読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

麻宮好著「母子月 神の音に翔ぶ」

2024-04-09 | ま行
時代劇ミステリー。江戸市村座の公演中に毒殺された歌舞伎の立女形の初代瀬川路京。あれから34年、女形の歌舞伎役者・二代目瀬川路京は人気低迷に足掻いていた。天に授けられた舞の拍子「神の音」が聞こえなくなっていたのだ。路京は座元と帳元の強い勧めもあり、現状打破のため、因縁の演目を打つことに。師匠の初代路京が舞台上で殺され、さらに瀬川家が散り散りになったきっかけの「母子月」だ。当時子役として自分も出演した因縁の公演を前にして、初代殺しを疑われた者たちが集まってくる。真の下手人は誰なのか?初代はなぜ殺されてしまったのか?終幕に明かされる真相に感動の嵐が・・・。特異な厳しい世界でもある歌舞伎の世界・芝居小屋の様子が詳しく描かれて面白い。過去の回想シーンが何度も挿入され登場人物の幼称名が結びつかず読むことに苦労したが、歌舞伎界主人公を陰ひなたで見守る、初代路京の息子の心の機微な描写がいい。
「何かを選ぶってことは、何かを捨てることだろう。」(P295)
2024年1月小学館刊
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湊かなえ著「残照の頂 続山女日記」

2024-01-03 | ま行
シリーズ第2弾。女性を主人公にした山岳ミステリー。
「通過したつらい日々は、つらかったと認めればいい。たいへんだったと口に出せばいい。そこを乗り越えた自分を素直にねぎらえばいい。そこから、次の目的地を探せばいい。」亡き夫に対して後悔を抱く女性と、人生の選択に迷いが生じる会社員。亡き夫の謎と元カレ再会・・・「後立山連峰」。失踪した仲間と、ともに登る仲間への、特別な思いを胸に秘める音大生たちの三角関係。表題「残照の頂」の意味が・・・・「北アルプス表銀座」娘の夢を応援できない母親と、母を説得したい山岳部の女子大生。親との進路相談。・・・「立山・剱岳」。大学卒業後に様々な困難に遭遇し、登山はおろか友人関係さえも疎遠になっていた女性二人が、コロナ禍を乗り越え再び登山を始める、30年ぶりの登山をかつての山仲間と報告し合う疎遠だった友との文通。・・・「武奈ヶ岳・安達太良山」。日々の思いを噛み締めながら、一歩一歩、山を登る女たち。頂から見える景色は、過去の自分を肯定し、未来へ導いてくれる。人生と山と、リンクさせてほろっとさせてくれる素敵な話で、また続編が読みたい。武奈は昨年に、安達太良除き他の山も過去に登ったことのある山ばかりだったので当時のことを思い出しながら読んだ。著者の山を愛している目線が心地好い。
2021年11月幻冬舎刊

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未須本有生著「天空の密室」

2023-12-26 | ま行
著者は東京大学工学部航空学科卒で、大手メーカーで航空機の設計に携わった経験があり現フリーのデザイナー。「令和X年クルマが東京の空を飛ぶ」。空飛ぶ車『エアモービル』研究開発の光と影をえぐる本格ミステリー。自動車部品メーカー・モービルリライアントは、下請け体質からの脱却を図るべく新規事業を立ち上げ、さらなる発展を期して航空業界へと進出した。ドローンを進化させた1人乗り飛行体・エアモービルの開発に乗り出す。試行錯誤の末、試作3号機は公海上での飛行試験までこぎつけたが・・・。湾岸の高層オフィスビルの屋上にバラバラ死体が入ったスーツケースが置かれていた事件が発生。その場所へは警備システムが完備した屋内非常階段を上がるか、ヘリコプターで空からアクセスするしか方法がない。だがいずれもその形跡がなく、死体がどうやって運ばれたか特定できないまま捜査は難航する。役人の保身や嫌がらせが原因で新規の分野の開発が遅れるっていうことがあるとは。資金集め、国交省との交渉など、様々な工程を経て『空飛ぶクルマ』の完成を目指す開発物語の展開なのだが、はじめからある程度犯人は解ってしまうようにしむけているが、最後に意外な人物が名乗り出るというひと工夫されているミステリーでした。
2022年5月南雲堂刊
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宮部みゆき著「ぼんぼん彩句」

