訴えかけるようないたいけな瞳。困ったよう、誰か助けてよう。
無言で座り込んだ君に容赦ない声が飛ぶ。
「あんた、またそんなことを」
癇の強そうな女性。
「ほら、しっかりしなさいよ」
ああ、これは怒声。
君はそっとその女性から視線を外して、私を見た。
「ねえ、おばさん。オイラどうしたらいいんだい。おばさんから言ってやっておくれよ。だって、オイラ、靴履いてないんだよ。ほら足だってこんなに小さいんだ。それなのに、、、。」
うん、うん、そうだよね。君専用の靴があればいいんだけどね。土の山ならまだしもここは尖んがった岩がごろごろしている山だものね。
その女性はぐいぐいリードを引っ張り出した。
君はクーン、クーンと声をあげはじめた。
犬を連れての登山は人もワンチャンも楽しいものであり、尚且つワンチャンも他人に吠えず躾が行き届いているなら批判することはないと思っている。
犬の身体能力は素晴らしいものであり、登山ぐらいどういという事はないと思っていたが、しかし犬だって苦手な山道はあるのかも知れない。
小さな肉球に小石が入り込み、傷を作る事だってある。小さな足がスッポリと岩石に挟まる可能性もある。
対策はしていてもノミやマダニの標的にもなるだろうしね。
いたたまれず、私はその場を離れた。何も言えなかった。
その女性が何となく怖かった。
ごめんね。
帰りの車の中で思った。
次このような場面に遭遇したら
「ワンチャンにも登山靴があればいいのにね」と言おう。
実際にはそんなものはないかもしれないけれど、飼い主がはっと何かを気づいてくれたらと期待して。
さりげなく言えるよう心の準備をしておこう。
今回はごめんね。
こんな岩だらけの山なんですよ。