんでイライラするっていう、もう日が暮れちゃうっていうギャグがあるんですけど。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)これは、アメリカのDMVはものすごく遅くて、ものすごく待たせるっていうことを体験している人だと、めちゃくちゃおかしいんですよ。
(赤江珠緒)あ、そうなんですか。
(町山智浩)だからね、アメリカの映画館でも笑っていたのは大人だけでした。子供は試験場に行かないから、わかんないんですよ。だから笑ってないんですけど。あとね、結構これ、スタッフが自虐的なギャグをやっていて。主人公がどうしても事件が解決しない!ってことで悩んでいると、こう言われるんですよ。「これが他のアニメだったら、女の子が楽しく歌っていりゃ解決するのにね。”Let It Go”」って言うんですよ。
(赤江珠緒)おおー!
(町山智浩)これは『アナ雪』のことをちょっと笑っているんですけど。スタッフは同じですけどね。
(赤江珠緒)ねえ。自ら、自虐的に。へー。
(町山智浩)そうなんですよ。あとね、羊の副市長さんが出てくるんですね。その羊の副市長さんの毛は、羊だからふわふわじゃないですか。それを見ているうちに、触りたくなって触ろうとするんだけど、「触っちゃダメ!」っていうシーンがあるんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)これ、たぶん日本の人だと全く意味がわからないシーンだと思うんですよ。
(赤江珠緒)私もわからない。全然。
(町山智浩)これはね、アメリカでアフロヘアーの女の子。要するに、アフリカ系の血が入っている人。の、ちりちりの毛を見ると、女の子同士だったりすると、「ちょっと触らせて」っていう人がいるんですよ。「ちりちりでふわふわね。触らせて」って言う人がいるんですけど、それは、アフロ系の人には絶対にやっちゃいけないことなんですよ。
(赤江珠緒)あ、そうなんですか。
(町山智浩)そうなんですよ。いちばんイラッとすることらしいんですよ。で、それを羊の毛でやっているシーンなんですね。だからこれはたぶん、日本の人には全くわからないと思います。あとは、主人公のウサギが警察署に入った時、警察署の受付の人がヒョウなんですけど。「ウサギがこの警察署に入ってくるっていうのは聞いていたけど、本当にかわいいね。思っていたより」って言うんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)それで言われたウサギの主人公のジュディが、「ウサギが他のウサギに『かわいいね』って言うのはいいんだけど。ウサギ以外の人がウサギに対して『かわいいね』って言うのはマズいんですよ」って言うんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)これは、ある特定の言葉がその人種同士だといいけれど、その人種と違う人が言ったらいけないっていう言葉があるんですよ。
(赤江珠緒)はー。
(町山智浩)これはたとえば、いわゆる「ニガー」っていう言葉なんですよ。で、ニガーっていうのは黒人の、アフリカ系同士が言った場合は、「マイ・ニガー」とか言うんですけど。「仲間・友達」みたいな意味なんですよ。でもこれを、白人とかが黒人に対して「ニガー」って言ったら、「この奴隷め!」って言っている意味になっちゃう。
(赤江珠緒)ああー、そうか!
