デ某の「ひょっこりポンポン山」

腎がんのメモリー、海外旅行記、吾輩も猫である、人生の棚卸しなど。

吾輩も猫である 56 ( 歌人 道浦母都子 )

2014-05-17 12:10:58 | 吾輩も猫である


 花眼・・・「たましいを運ぶ舟」
 眼を手術した主人、ふと「花眼」という言葉を思い出した。が、どこで出遭った言葉か・・・。漸く思い出したのは歌人道浦母都子「花眼の記」。書棚にはなかったが、道浦さんから主人に贈られた「たましいを運ぶ舟」を開くと第一章に「花眼」の項があった。

 無骨不器用無様不細工
 「花眼」、中国では「老いた眼」。道浦さんは『花のような眼をもってこの世を見、花のようにけなげに美しく老いていく』と記す。仕事上の縁は切れても主人は道浦門下。主人の短歌『潔い人生なんぞ他人事なり無骨不器用無様不細工』は如何にも主人の歌。

 歌集「無援の抒情」
 主人に道浦さんの歌を語る資格はない。資格はないが、彼女の事実上の処女歌集「無援の抒情」には思い入れがある、主人が「魂を運ばれ」た歌集なのだから・・・。「おれが語るのは僭越と言うもんや」と言う主人になりかわり吾輩が主人の思うところを記す。

        
                          「たましいを運ぶ舟」帯より

 炎あげ地に舞い落ちる赤旗に わが青春の落日を見ゆ
 全共闘運動が終焉を迎えた1960年代の終わりを象徴するこの歌集に主人が出遭ったのは、それよりず~っと後・・・バブルがはじけ時代が大きな曲がり角にきた94年だった。共感するところの少ない全共闘運動だが、この歌集は主人の心を揺り動かした。

 あてどなく街さまよいぬデモ指揮の笛の音のごと風の鳴る日は
 全共闘運動が目指したものは何か・・・。彼女の歌集には運動の展望も確信も殆ど描かれない。運動で傷つき心ちぎれ行く彼女の無慙な青春のみが歌集に彷徨う。そのことに主人は或る種の安堵をおぼえつつ、その烈しい言葉とリズムに共感し酔いしれる。

           

 調べより疲れ重たく戻る真夜怒りのごとく生理はじまる
 運動の高揚感に身を晒した後、彼女は逮捕される。「怒りのごとく」始まった生理は、男の想像を超え同情も共感も拒む。嫌悪!ではなく畏怖を醸すのか・・・。権力への憎悪の形をとりつつ核心も確信もない全共闘運動への彼女の深く暗い哀しみの淵を見る。

 君のこと想いて過ぎし独房のひと日をわれの青春とする
 当時の彼女の思想と心の在りかが見える。全共闘運動の現在と未来を想い憂う姿はない。あるのは「君」と「吾れ」の青春のみ・・・彼女の意思を超え彼女の瑞々しい恋情が歌心を研ぎ燃え上がらせる。空虚な独房さえ彼女の「ひと日ひとたび」の青春を巡る。

 共に生きし三年を消すただ薄く白き紙なり震えつつ書く
 彼女は訣別する、恋人にではな、彼女の青春に! 全共闘運動について訣別にふさわしい量感、質感ある歌は見あたらない。薄く白く無機質な紙に彼女の青春の日々を記しつつ、涙もない瞳で去りゆく青春を切って取る。無縁!ではなく無援!の抒情たる所以。

         

 問いたきは「原発安全」 うらうらと綺麗な嘘を吐いたのは誰れ
 「無援の抒情」から20年余、原発安全神話の崩壊を証した東北大震災を詠む。矛先は「無援の抒情」そのままに権力へでも反権力の運動へでもない。いつも人間に向けられる。乾いた瞳で見据えた眼に非ず。矛先を「見据えて去らぬ」眼ぢから漲る眼である。

  【補遺】… 2022.11.14 記
     千里NTにある道浦邸の歌会に出たこともあるが 馴染めず疎遠になったまま…。
     偶に ちょっとしたことで電話をいただき なんとなくそれが安否確認になっていた。
     しかし このところ(事情は見当がつくが)もう電話を頂くこともすっかりなくなった。
     TV・新聞にもよく登場されていたが、そんなに注意していないからなのか… 見なくなった。
     不肖の弟子ゆえ あまり… 否! 滅多に! 歌作せず 弟子たるにはお粗末の限りの私なれど 淋しい。

     
 
