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『夏目漱石を読むという虚栄』第七章予告 (11/12)三平方の定理

2024-05-08 00:31:36 | 評論

   『夏目漱石を読むという虚栄』第七章予告

(11/12)三平方の定理

知識人とは奇人のことだ。〈奇人ではない知識人だっているよ〉といった反論をしたがるのは知識人だ。〈知識人≒奇人〉というのは定義だ。私が勝手に作った定義だ。

奇数とは何か。偶数ではない数だ。偶数とは何か。〈2で割り切れる数〉のことだ。知識人は、割り切れないことを割り切ろうと頑張る。割り切れたことにしてしまうのが明るい知識人だ。おめでたい。一方、割り切れなくて悩むのが暗い知識人だ。割り切れなくて当然なのだから、悩むのは滑稽。

私の貧しい体験を語ろう。

コペルニクスの定理、三平方の定理というのがある。「直角三角形の斜辺の上に立つ正方形の面積は、他の2辺の上に立つ正方形の面積の和に等しい」(『広辞苑』「ピタゴラスの定理」)という。これがぴんと来なかった。逆に考えて、〈3:4:5〉の三角形を作図すれば、直角というか、直角らしいものができる。だが、本当に直角なのか。自信がない。

成人後、数学史の本を見て、やっと三平方の定理の正しさを実感した。そして、自分がずっと不安だったことを自覚した。

正方形に二本の対角線を引いた物を敷き詰める。合同の三角形が4個できている。元の正方形の対角線を一辺とする正方形を右斜め上に見つけて、それを構成する三角形の数を数える。8個だ。それは、左と下の正方形を構成する三角形を足した数と同じだ。成程。

この方法では証明になっていない。だが、成程という思いが重要なのだ。成程。納得。ふむふむ。小さな悟り。ささやかな安らぎ。そういった体験を経なければ、先に進もうという意欲は湧かない。きちんとした証明法については〔『ニッポニカ』「三平方の定理」〕参照。

無理数が認められていない時期、今使った正方形の対角線の長さは求めようがなかった。〈1:1:x〉の直角三角形があるのかどうか、わからなかった。わからなくても、よかった。古代人は、自分に納得できる図形だけを使って満足していたようだ。人は、まず古代人にならねばならない。近代人の知識を急に教わると、暗記してしまう。

知識人は納得できていない知識をパッチワークして意見をでっち上げる。だから、不安だ。不安を押し殺すために、他人を教導する。お節介を焼く。あるいは、自分の意見とは異なる意見の持ち主を攻撃する。知識人は敵を特定できない。だから、その矛先を自分自身に向けてしまうこともある。そうなってしまったのが暗い知識人だ。じたばた。齷齪。心労。足掻き。ちっとも偉くない。むしろ愚かしい。

ピタゴラスの定理の思い出とは似て非なる話をしよう。

あるアニメのヒロインが「分数の割り算がすんなりできた人は、その後の人生もすんなり行くらしいの」(『おもいでぽろぽろ』(1:07:30)という台詞を吐く。ぐずぐず、うるせえんだよ。

〈分数で割るときに分子と分母をひっくり返して掛ける、というテクニックを暗記しただけで点数を稼ぐ人は軽薄だ〉と言いたいらしい。点取り虫は、明るい知識人だ。点取り虫を非難するだけで反省しないのは、暗い知識人だ。

この作品で分数の割り算の話は立ち消えになる。作者も暗い知識人らしい。「除法は乗法の逆演算」(『ブリタニカ』「除法」)ということから、わかっていないのだろう。

 6÷2=6/2=6×1/2

次の説明は、算数のできる人には退屈だろう。

1mの紐から1/2mの紐は何本切り取れるか。2本だよね。

1÷1/2=2

じゃあ、1を何倍すると2になる? 2倍だよね。

1÷1/2=1×2/1

だろう? 

吉本隆明か誰か、元理系の知識人が〈分数の割り算なんか、日常生活では使わないから、できなくてもいい〉というようなことを書いていた。〈日常生活〉って誰の? 分数の割り算ができなくて高校に進学できない人の日常生活? 理系に進むべきではない娘たちの日常生活? 幻想の大衆の日常生活? 

もしかして、彼は分数の割り算を理解できていなかったのかもしれない。そして、そのことを隠蔽していたのかもしれない。

パティ「“分数を 割るには 逆数を 用いたのち 掛けること” どうして?」

マーシー「どうして 逆数を 使うかってこと?」

パティ「いいえ、どうして、私 この世に 生まれてきたの?」

(チャールズ・M・シュルツ『ピーナッツ』/「スヌーピーのもっと気楽に①」)

暗い知識人は本音を隠し、何かに託けて不満を漏らす。明るい知識人は空威張りをする。暗い知識人は自分自身に八つ当たりをする。

(11/12終)


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