これから少し、国土について考えてみたいと思っています。
日本の賃金が上がらない背景には将来を不安視して消費が増えず、経済が活性化しないだとか、日本の人口が減少するので、市場が縮小するので企業が投資を控えるからなどという原因が挙げられています。いずれも長期的要因であり、コントロールが難しい要因かと思います。
他方で、もっと具体的に人口が首都圏に影響を及ぼしたかもしれない要因がある。2011年に発生した東日本大震災が首都圏にどのような影響を及ぼしたかということです。北日本から首都圏へ人口流入があり、それが果たして戻れたかという問題設定です。
この論文は戻れなかったのではないかという設定で書かれています。そうするといじりにくい社会保障制度や人口政策とは別に国土、産業政策から賃金上昇を図るためには何ができるか考える視点も生まれてくるかと思います。
「首都圏の再編と第二太平洋ベルト建設」がテーマとなっていますが、日本の将来を脅かす二つの問題点として高齢少子化、賃金上昇がないことが挙げられています。今はウクライナ情勢などで物価があがっていますが、デフレ状況の改善ということでしょう。ただ先の条件は有名ですが、私はより具体的な状況として、首都圏問題、東日本大震災問題があり、これらの問題は東京オリンピックという間違ったアプローチによって改善を図ろうとしたのではないかと考えはじめております。これらを改善するためには東京一極集中を是正することが重要であり、そのために首都圏の再編成と第二太平洋ベルトの建設というアプローチを提起してみたわけです。
本題に入る前にさまざま問題点を見ていきましょう。高齢少子化とは医療の発展によって高齢者の死亡率が低下し、女性の社会進出や晩婚化によって出生率が低下することによって引き起こされるさまざまな問題(特に労働力の減少)が挙げられます。賃金上昇の停滞とは、賃金が低い状態で推移し、所得が伸びず、需要が高まらない状態が続いて経済が活性化しない状態が挙げられます。労働力が減少すれば賃金は上昇するはずだが、そうはならないという問題が続いてきました。
高齢者の死亡率の低下、女性の社会進出、晩婚化は変更が難しい、コントロールが難しい要因でしょう。しかしそれ以外の要素、住宅の狭さ、教育費の高さ、保育所幼稚園の入所待機、時間外保育などの問題は東京一極集中の問題が回避されれば、改善の可能性の余地はあるのかもしれません。また賃金の上昇についても、東京圏への一極集中が大きく影響しているかと思われます。東京圏で労働需要と労働供給がひっ迫して賃金が上昇しそうになっても地方から人口が流入し、かつ地方にリターンできる産業がなくなっていれば、逆に東京から地方に戻る流れもないということになります。
2021年に開催された東京オリンピックに合わせて、東京のリニューアルがなされてきた半面、東京の足元を見れば、江戸川区、葛飾区といった下町地区の防災状況はあまり改善されているようでもありません。また城南や西部の密集地帯の改善もなされてこなかったのではないでしょうか。これらのことはなされなかったというよりも(本質的には)不可能だと思われてきたからでしょう。
収益力のある東京に投資が行われ、ますます魅力が増すが、東京の防災の問題は根本的には解決されず、高齢少子化も賃金上昇の問題も解決されない、東京のブラックホール化と呼んでもいいかもしれません。
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