(町山智浩)だから、絶対に言っちゃいけないんですよ。
(赤江珠緒)じゃあアメリカの実社会のそういったいろんなことが散りばめられているんですね。
(町山智浩)この『ズートピア』っていうのはそういう映画になっているんですよ。で、このズートピアっていういろんな動物が仲良く暮らしている街っていうの自体がアメリカを象徴しているんですね。
(赤江珠緒)うんうんうん。
ズートピア自体がアメリカそのものを象徴する
(町山智浩)だからこれね、ある店……アイスクリーム屋さんかなんかに行くんですね。主人公たちが。すると壁に「私たちにはお客さんにサービスをしない権利もあります」っていうプレートが貼ってあるんですよ。お店に。これは、アメリカではものすごく問題のあるプレートなんですよ。いま現在も貼ってある店がたまにあるんですけど。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)これは態度の悪い客とか、汚い格好をして入ってきた人とか、ホームレスの人とかを入れたくないよとか。そういう人たちにお店のものを買わせたくないよっていう意味で貼るわけですね。酔っぱらい客とかね。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)でも、それ自体が法律的にどうなのか?っていうことで、いっつも裁判になることなんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)で、そのプレートは実際に使われていた時期があって。1960年代までアメリカ南部のレストランとかは、白人専用のレストランは黒人が来ても注文も取らないし、料理も出さないっていう状態があったんですよ。
(赤江珠緒)ええ、ええ。
(町山智浩)メキシコ系の人が来たりすると。南部ではですね。そういう時にそのプレートを貼って、それを示すっていうのがあったんですよ。そういうシーンなんですよ。だからこの映画は、実はすごくアメリカの非常に政治的な実情を描いているんですよ。『ズートピア』っていう映画は。
(赤江珠緒)ねえ。ものすごいかわいい動物のアニメに見えて。へー!
(町山智浩)もちろんそれでも楽しめるんですけど、根底にあるのは、そうじゃないところがあるんですよ。リアルなものなんですよ。で、もう1人、キツネのニックっていうのが出てくるんですね。すると、キツネだっていうだけで、「キツネは嘘つきだし、人を騙すから」って言われて、就職ができないんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)いろんなところで弾かれちゃうんですね。キツネと言えば、英語では「キツネのようにズルい」っていう言葉があるんですよね。だから、「キツネなんか信用できない」って言われるんですよ。これは、要するに「ある一定の人種は全部そうなんだ」っていう言い方ですよね。
(赤江珠緒)そうか。
(町山智浩)これは、レイシャル・プロファイリング(Racial Profiling)って言われる人種による決めつけで、いちばん問題があることなんですよ。
(赤江珠緒)うん、
(町山智浩)でも、英語にも日本語にも、動物を比喩に使うっていうのはありますよね。いっぱいね。でも、それ自体が決めつけで。いわゆる「ステレオタイピング(Stereotyping)」っていうことなんですよね。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)「○○は△△だ」と。「キツネだからズルいんだ」みたいな。「ウサギだから賢いんだ」みたいな。そういうことなんですよ。で、それの危険性とか間違いを描いているんですね。『ズートピア』っていう映画は。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)だからね、動物が出てきて、みんな人間みたいに生活して楽しいねっていう話では、実はないんですね。
(赤江珠緒)ふーん! ディズニー、盛り込んでますね。メッセージ性を。
(町山智浩)いや、やっぱりこれね、すごい早いなと思うのは、いま現在、ドナルド・トランプとかテッド・クルーズとか共和党の議員たちは、たとえばドナルド・トランプはこういうことを言っているわけですね。「メキシコ系の不法移民は全部叩きだせ!」。ないしは、「メキシコ系の人間はみんな犯罪者とレイピストだ」って言ったりで、決めつけているんですよ。まさに。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)で、テッド・クルーズに至っては、「イスラム系の住民が住んでいるところは、警察が巡回しろ」って言ってるんですね。これ、「イスラム系=犯罪者である」っていう決めつけなんですよ。で、それより前にこの映画は制作されていたんですけど、まさにドンピシャリなんですよ。
(山里亮太)なるほど!
(町山智浩)はい。で、その草食動物に対して、肉食動物は実際に数が少ないですよね。アフリカなんかでも、草食動物はものすごい群れをなしてたくさんいるけども、肉食動物は少ないじゃないですか。そういう人口比になっているんですよ。ズートピアも。
(赤江珠緒)うんうんうん。
(町山智浩)で、これ草食動物はおとなしくて文明的なんですね。この映画の中だと、いわゆるステレオタイプが。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)でもこの「草食動物がおとなしくて、肉食動物が凶暴である」っていうのも実はステレオタイピングで。決めつけなんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)どう思います? それに関して。
(山里亮太)でも、そのイメージでずっと考えちゃいますね。草食動物。ロバとかね。
(町山智浩)そうですね。でも、アフリカで一対一で戦った場合に、ゾウを除いて最も最強の動物ってなんだと思います?
