米軍がISISを支援(創設)してきたことについて、私は何度か記事にしてきたが、これまで米当局はそれを認めていなかった。
だが最近、米軍の諜報機関(DIA)の元長官であるマイケル・フリン(Michael Flynn)が、米軍はアサド政権を倒すため
、意図的にISISが強くなっていくように仕向けたと発言し、それを裏付けるDIAの2012年の報告書も同時期に機密解除された。
米軍がISISを支援したことは、もはや無根拠な陰謀論でなく、米軍の元高官が批判的に語る「事実」だ。
(US ex-intelligence chief on ISIS rise: It was 'a willful Washington decision') (◆露呈するISISのインチキさ) (テロ戦争を再燃させる)
ロシアは今回初めて、シリア軍にロシアの軍事衛星が撮った映像を配給するようになった。これにより、
シリア軍はISISやアルカイダの動きを正確に把握できるようになった。これまで米軍は、アサド政権を潰す作戦の一環として、
シリアの「穏健派反政府武装組織」に、米軍の人工衛星が撮った映像をリアルタイムに配給していた。
「穏健派」と称される武装勢力はISISやアルカイダと密接な関係にあり、彼らは米軍のリアルタイムな衛星画像によって
シリア軍の動きを正確に把握して回避・反撃してきた。これがISISの強さの秘訣の一つだった。
今回、ロシアが対抗的にシリア軍にリアルタイムな衛星画像を配給したことは、今後の戦況を転換しうる。
ロシアは、米政府の了承を得たうえで、シリア軍に衛星画像を供給している。 (The Russian army is beginning to engage in Syria)
イランは、ISISやアルカイダと戦うシリアの大半の武装勢力を支援しているが、それらは地上軍戦力であり、
空軍の面で支援が少ない。ISISは最近、砂漠を進軍し、アサド政権の本拠地がある首都ダマスカスの郊外を攻略し、
ダマスカスがISISの砲撃を受け、アサド政権は危機に瀕している。この問題を解決するため最近、
ロシアが初めて空軍の顧問団をダマスカスに派遣した。ロシアは07年に6機のミグ戦闘機をシリアに売る契約をしていたが、
その後の内戦でロシアが販売を棚上げしていた。今回ロシアは棚上げを解除してミグをシリアに引き渡し、
露空軍顧問団の支援のもと、シリア軍がISISへの空爆を強めている
米軍は、ISISやアルカイダに衛星画像を供給してきただけでなく、ISISやアルカイダがシリア軍に空爆されないよう、
シリアの北隣のトルコに迎撃ミサイル(パトリオット)を配備していた。NATO加盟国であるトルコには、
シリアやイランから飛んできたミサイルなどを迎撃する名目で、米国とドイツなどがパトリオットを配備していたが、
それらはシリア国内を飛行するシリア軍の戦闘機を撃ち落とすこともできた。トルコのシリア国境沿いにパトリオットが配備されていたため、
シリアの空軍機はトルコとの国境から数十キロ以内の地域を飛ぶことができず、この地域はアルカイダやISISの巣窟になっていた。
アサド政権を敵視するトルコは、国境越しにアルカイダやISISに武器や物資を支援してきた。 (The Russian army is beginning to engage in Syria)
米国のオバマは、ロシアのプーチンにシリア問題の解決を依頼しているが、その一方で米国は、
ウクライナ危機で濡れ衣的なロシア敵視をやめていない。9月の米NYでの国連総会にプーチンが議会の議長らを連れて
10年ぶりに出席することを決めたところ、米政府は露議会議長(Valentina Matvienko)に米国への入国ビザを出すことを渋り、
米国での同議長の訪問先を国連本部だけに限定するビザを出す嫌がらせをしている。
(Putin Plans to Attend UN General Assembly For First Time in 10 Years) (US lost neutrality to host UN headquarters: Commentator)
8月中旬、米国とドイツの政府は、トルコに配備したパトリオットを来年初めまでに撤去すると相次いで発表した。
撤去の表向きの理由は、トルコ軍の防空力が向上して米独がミサイルを配備する必要がなくなった、というものだ。
本当の理由はそんなものでなく、昨年来、本気でISISを退治する策を続けるオバマ政権が、
ISISをこっそり支援してきた米軍をおしのけ、ロシアやイランに頼みつつISIS退治を本格化する一環として、
シリア空軍がトルコ国境沿いの自国領を自由に飛んでISISを空爆できるようにしたのが、パトリオット撤去の本質だろう。
(Patriot Missiles to be Removed from Turkey in October) (U.S., Germany to pull Patriot missiles from Turkey)
露イランは、すでに述べた軍事支援によって、シリアでアサド政府軍の優勢を形成し、並行してISISと
アルカイダ以外のシリアの反政府勢力(いわゆる穏健派)とアサド政権の代表を集めてモスクワで会議を開き、
和解させようとしている。穏健派の反政府勢力はクルド人以外、弱い勢力ばかりだが、米欧やサウジアラビアは
穏健派へのテコ入れを建前的な戦略としてきたので、ロシアはその建前につきあい、穏健派とアサド政権を和解させ、
米欧が満足できる形式を作りたい。
和解が達成されたら、米欧やサウジがアサドを敵視をやめる一方、イラン傘下の武装諸勢力が主導し、ISISと
アルカイダを退治する戦闘を本格化する。退治が完了したらシリアで選挙を行い、新政権を決めるシナリオと考えられる。
露イランは、クルド人の協力を得るため、内戦後のシリアを連邦化し、クルド人に大幅な自治を与える構想のようだ。
アサド政権はそれに同意したようだが、クルド人の独立を何よりも恐れるトルコが反対し続けている。
トルコは、これまで中東で最も安定した国の一つだったが、急に不安定になり始めている。
(Turkey's shift on Isis is a mark of US success)
ロシアは、このシナリオに沿って中東アラブ諸国を説得している。すでにヨルダン国王やエジプト大統領、
UAE皇太子、サウジアラビアの特使などが相次いでモスクワを訪問した。このシナリオは米国の同意も得ているようで、
ケリー国務長官が年初来何度も訪露している。
(Middle East Leaders Head to Moscow to Sign Arms Deals, Discuss Plan to End Syrian War) (Russia emerges as key player in new round of Syria diplomacy)