タクシーで家に着くと隣の家に鍵がかかっていないことが気になった私はTさん宅に上がり込み、鍵を探した。なかなか見つからない。諦めて帰ろうとしたところ玄関の上がり口に鍵が吊るしてあった。鍵をかけ、Tさんのバックにそれをしまい歩いていると、先程のお孫さんがいた。
お孫さんは、Tさんの親戚の人の連絡先が知りたいためにアドレス帳等を探しに来たという。
「そうですか。」
どうしようか。鍵とバックをこの人に渡してもいいのだろうか。
一瞬だが深い時間、考え抜いた。
そうだ、私は他人。預かる理由はない。
お互いの連絡先を教えあってお孫さんと中身を確認しバックを渡して私は家に帰った。
その日の夕方、ご主人の娘さんが訪ねてきた。
今までのいきさつを聴きたいのだろうかと思ったが、どうやら話が違う。
約一週間前にTさんのご主人が危篤状態となり、ご主人の通帳から葬儀用にTさんが150万円を下ろしたのだが、そのお金が見つからないという。因みにご主人はその時点ご存命だった。
さらに、「あんた(私のこと)家に何度も入ったろうが。」と何度も言う。
それで私を疑うのか。
「イヤイヤ、家に入ったのはワタシだけじゃないよ。お孫さんも入ったし、昨日の夜から今日の昼までは施錠していなかった。
警察に届けなさいよ。それで、犯人が私でないとわかったら名誉毀損で訴えてやるからね。」と言う。
娘さんはそのまま帰っていった。そして、翌日、娘さんはTさんの家の中を何時間もかけて、探したらしい。
Tさんは女1人で生きてきた人。そんな人が150万円を自宅にポイと転がしているはずはないだろう。
Tさんの病気と娘さんの言葉がショックで、気分が落ち込み、モヤモヤした日が続いた。
後日、Tさんの親戚の方が家に挨拶に来られた。Tさんは未だ集中治療室に居ることと、通帳と鍵と5万円は確かに受け取ったことを話してくれた。お金のことを聞くと、鍵のかかる引き出しに50万円あったらしい。が、後のお金は今はわからないという。
あくまでも、私の推理だが、下記の場合が考えられる。
1. 残りの100万円は元々家にはな
かった。
引出しに50万円だけしまって、
100万円を無造作に置いて
おくというのは考えにくい。
2. 孫さんか、娘さんか、引出しに
気付き100万円もって帰った。 そして、お金がないと言い
150万円請求する。100万円
多く手に入る。
3.無施錠時に誰かが侵入し奪った。
後味の悪い話だが、私はなんら恥じることはしていないので、後の顛末は知る必要はないと自分に言い聞かせ精神の安定を保つことに専心するしかないのである。
あれから時は過ぎて、Tさんは今、施設にいる。
ゆっくり話はできるが、認知症が出ている。
年に2回ほど面会に行ってはいるが義理の娘さん、義理のお孫さんの話は一切したことはない。勿論、お金のことも。
反省すること
例え、善意からでも、1人で他人の家には絶対に入ってはいけない。
異変を感じたら、警察に電話する事。
警察がどのように対応してくれるかわからないが、、、。
Tさんに聞きたいこと
あの時、救急車を呼んだのは良かったことなのだろうか。かえって苦しめているのではないだろうか、、、。
悲しいこと
乳製品販売店からTさんは週に一度、乳製品を宅配してもらっていた。玄関先の受け取り箱に製品を置くというシステムだ。自分で買い物をされていたので、一人暮らしの心理から、乳製品が貯まっていたら、異常があると疑って欲しいという気持ちから宅配を頼んでいたのではないだろうかと私は思う。
けれど、宅配者はいくら製品が貯まって腐っていても、新しい製品を平気で次々と置いていっていたらしい。
何だか、切ない世の中になったもんだ。