(赤江珠緒)ああー。あのね、カバが強いって聞きましたけど。
(町山智浩)カバも強いですね。
(山里亮太)ワニ?
(町山智浩)最強なのは、水牛なんですよ。
(赤江・山里)水牛!?
(町山智浩)水牛。英語だからバッファローですけど。「buffalo lion」でインターネットで検索すると、水牛がライオンを殺しまくっている映像が山のように出てきますよ。
(赤江・山里)ええーっ!?
(町山智浩)水牛、最強なんですよ(笑)。でも、牛だから草食ですよ。でも、最強なんですよ。本当は。だから、「草食=やさしい」っていうのは勘違いで。あとは、たとえば羊っていうのは、英語で「Sheepish」っていうのは「おとなしい」っていう意味なんですね。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)でも、牡羊ほど凶暴な生き物はいないですよ!
(赤江珠緒)ああ、そうか。
(町山智浩)牡羊とか牡鹿は嫁取りの時に男同士でもって徹底的な戦いをするんですよ。頭突きして。で、それは時には相手を殺すほどやる時もあるんですよ。で、しかもその時期は、人間とか自動車を見ても立ち向かってくるんですよ。彼らは。
(赤江珠緒)そうかー。
(山里亮太)牡鹿に襲われたことある。俺。
(赤江珠緒)ええっ?
(町山智浩)でしょ?殺されますよ。下手すると。本当に。
(山里亮太)たしかに。すっげータックルかまされて。
(町山智浩)そうなんですよ。だからアメリカでは、牡羊なんていうのは「Ram」って言って、男らしさの象徴でもあるんですよ。凶暴な。トラックの名前になっていますね。
(赤江珠緒)あ、そうですか!
(町山智浩)だから、草食動物と肉食動物っていうのも、すごくみんな決めつけをしているんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)だからそれこそ、さっきの「DMVっていう試験上に行くとみんなノロマだ」っていうのも、ひとつの決めつけなんですよね。
(赤江珠緒)うんうん。
危険な決めつけ
(町山智浩)だからこれは僕もよくやっちゃうんで、本当に危険なことなんですけど。「○人はナントカだ」っていうこと自体が、だいたい通用しないですよね。本当はね。
(赤江珠緒)そうですよね。本来はね。
(町山智浩)そんなもので、なにも決まらないですよ。
(赤江珠緒)日本人の中でも、バラバラなのにね。
(町山智浩)そうなんですよ。たとえば、アメリカン・インディアン。先住民っていうのはいますけど、先住民の身体的特徴っていうのは、もう全くかけ離れているのに全部ひとくくりにしていたりしますよね。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)ただ、この映画はそのことをものすごく突き詰めて考えていて。特にズートピアっていうのは本来だったら敵同士だったり食ったり食われたりする関係の動物同士が仲良く暮らしているんですけど。これはまさに、アメリカを言っているんですよね。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)アメリカはたとえば、中国人もチベット人も仲良く暮らしていますよ。アメリカは。
(赤江珠緒)ああー。
(町山智浩)で、ウクライナとロシアも戦争してるけど、ウクライナとロシアってアメリカだと同じ東ヨーロッパ系のレストランとか食料品店で働いたりしていて。隣人ですよ。
(赤江珠緒)そうか。入り混じっているわけですもんね。
(町山智浩)あと、ユーゴスラビアが内戦になった時、セルビアとクロアチア人が殺し合いをしましたけども。あの時、セルビアとクロアチア人同士で結婚している人とかがみんな、アメリカに逃げてきましたよね。
(赤江珠緒)うーん。そうか。
(町山智浩)アメリカに行ったら、セルビア人もクロアチア人も友達で隣人なんですよ。アルメニア人とトルコ人も仲間なんですよ。アメリカに来たら。だから、このズートピアっていうのはアメリカそのものを一種象徴していて。で、セリフの中で出てくるんですよ。「もしあなたがキツネに生まれて、ゾウになりたかったら、ゾウにでもなれるのがこのズートピアなんだ」って言うんですよ。
(赤江珠緒)へー。
(町山智浩)これは、アメリカの国是みたいなものなんですよね。「なりたいものになれるんだ」と。で、昔、ヨーロッパはお百姓さんに生まれたら、一生農民になるしかなかったのが、アメリカに行ったら何にでもなれたわけですからね。だから実際にそうかどうかっていうのは、実際にそうじゃなくても、そういう風にしようよっていうのがこういう映画なんですよね。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)ディズニーは昔からやっているんですよ。
(山里亮太)昔から?
