今までに描いたはがき絵をいろは歌に沿って紹介していくシリーズが四周目に突入です。現代仮名遣いにない「ゐ」と「ゑ」はとばします。「を」と「ん」で始まるはがき絵もありませんので、全部で四十四作品を紹介する予定です。
四周目はお絵かきのチャットゲーム「あつまれ!おえかきの森」で「相方」なる人物と合作した投稿絵を中心に紹介していきます。いわゆる「はがき絵」として描いたものではありませんが、新たに解説文を付けて紹介していきますのでお付き合いください。
四周目の第四回目は「ぬ」「る」、そして「を」をとばして「わ」の三つです。
『ぬ』・・・ぬる燗
ぐい呑みを持つ手を描いて「咲」という字をデザインして書き添えてあります。この絵に「ぬる燗」と題し、『ぬ』の部をクリアしようという魂胆です。実は『ぬ』の部は少々ネタ不足に悩んでいます。俳句では「温め酒(ぬくめざけ/あたためざけ)」が秋の季語、「燗酒」「熱燗」などが冬の季語に分類されています。さて、「ぬる燗」はどうなのでしょう。
この絵のぐい吞みはやや粗い長石および石英を含んだ陶肌の、伊賀焼のものです。手にしたときに少しいらっとした手触りがあります。そこが持ち味です。窯の中で灰を被った部分がガラス質になって、自然の釉薬として働いています。「ビードロ」と呼ばれる薄緑色の部分です。
・ぬくもりのあるかなきかに温め酒 長谷川 櫂
・菊剪りし指の匂ひや温め酒 徳丸 峻二
・温め酒夫の遺愛の白磁杯 芝 尚子
『る』・・・ルリボシカミキリ
カミキリムシの一種、ルリボシカミキリを描きました。書き添えた「天牛」もまた「カミキリムシ」を表す漢字です。長い触角を牛の角になぞらえたものだといいます。韓国語でカミキリムシを「하늘소(ハヌルソ)」とういうのですが、「하늘(ハヌル)」は「天」、「소(ソ)」は「牛」ですから、韓国語でもカミキリムシは「天牛」ということになります。「カミキリムシ」の意味するところは「紙切り虫」でも「噛み切り虫」でもなく、「髪切り虫」です。嚙む力が強く、髪の毛でも簡単に切ってしまうことから名づけられたようです。実際に髪の毛を口元にもっていくと簡単に切ってしまいます。
「天牛」は夏の季語。私は柳の木にいるゴマダラカミキリをもっともよく見かけるような気がします。
・天牛のぎいと音して日没りけり 佐藤 鬼房
・天牛の星空の髭長々と 斎藤 夏風
・天牛の金剛力を手にしたる 大石 悦子
『わ』・・・若ごぼう
私が住む大阪府東部では、春先に「若ごぼう」が出回ります。春を告げる食べ物と言ってもよいかもしれません。特に八尾市が産地として有名です。炒めて食べることもありますが、多くは煮びたしにしていただきます。この絵では厚揚げと炊いていますが、我が家では薄揚げと炊くことの方が多いかもしれません。若ごぼうを食べると「ああ、春が来たな」と感じることができます。
俳句歳時記を見ると「新牛蒡」「若牛蒡」は夏の季語、それも晩夏の季語に分類されていて「あれ?」となりました。調べてみますと、歳時記に載っているほうの新牛蒡・若牛蒡というのは、種まき後3、4か月で収穫される早蒔きの牛蒡のこと、と書いてあったので、これは若いといえども根を食べる牛蒡で、私が若牛蒡と呼んで春先に食べているのは、もちろん根も食べますが、根はまだ小さく、主に茎(葉柄)を食べているものです。絵でも緑に着色しているでしょう。この収穫が春先なのです。
・しなやかに小石畑の新牛蒡 沢木 欣一
・いにしへの赤土粘る新牛蒡 沢木 欣一
・新牛蒡時くればする厨ごと 北原 志満子
ですから ↑ これらの「新牛蒡/若牛蒡」は晩夏に収穫して根を食べる牛蒡ということになります。