夜空いっぱいに様々な色や
形を作り、多くの人々の
歓声を受けて消えてゆく打ち上げ花火。
片や線香花火のように
僅かな空間でチリチリと火を
燈し僅かな人の目の前で消えてゆく。
何だか人生に似ている。
私の人生は間違いなく線香花火だね。
華やかな打ち上げ花火でも
地味な線香花火でも儚く消えてゆく
事に変わりない。
けれど、どんなに儚く消えても
誰かの心に僅かでも残っていると
信じたいけれど、どうなのかな。
もう、30年以上前の事だけど
私は大学病院に術後の診察に
通っていた。
いつも受診者がいっぱいで
座ることも出来ない。
ふと、隣の皮膚科の待合室には
空いた椅子があった。
そこに座っていると、
隣の30才前後の
男性に話しかけられた。
病院での会話はお互いの
病気や怪我に関する事が多い。
その男性はひどい火傷のため
皮膚移植をしたらしい。
術後の定期受診のため病院を
訪れたらしい。
男性は右手を見せた。
正確に覚えてはいないが、
指先が数本溶けたように
短くなっていた。
慌てて顔をよく見ると、右側
の耳元、頬、腕に火傷のあとらしき
ものが見える。頭はスキンヘッド。
「俺、花火師なんですよ。花火って
火薬を丸めて作るんですよ。うっかり
指先で触ったものが発火してこのざま。」
あの時、どんな言葉をかけたのか
覚えていない。
「しかし、こんな火傷跡だけど、
酒を飲むとこれが惚れ惚れするほど
綺麗なんですよ。深紅に染まってね。」
私は今思えばナント無神経な残酷な
質問をしたのだろうと思うのだが
それだけの怪我をしたのだから
花火の仕事はやめられるのでしょう
と聞いてしまった。
その男性はちょっと複雑な表情を
浮かべる。
「今はまだ、恐怖感があるし、
仕事は繊細な指の動きが必要だから
これからの回復と親方の判断次第になる。
けれど、打ち上げるときの音や匂いや
大勢の人々の歓声等一度でも
体験したらそうそう、離れられる
ものではないだろう。」
と寂しげな横顔が言う。
あれから、打ち上げ花火を
見る度にあの男性が
誇らしげに着火する姿が
頭に浮かんでは消えてゆくのである。