【過去ログ目次一覧】
吾輩も猫である~40 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/58089c94db4126a1a491cd041749d5d4
吾輩も猫である~80 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/dce7073c79b759aa9bc0707e4cf68e12
吾輩も猫である81~ http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/f9672339825ecefa5d005066d046646f
腎がんのメモリー http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/bee90bf51656b2d38e95ee9c0a8dd9d2
ごあいさつ http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/7de1dfba556d627571b3a76d739e5d8c
旅行記 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/23d5db550b4853853d7e1a59dbea4b8e
閑話休題 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/c859a3480d132510c809d930cb326dfb
かんわきゅうだい http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/a0b140d3616d89f2b5ea42346a7d80f0

8 コメント

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凡人には難しい (michi)
2014-05-17 19:38:12
感性もくそも学歴もない者には難しすぎます
ならば・・・
コメントしない方が良いのかな

全共闘って6歳上の兄の頃盛んだったような・・・・
さめた目で「青いな~~」と思った事ありますが・・・
今の若者よりはいいのかしら?

>花のようにけなげに美しく老いていく
これは現実ありえない。
「汚く老いさらばえて煙のごとく消え失せるのみ」
私はそう思いますしいつの間にか消えたいと思っています。

貴方様の読まれたうたが一番好きですが
返信する
舞い上がって・・・ (デブと某医)
2014-05-17 23:27:27
michiさん
コメント、ありがとうございます
感性でとらえるべきを理屈っぽく書いて・・・反省

> ならば・・・コメントしない方が良いのかな
コメント、くださいね。michiさんの感想、いつも愉し味!ですし・・・

> 全共闘って6歳上の兄の頃盛んだったような・・・・
> さめた目で「青いな~~」と思った事ありますが・・・
醒めた目でご覧になったこと・・・見識だと思います
私の目に映った人々は、青い!というほど純粋ではありませんでした。
そういう人々ばかりではなかったと識るには30~40年を要しました。

> 今の若者よりはいいのかしら?
30~40年たてばわかるかもしれませんが、もう虹の向こうでしょうから・・・
いつの時代も若者は批判されますけど、いつの時代の若者も棄てたものではありません。

> 花のようにけなげに美しく老いていく これは現実ありえない。
> 「汚く老いさらばえて煙のごとく消え失せるのみ」
> 私はそう思いますしいつの間にか消えたいと思っています。
道浦さんの言葉にはたぶん染織家の志村ふくみさんのイメージがあるのだと思います
90歳、健在でいらっしゃいます。美しい方です。
『最後は無彩色、墨染の美なんです』
『この世にあるのは、色ではなくて、光なのです』
そんな志村さんの言葉と作品とお姿を憧憬のイメージとされているのでしょう。

> 貴方様の読まれたうたが一番好きですが
ありがとうございます。舞い上がってもう一、二首・・・
 夕闇にまぎれ溶けたし我がこころ石にあらざり砂にあらざり
 雲ながる青空さして虹を往く我が青春を苛みしひと
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おはようございます (michi)
2014-05-18 06:52:05
志村ふくみを存じ上げないで生意気な事を言って申し訳ありません。
昨夜のコメント読んで本当に嫌な奴だなと自分でも思います
私のブログでは違う人間像が浮かび上がってると思いますが本当はどちらが自分なのか?
やはりおっしゃる通り表裏ですね。
こちらではどうしても突っかかってしまう自分がいます


反省して以後・・・・
このままで大いにうそぶきたい・・・・そうさせて下さいね


しかしデ某さんのうたが一番私の心に響きます
大好きです。
という事は・・・
心に底の底はデ某さんと同じ感じ方をしてるのでしょうか?
そうであれば嬉しいです
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Unknown (Anne)
2014-05-18 11:05:00
全共闘運動という時代の背景の中で描かれたんですね!
間接的に聞いて知っているだけに過ぎない私には難しい(^_^;)

原発安全神話の崩壊を詠まれたって驚いたのですが
まだご健在なんですね(゜o゜)
戦争から現代までの日本を生きてこられた眼で詠まれてるとは・・・
返信する
波長・・・ (デブと某医)
2014-05-18 11:38:37
michiさん
お早うございます! ほんと!早起きでいらつしゃいます
毎日しっかり!三文の徳を重ねられ、きっと幸せが待っていることでしょう。

> 志村ふくみを存じ上げないで生意気な事を言って申し訳ありません。
> 昨夜のコメント読んで本当に嫌な奴だなと自分でも思います
なにをおっしゃいますやら・・・
michiさんのコメント、鷹の爪のようにピリッと辛味がきいて美味しいです