2023-11-28 | ま行
12句の俳句をヒントに書かれた12の短編集。著者の洞察力と鑑賞力で俳句仲間の句からのインスピレーションで12の俳句から紡ぎだした作品。社会派からホラー、SFに至るまで、あらゆるジャンルの短編が秘められた玉手箱。短編だから落ちがないのや消化不良の物もあるが思いもしない展開でう~んと唸る作品ばかり。酷い母親やら、危険な男、のっぺらぼうの妖怪などちょっとミステリーホラーが多かった。冬になっても枯れない不気味なゴーヤの話は、赤い種を食べてしまいそうで、背筋が寒い気持ちで読みました。『枯れ向日葵呼んで振り向く奴がいる』『冬晴れの遠出の先の野辺送り』がよかった。俳句をもとに、こんなに想像力豊かに作品を貢ぐなんてさすがです。
2023年4月KADOKAWA刊

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宮部みゆき著「子宝舟 きたきた捕物帳㈡」

2023-03-19 | ま行
シリーズ第2弾。江戸深川の富勘長屋に住み、小物を入れる文庫を売りつつ岡っ引き修業に励む北一が、風呂屋の釜焚きなのに、なぜかめっぽう強い相棒・喜多次の力を借りながら、不可解な事件を解決していく物語。江戸で噂の、「持つ者は子宝に恵まれる」という宝船の絵。しかし、赤子を失ったある家の宝船の絵から、なぜか弁財天が消えたという。時を置かずして、北一もよく知る弁当屋の一家三人が殺される。現場で怪しげな女を目撃した北一は、検視の与力・栗山の命を受け、事件の真相に迫っていく。北一の文庫づくりを手伝っている、欅屋敷の「若」や用人の青海新兵衛、そして末三じいさん。岡っ引き見習いとしての北一を応援している、亡き千吉親分のおかみさんや大親分の政五郎、政五郎の元配下で昔の事件のことをくまなく記憶している通称「おでこ」たちの協力によって難事件に挑む挿入された挿絵にほっこり気分のミステリー捕物帳物語。
PHP研究所刊


 
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宮部みゆき著「きたきた捕物帖」

2023-02-01 | ま行
痛快時代劇ミステリー。舞台は江戸深川。いまだ下っ端で、岡っ引きの見習いでしかない16歳の北一は、亡くなった千吉親分の本業だった本や小間物を入れる箱を売る商売・文庫売りで生計を立てている。やがて自前の文庫をつくり、売ることができる日を夢見て・・・。物語は、ちょっと気弱な主人公・北一が、やがて相棒となる喜多次と出逢い、親分のおかみさんや周りの人たちの協力を得て、事件や不思議な出来事を解き明かしつつ、成長していく物語。北一が住んでいるのは、『桜ほうさら』の主人公・笙之介が住んでいた富勘長屋。いきなり育ての親というか、保護者を失った主人公、おかみさんとの絡みが謎解きのあれこれ、訳ありな喜多次という相棒得て今後の展開と、成長譚としても楽しみだ。登場人物の着物の柄や着こなし、立ち居振る舞いまでが感じられて、心がほっこりで読みやすい。あどけない雰囲気が可愛らしく挿絵もありほっとするページ。今の社会に漂う閉塞感を吹き飛ばしてくれる時代劇だ。続きが楽しみだ。
2020年6月PHP研究所刊

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真山仁著「レインメーカー」

2023-01-06 | ま行
弁護士の執念を描いた法廷サスペンス。アメリカの法曹界では、訴訟で大儲けする弁護士を「レインメーカー」と呼ぶらしい。
「法律を知らないと不幸になる」と医師の側に立ち、法律問題や医療過誤訴訟を闘っている異能の弁護士・雨守誠に、ある日総合病院から依頼が入った。2歳の一人息子を急死させた野々村喬一•結子夫妻が父で県会議長である喬太郎に唆され医療訴訟を起こす。その医療過誤で訴えられた、病院と医師を弁護してほしいというのだ。救えなかったら医師が悪いのか?自身の信念に基づき、雨守は医療現場の矛盾や不条理に斬り込んでいく・・・。「彼らを支援するのは、つまらない訴訟で潰されることなく医療活動を続けてもっと多くの患者さんを救って欲しいからだ」「医療技術が進歩すると、やがて、救えない命なんてなくなるかもしれない。但し、回復のために時間も人も、手間がかかる。それによって医療従事者の負担は拡大していくのよね、そのバランスが歪なの。だから、これは日本の医療制度の根本的な問題だと思う。」(P173)医療訴訟の背後でむりやり医療過誤を作り出そうとする弁護士。医師を守ろうとする弁護士。原告の背後には蠢く政治家。新聞記者は表裏の真相をあばけるか。病院を高値で売却しようとしている勢力も。それぞれの立場やいろんな思惑が絡んで描かれていて面白かった。
2021年10月幻冬舎刊
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湊かなえ著「ドキュメント」

