(続き)
当初、車の運転手として
雇われた男は
プロレスラー並みの体と
威勢の良い声で
周りを威圧していた。
大きく張った胸元を見せびらかすように
シャツの前を常に肌けている。
その横暴さに、建設現場の影で
不平をこぼす者もいたが
喧嘩を仕掛ける者はいなかった。
「昨夜、あの男を東西に殴り倒した」
などと時折豪語していた。
途中、耳のつぶれた元ボクサーが雇われた。
「俺に喧嘩を仕掛ける者は、料理するだけ」
と話していたが、遂に衝突はなかった。
何となく双方が遠慮していた風であった。
しかしその男は半年ぐらいで辞め、
そうした状況が3年ぐらいは続いたであろうか・・
あの日、彼(T氏)の職場での独壇場も終わりを告げた。
父親の会社の下請けをしていた(N氏)が
いきなりT氏に襲いかかったのである。
近づいたN氏に気づいたT氏は、はっと振り向いたが既に
遅く、股間に一撃を受けた。
戦闘意欲が消失したのか、N氏に握手を求めるT氏。
後にN氏から聞いた話が・・
原因はN氏の仕事にT氏がケチを付けたこと。
後ろにも目が付いているぐらいでないと、
喧嘩自慢やら大モノやらを言っては駄目であること。
あの一撃で倒れなかったのはT氏が始めてだったこと。
既に戦闘不能だったとは云え・・(病院で手術)
握手は手が痺れるぐらい痛かった、などである。
因みにこのN氏は後に山口組系となる某組の
特攻隊としての戦歴豊かで、手の早さでは
地域でも右に出る者は無く、
網走刑務所で大暴れした伝説を残している。
(続く)