> 私のブログでは違う人間像が浮かび上がってると思います> こちらではどうしても突っかかってしまう自分がいます
そうですか? ホームでもアウェーでもmichiさんはやっぱりmichiさんです

> 反省して以後・・・このままで大いにうそぶきたい・・・
大いにうそぶいてくださること、愉し味にしています!
私の学生時代の友人も「もっともっと元気にはびころう」とうそぶいています

> デ某さんのうたが一番私の心に響きます 大好きです。
前段の「デ某~響きます」を削ると・・・ひょぉ~

私、歌壇に何度か投稿しましたけどボツ・・・で投降!やめました。
michiさんが選者だったらなぁと思います(笑)
やっぱり 歌(感性)の世界は波長!ですからねぇ・・・。
ありがとうございました

返信する
Unknown (デブと某医)
2014-05-18 11:58:53
Anneさん

おはようございます。
お訪ね&コメント、いつもありがとうございます。

> 全共闘運動という時代の背景の中で描かれたんですね!
> 間接的に聞いて知っているだけに過ぎない私には難しい(^_^;)
早稲田在学中に道浦母都子さんご自身が逮捕、留置されました
当時、お父上の逆鱗に触れたそうですが、
『釈放されて帰りし我の頬を打つ 父よあなたこそ起たねばならぬ』
と、如何にも彼女らしい勇ましい歌を詠まれています。
数年前、満開の桜の季節、亡くなられたお父上を「偲ぶ会」の席で、
しみじみと思い出を語っていらっしゃいました。

> 原発安全神話の崩壊を詠まれたって驚いたのですが、まだご健在なんですね
> 戦争から現代までの日本を生きてこられた眼で詠まれてるとは・・・
団塊世代の真っ只中、まだ60代半ば過ぎで、戦後生まれでいらっしゃいます。
最近は恋愛小説にも「手を染めて」いらっしゃるほどで・・・
ではでは・・・
圭佑くんともどもますますのご活躍をお祈りします。
返信する
学生運動 (花水木)
2014-05-19 23:14:47
全共闘という言葉に即座に反応しました。
私が京都で学生時代を送っていたころ、最も学生運動が激しい時代でした。
毎日のようにデモ隊が町に繰り出し、デモに参加しない学生は学生にあらずという雰囲気でしたね。
女子大生でもしかりでした。
私はノンポリでしたが、同じく京都で学生生活を送っていた主人は・・・・・?
私の従兄弟は東大紛争で逮捕され留置所行きとなりました。
今となってはあれはなんだったのかと思うこともありますが、少なくともみんな真剣でしたね。
私も当時はかなり青かったです(苦笑)

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みんな青くて・・・ (デブと某医)
2014-05-20 01:35:26
花水木さん
こんばんは! 駆け込み?コメント、ありがとうございます
花水木さんの怒涛のブログ更新に圧倒され茫然とタダ読みしています(笑)

> 全共闘という言葉に即座に反応しました。
全学闘とか三派全学連とか反代々木とか・・・様々な呼称がありました
一番似合わないのが「全共闘」かもしれませんね(笑)

> 京都で学生時代を送っていたころ、最も学生運動が激しい時代でした。
> デモに参加しない学生は学生にあらずという雰囲気でしたね。
学生運動に限らず、労働運動も反公害運動も運動という運動が高揚期だと言われました
しかし「デモに参加しない学生は・・・」と喝破されている通り
高揚ではなく先鋭化の一現象、寧ろ運動は最も低迷した時期であったと思います。
勿論、今にして思へば・・・ではあります。

> 私はノンポリでしたが、同じく京都で学生生活を送っていた主人は・・・・・・?
ノンポリ・・・懐かしい響きですねぇ
ノンセクト(ラディカル)と称する人々もいました。
ノンセクトと言うセクトを作るとは皮肉な時代です。
しかし誰がなんと言おうとノンポリこそ多数派でしたね

> 今となってはあれはなんだったのかと思うこともあります> が、少なくともみんな真剣でしたね。
はい、今となっては・・・
真摯な人もいれば、ただ狂暴な人も少なくなかったですね。
「全共闘」とはあらゆる人々が少しづつ一致するところで繋がる筈なのに・・・。
でもまぁすべては今となっては・・・

> 私も当時はかなり青かったです
みんな青くてみんないい・・・だったら素晴らしかったのですが、
みんな青くてちょっといい、みんな青くてちょっとひどい!かな・・・
花水木さんのますますのご活躍とご健筆をお祈りします
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