2022-12-14 | ま行
高校部活小説。中学時代に陸上で全国大会を目指していた町田圭祐は、交通事故に遭い高校では放送部に入ることに。圭祐を誘った正也、久米さんたちと放送コンテストのラジオドラマ部門で全国大会準決勝まで進むも、惜しくも決勝には行けなかった。三年生引退後、圭祐らは新たにテレビドキュメント部門の題材としてドローンを駆使して陸上部を撮影していく。やがて映像の中に、煙草を持って陸上部の部室から出てくる同級生の良太の姿が発見された。圭祐が真実を探っていくと、計画を企てた意外な人物が明らかになって・・・。人と人。対面でのコミュニケーションがむずかしくなった今だからこそ、
 「"伝える"って何だ?」のテーマは面白いのだが、区切り方とか文章的構成と人間関係・ストーリーが丁寧でなく難しいので解りにくい。登場人物の心情や心理の描き方は丁寧でいつもの通りなのだが、青春物としてはワクワク感が薄いし、ミステリを期待していたがそれもハズレで湊作品としてはガッカリ感が残る 。
2021年3月角川書店刊


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森沢明夫著「本が紡いだ五つの奇跡」

2022-03-20 | ま行
仕事がなかなかうまくいかない女性編集者の最後のチャレンジで実現した新作小説。それは小説家の涼元マサミが書き上げた、知性と優しさ、遊び心と友情、飛びぬけた行動力を武器に理不尽や不条理に立ち向かっていく少女の物語。その小説が人々を、気持ちを奇跡のように紡いでいく。本が生まれて、読者へとつながる。第一話 編集者・津山奈緒の章から、小説家・涼元マサミ、デザイナー・青山哲也、 書店員・白川心美、読者・唐田一成の章まで本に関わった五人の奇跡のオムニバス物語。立場や環境の違いがあれども、それぞれの人たちの本に対する温かな気持ちは伝わってくる。多くの人間が感銘を受け影響され、新たな行動を起こし、縁を紡いでいく。そんな素敵な感動物語でした。いろいろ気になったセリフを記録します。「いつでも、何があっても、君は一人じゃない。たとえ、大切な人と会えなくなる日が来たとしても、心はちゃんと寄り添っているし、想いは君とつながっている」(P155) 
「わたしの人生は、雨宿りをする場所じゃない。土砂降りのなかに飛び込んで、ずぶ濡れを楽しみながら、思い切り遊ぶ場所なんだよ。あなただって、本当はそうしたいんでしょ?」(P223)
「あなたは、つながっているから大丈夫。だから安心して。思い切って、あなたらしく生きてね」(P234)
「人生の選択肢には正解なんてないけど、でも、いつか、その選択が正解だったって、胸を張れるように生きること。そういう生き方こそがきっと正解なんだってさ。」(P302)「若い頃ってのは、迷いに迷うのが正解なんだよ。ああでもなかった、こうでもなかった、次はこうしてみようって、なるべくたくさんの失敗と修正を繰り返すんだ。そうやってきた奴だけが、いずれ経験豊富な頼り甲斐のある大人になれるんだからな」(P304)
「過去を大切にすることも大事だけれど、いまと未来を大切にしないと、いつかそのかこまで否定することになるよ」(P336)
2021年9月講談社刊

