あれ以来、Tの横暴さは影をひそめ
職場の雰囲気も変わった。
今度はNたち数人のグループが
現場を仕切るようになった。
バブル初期の当時、飲み屋街も繁盛しており
N氏も御多分に漏れず大名行列をした。
既に某組からは破門された身であったが
街では誰も文句を言わせなかった。
しかし女性の出入りも多く、何かとゴタゴタしていた。
これも直前に聞いた話だが・・
ある日、義侠心に駆られた一人の男(M)が
N氏を狙って飲み屋に顔を出した。
・・後に聞くと、誤解(女性関係?)だったようだが、
丸腰でくつろいでいたN氏に近づくと、唐突に
「Nさん、死んでもらいます!」と叫んだ。
(懐には凶器があった)
その言葉を言い終わるや否やM氏の額が割れた。
会った途端に尋常ではない殺気を感じたN氏が、
石火の如く下駄を手にして迎撃したのである。
・・・それほどの猛者であったが
3ヵ月の入院で亡くなって既に十年が経つ。
それにしても、
わたしには良い思い出しかないのが不思議である。
仕事でも頻繁に会ったり、良く家に遊びに行ったりしたが
一度も嫌なことには遭遇していない。
N氏との関わりにおいては、なぜか可笑しいようなことしか
思い当たらないのである。
(続く)