(町山智浩)そうなんですよ。『わんわん物語』って1955年にディズニーが作っているでしょ?あれは、主人公はレディっていう血統書付きのコッカー・スパニエルなんですよ。で、コッカー・スパニエルはイギリスが原産で、イギリスから来た、いわゆるWASPを意味しているんですよ。
(赤江珠緒)はー。
(町山智浩)で、それが全く親のわからない浮浪児の男の子(トランプ)と結婚するっていう話ですよね。で、子供を作るっていう。あれは要するに、何人でもない、アメリカ人っていう新しい民族が生まれるんだっていう話ですよね。
(赤江珠緒)あっ、そうか! 子供の時、そんな、わかってなかったね。なるほど。
(町山智浩)だからあれは、トランプっていう浮浪児の男の子の仲間の犬の名前はボリスっていう名前で、あれはロシア系ですよね。それでペドロっていうのがいて、プエルトリカンなんですよ。で、イタリアンレストランに行くんですよ。
(赤江珠緒)ああ、そっかー!
(町山智浩)だからWASP以外の人たちとWASPが混じりあってアメリカを作っていくんだよっていう話が『わんわん物語』だったんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)だからディズニーは一貫してそれをやっているんですけどね。だからこれ、ステレオタイプでやるっていうことはすごい危険だということを言っていて。中で、ウサギが運転するんで、「ウサギは運転が下手だよな」っていうセリフが出てくるんですけど。あれは、アメリカではね、「女は運転が下手なんだ」っていうステレオタイピングがあるんですよ。
(赤江珠緒)はー。
(町山智浩)だからそれも言っちゃいけない。
(赤江珠緒)ねえ。そういう決めつけって、なんでか、自分のデータで分析して分類したいっていう、そういう欲望なんですかね? なんか、しちゃいますもんね。そういう……
(町山智浩)それはもう本当に、僕もやっちゃうんですけど。それは本当によくないことなんですね。
(赤江珠緒)怖いですね。人間がよくやりがちなことですけど。
(町山智浩)やりがちなんですよ。だからそういうことを、子供の頃に、楽しいアニメで教えてくれるのが『ズートピア』なんですけど。ちょっといま、プリンスが書いた曲をシニード・オコナーが歌っている歌をかけていただきたいので。プリンス、この間亡くなったんですけども。
『Nothing Compares 2 U』
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)これ、聞いていただくと、『Nothing Compares 2 U』というプリンスが書いた曲なんですけど。この歌、ジャンルとして何だと思います?
(赤江珠緒)う、うん?
