天空海闊

春の日に

春の日に

しばらく男の子と遊んでいた犬のコロはするりと身をひるがえ

すと家の門を抜け、一目散に山の方に走って行きます。


コロが家に来てから、丁度一年になりました。

凍てつくような寒い日に母犬が死んだ時、近くの廃家で

何日もじっとしていたのです。春になり、雪が小雨になってき

ました。それでも子犬はじっとしていました。

でもやがて暖かい日が多くなったある日、通りがかった男の子

に思い切りしっぽをふりながら近づきました。

お腹がぺこぺこで死にそうだったのです。

それが今ではこんなにたくましくなりました。


山のふもとまで来ると、何ともなつかしい香りのする

一軒の古い生垣のある家が在りました。

その甘い香りは、その中庭にある桃の花だったのです。

コロは一生懸命、生垣の下を掘りました。

それからやっと鼻先だけ庭の方に出すと、

「母ちゃん」と心の中で呼んでみました。


2005年3月 作

追記:この作は東 君平氏の作品のイメージ
    を基にしたものです。
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