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石ころ

わたしは背負って救い出そう

 「エッ!!」レジの前で財布を開いて絶句した。入れたはずの一万円札が忽然と消えている。確かに家を出るときに新札の一万札を入れて来たのに・・「どうしますか・・」と苛立たしそうに繰り返す店員を前にして、「?」一体どうなってしまったのかと、この現実がどうにもわからなくて・・うろたえるばかり・・。

「後にしますか、また、初めからになりますが・・」せき立てられて、「はいはい。後にします。ちょっと置いておいて下さい。」やっとそう答えて、呆然とCD機に行ってお金を出す。その間もいったいどうなったのか・・さっぱりわからない。

うろたえる私を見つけて主人と息子が寄ってきた。「どうかしたのか」と聞かれ、説明をしている間に、私もだんだん落ち着きを取り戻してきて、「たぶん財布に入れたつもりで、何処かに置いてきたのだと思う。」という結論に達した。

そうして朝祈ってから出てきたことを思い出すとすっかり気持ちが落ち着いた。
祈って始めたことなら何が起こっても、すべては主の赦しの中なのだからちっとも怖がることはない。お札もたぶん家の中にあるだろうと・・。

 だが帰って部屋中を探したけれども、あの新品の一万円札は影も形もない。そんな馬鹿なことがあるはずがない。財布の中から忽然とお札が消えるなんて・・。
「ああ、そうだ!途中で寄ったお店で千円札と間違えて出したのではなかな・・」と思い、主人に「お店に聞くだけ聞いてみようか。」と相談すると、「そんなことは止めておけ。きっと何処かから出てくるよ。」いつになく厳しい顔をして止められたので「そうだね、疑うみたいになったら悪いね。」と素直に思いとどまった。

それにしても主人が一言も責めないで、むしろ慰めてくれたことが嬉しかった。そもそも、途中で寄った店というのは、主人に「止めておけ。向こうで一緒に買うたらええやろう。」と言われたのを、僅かに安いとか、ポイントが・・とか、つまらないことで強行したことを思い出した。でも「だから寄るなと言ったやろう!」なんて言わない主人の優しさに気づいた。

 ちょっと落ち着いたので祈る。
やはり、主人の言葉を聞き流したことが気になったけれど、祈りの中で「大したことではない・・」という思いが私の中に浮かんだ瞬間、「わたしがお前の言葉を『大したことではない』と言ったことが一度でもあったのか!」という叱責が返ってきた。
「ああ、主よ。あなたはこの虫けら以下の者のために、本当にどれほどご真実でしょう。本当にごめんなさい。」

もうお金のことは大した問題ではなくなった。授業料だったのだと思った。
夜、一緒に心配をしてくれていた息子が、「出かけるときに祈ったのだから、このことにはきっと何か意味があるんだよ。何処かから出てくるように思うよ。」と慰めてくれた。

その夜、なんだか疲れてしまって滅多にないことだけれど炬燵でうたた寝をしてしまった。目覚めたとき息子が台所に漬けたままにしていた洗い物を全部済ませてくれていた。
大きな失敗をしても家族に優しくされていることに気づいて「ああ、呆けることも悪くはないかも・・」なんてチラッと思った。
そもそも私は可愛げがなくて家ではいつも強がっているから、このように弱さを露わにして家族に気遣われた記憶は今までなかった。

 そうして今朝とんでもない所であの新品の一万円札を見つけた。落ち着いて昨日の出かける前の行動を思い出すとそれもあり得る箇所だった。
それにしても、なんとまあドジな話。出したお金を財布に入れないで出かけてしまうなんて・・「主人は急いでいたからなぁ・・急いだらあかんなぁ」と言ってくれた。 

若い時なら、無くし物をしてもそれだけの話だけれど、年を取ると激しくうろたえるのは、その事柄が一瞬にしてすべての自信を押し流してしまうから。
単に物がなくなったというだけの話では終わらず、いつの間にかじわじわと忍び込んでくる老化が、はっきりとした形で現れた事に対して不安で恐いのだ。

でも、でも、年を取ってどんどん弱さを覚える今、かってなく主を甘く近しく思うことができるのはなんという幸いだろう・・。
「私の弱さの中に完全に働いて下さる主よ。あなた無しでは一日も生きられないことが、私たちのすべての幸いの源です!」


「あなたがたが年をとっても、わたしは同じようにする。あなたがたがしらがになっても、わたしは背負う。わたしはそうしてきたのだ。なお、わたしは運ぼう。わたしは背負って、救い出そう。」(イザヤ46:4)

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