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未須本有生著「ミステリーは非日常とともに!」

2022-02-24 | ま行
ミステリー作家、デザイナー、映像作家、警察官僚の友人たちが自身の経験と知識を駆使し非日常で繰り広げられる日常の謎解きに挑む中編2つ。
豪華クルーズ船で行われる謎解きゲーム、ファンとの交流会を豪華客船「斑鳩」で行う企画を受けた人気ミステリー作家の高沢のりおだが、4泊5日のクルーズ中に客船にまつわるトリックを二社分作らなくてはならなくなった。高沢は友人でかつて航空機に関わっていたデザイナー倉崎修一に同行をたのみ、彼の工学的な知識に頼ろうと考えたのだが・・・「クルーズはミステリーとともに!」。苦労して手に入れた旧いクルマにまつわる悲喜こもごも。念願の旧い1988年製BMW635csiを手に入れた映像作家の深川隆哉は友人たちに自慢するためにドライブに誘う。故障多発の旧いクルマ特有の問題に悩まされながらも楽しんでいる深川だが、友人の警察官僚・園部芳明から車に関するミステリーを相談される。・・・「ドライブは旧き良きクルマとともに!」。クルーズ船では4つ。クルマ編では3つ。派手さはないが謎解きされればなんだそんなことかと、非日常生活に潜む謎解きが楽しめた。
2021年5月南雲堂刊

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森沢明夫著「青い孤島」

2022-01-11 | ま行
広告・イベント制作会社で働く小島佑は社長に僻地の離島・小鬼ヶ島へ行くよう命じられる。実は、会社で使えないやつとレッテルを貼られ、みなが嫌がる離島のPR案件の担当に指名され、離島に赴いたのだ。島に向かう船中で、美しい女性、るいるいさんと出会う。この島はちょっと変わった離島で、住民が東と西で対立。村長選挙や村議会議員選挙のたびにガチンコの争いになる。佑は島の居酒屋に働きにきた・るいるいさんと一緒に島の問題を解決するため、とっておきの作戦を実行する。東軍、西軍でもない地球防衛軍として島の東西融和作戦。佑は、何も知らない島民達から期待されながらも島に来た秘密が暴露され窮地に追い込まれます。島の巫女から救世主と御信託を受けたのに・・・「どうしようもないときはもうひとつのドアに逃げ込めばいい。いつかドアから出て本当の自分と出会い、自分の役割を果たすことで、争いのない社会がきっとやってくるはず。」と落ち込む。会社にいた時の鬱々とした心の重さの正体は「自分が自分でいられる「居場所」がないことからくる不安と寂しさ」なのだと気付く佑。しかし島には島のトラブルだらけだけれど、誰かの役に立つというシンプルな喜びで心が満たされる、これこそ働くことの真髄なのだと気付く。「感動って『心の食べ物』だから常に与え続けないと、心がやせ細る」。(本文より)ドタバタの喜劇だけどほっこり感動の物語でした。
2021年3月双葉社刊

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宮本輝著「灯台からの響き」

2021-11-19 | ま行
板橋の商店街で、父の代から続く中華そば店を営む牧野康平62歳は、一緒に店を切り盛りしてきた妻蘭子を急病で失って、長い間休業していた。ある日、分厚い本の間から、妻宛ての古いはがきを見つける。30年前の日付が記されたはがきには、海辺の地図らしい線画と数行の文章が添えられていた。差出人は大学生の小坂真砂雄。記憶をたどるうちに、当時30歳だった妻が「見知らぬ人からはがきが届いた」と言っていたことを思い出す。なぜ妻はこれを大事にとっていたのか、そしてなぜ康平の蔵書に挟んでおいたのか。妻の知られざる過去を探して、康平は灯台を巡る旅に出る・・・。市井の人々の姿を通じて、人生の尊さを伝える物語。親子や夫婦って何でもわかっている訳ではない事、蘭子さんの芯の強さが印象に残り余韻の残る読後感でした。
2020年9月集英社刊

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道尾秀介著「スタフ Staph」

2021-09-06 | ま行
移動デリを経営するバツイチでアラサーの掛川夏都。借金を返しながら、海外赴任中の姉の息子・智弥を預かる生活はぎりぎりであった。ある日突然、中学生アイドル・カグヤのファンたちに車ごと拉致された夏都は、芸能界の闇に巻き込まれていく。やがてカグヤとファンの暴走に思われた事件は、思いもよらぬ結末を迎えるのだが・・・。前半の突然の誘拐劇も、強引な展開だし、生活と仕事の方で精一杯の筈の夏都の行動に全く共感できないのでもどかしい。後半の少年達の心情は、切なくて理解はできるが、中途半端さと言うか物足りなさが最後まで残った。塾の菅原先生やゲームの世界の住民。素手おにぎりの乳酸菌から ・・心の食中毒?作者は伊坂か? こんな展開で、最後まで気持ちがのらないまま読了。スタフの意味 も最後まで理解できず。
2016年7月文藝春秋社刊
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宮部みゆき著「さよならの儀式」