(山里亮太)バラード的なやつ? ゆったりとした……
(町山智浩)これ、ジャンルがないですよね。このプリンスの歌って。これ、プリンスが書いた曲をシニード・オコナーっていうアイルランドの歌手が歌っているんですけど。まあ、強いて近いものといえば、ゴスペルですけど。プリンスっていうのは本当にジャンルがない人だったんですよ。で、彼はソウル・ミュージックとかファンク・ミュージックとロックとがもうごっちゃになっていて。それで、黒人の間では「ロック寄りすぎる」って批判されたりもしていた人なんですよね。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、彼自信が紫っていう色を自分のテーマカラーにしていたんですけど。あれは、青は男の子の色で、赤は女の子の色だからなんですよ。
(赤江珠緒)はー!
(町山智浩)男でも女でも関係ねえだろ?っていう色で、パープルにしていたんですね。彼は。
(赤江珠緒)それでパープル。
(町山智浩)で、プリンスのシンボルマークっていうのは、いわゆる男のシンボルマークと女のシンボルマークを足したものなんですよ。「どっちでもないよ」っていうことなんですよ。
Twitter! @unicode decides which emojis are released. Pls RT this to URGE them to release a Prince Love Symbol emoji. pic.twitter.com/ZMNMZdlpI8
— moe ?????? ?? (@MoeArora) 2016年4月26日
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)で、ジャンルも決まっていないし。だから「決めつけ」っていうものを破壊していく人がプリンスでしたね。
(赤江珠緒)そういうこと。そういう枠組みみたいなものをね。
(町山智浩)枠組みみたいなものを。それが、まさにアメリカだなって思うんですよね。ということで、無理やり『ズートピア』からプリンスにつなげてみました。はい。
(山里亮太)このタイミングでね、聞きたかったですもんね。町山さんの口から、プリンスの件は。
(赤江珠緒)そうですね。
(町山智浩)はい。でもこの歌はすごくいいのは、歌詞はね、「いろんな男の人と付き合ってみたけれども、とてもあなたとは比べ物にならないわ」っていう歌なんですよ。だからまあ、これは恋愛の歌ですけども、まさにプリンスのことをね。プリンスが書いた曲ですけども。いまはもう、みんなのプリンスに対する気持ちが歌われていると思いますね。
(赤江珠緒)「あなたが最上である」っていうね。
(町山智浩)だから、「他とは比べ物にならない」っていうことです。ジャンルに分けられないから。
(赤江珠緒)そうか。じゃあ『ズートピア』はただただ楽しい映画かなと思っていましたが、そういうことを感じながら見ると、また違うかもしれませんね。
(山里亮太)より一層。
(町山智浩)だから子供の頃にこれを見ていくと、大人になってからそういう場に行った時に、「ああ、私は決めつけをしていたんだ。それじゃ、いけないんだ」っていうことを小さい時から教えてくれるアニメですね。
(赤江珠緒)はい。わかりました。今日は現在公開中のディズニーアニメ最新作『ズートピア』のお話でした。町山さん、ありがとうございました。
(山里亮太)ありがとうございました。
(町山智浩)どうもでした。
町山智浩さんによる補足
翌週放送の『たまむすび』で町山智浩さんが一部、補足説明をしていました。
(町山智浩)あのね、先週ちょっと話した『ズートピア』について補足したいんですけども。主人公のウサギが警察署に入ってきた時に「かわいいね(キュートだね)」って言われて。「キュートって別の動物から言われると、ちょっと困る」って話をするシーンがあって。それについて、人種的な問題もあるんですけど……あれ、セクハラですよね?
(赤江珠緒)はー! ああ、そうかそうか。上司から「かわいいね」と。
(町山智浩)そうそうそう。だって、仕事で評価すべきところなのに、かわいいかどうか、関係ないじゃないですか。だから女の人同士だったら「かわいいね」っていうのはありでも、男性の職員が女性の新人職員に対して「かわいいね」って言うのは、それでもうおかしいよっていう話ですよね。
(赤江珠緒)ああ、そういうこと!
(町山智浩)そう。だから非常に多重的に、何重構造にもなっていますね。あの映画は。ひとつのセリフがね。まあ、非常に深いものだと思いました。はい。