2021-08-12 | ま行
8つのSF短編集。長年一緒に暮らしてきたロボットと若い娘の、最後の挨拶。・・・表題作「さよならの儀式」。
養父母のもとで暮らしていた主人公の二葉。しかし二葉が16歳のとき、養母の死によって「グランドホーム」という施設に戻されること。虐待を受ける子供とその親を救済する奇蹟の法律「マザー法」でも、救いきれないものはある。・・・「母の法律」。
主人公の藤川達三は、散歩中に奇妙な光景を目にする。少年が防犯カメラを壊そうとしているのだ。果たして少年の目的は、孤独な老人の日常に迫る侵略者の影。・・・「戦闘員」
45歳のわたしの前に、中学生のワタシが現れた。・・・「やっぱり、タイムスリップしちゃってる! 」・・・「わたしとワタシ」。
高校生の主人公・深山秋乃は、10歳違いの妹・春美と母親と3人で暮らしている。春美が突然不調を訴え、通常の学校生活が送れなくなってしまった原因は?妹が体調を崩したのも、駅の無差別殺傷事件も、みんな「おともだち」のせい?・・・「星に願いを」
 千川調査事務所に寺嶋という男が、息子・和己の相談に来た。和己が妙なものを見たというので、その調査を依頼するためだ。依頼人の話によれば、ネット上で元〈少年A〉は、人間を超えた存在になっていた。・・・「聖痕」。
明治日本の小さな漁村に、海の向こうから「屍者」のトムさんがやってきた。フランケンシュタイン博士の作ったものは・・・「海神の裔」。
隔絶された町「ザ・タウン」の保安官のところへ、チコという助手がやってきた。パトロール中、保安官の無線が鳴った。「誘拐事件発生です」なぜいつも道を間違ってしまうのか・・・「保安官の明日」。
親子の救済、老人の覚醒、30年前の自分との出会い、仲良しロボットとの別れ、無差別殺傷事件の真相、別の人生の模索。なぜこの殺人がおきたのか、なぜ監視社会がこれほど進むのか、人とロボットは共存可能なのか、そんな疑問への回答が宇宙人の存在だった等々、読後感は短すぎて暗い面白みのない短編集だった。
2019年7月河出書房新社刊

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道尾秀介著「雷神」

2021-07-08 | ま行
埼玉で小料理屋を営む藤原幸人のもとにかかってきた一本の脅迫電話。それが惨劇の始まりだった。昭和の終わり、藤原家に降りかかった「母の不審死」と「毒殺事件」。 真相を解き明かすべく、幸人は姉の亜沙実らとともに、30年の時を経て、因習残る故郷へと潜入調査を試みる。すべては、19歳の一人娘・夕見を守るために・・・なぜ、母は死んだのか。父は本当に「罪」を犯したのか。村の伝統祭〈神鳴講〉が行われたあの日、事件の発端となった一筋の雷撃。後に世間を震撼させる一通の手紙。父が生涯隠し続けた一枚の写真。そして、現代で繰り広げられる新たな悲劇。ささいな善意と隠された悪意。決して交わるはずのなかった運命が交錯するとき、怒涛のクライマックスが訪れるという展開。主人公の妻の事故死と31年前に起った殺人事件が絡まりあうように進行していくハードボイルド的謎解きは面白かった。田舎の小さなコミュニティーの中で起った怨念の絡まる事件。都合よくて出来事が起きるのは仕方がないのだが、写真家でいわば“事件ハンター”ともいえる彩根が途中都合良く登場して、まとめ進行役を勤めてしまっているのだが立ち位置がイマイチ不明。誰が罪を犯し、誰を救おうとしていたのか、30年前に起きた事件の真相を探る彼らの果たした結果に救いはあったのか疑問に思った。
2021年5月新潮社刊
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