天空海闊

詩2編


○ 金子みすゞ



「波」

   
波は子供、
手つないで、笑って、
そろって来るよ。

波は消しゴム、
砂上の文字を、
みんな消してゆくよ。

波は兵士、
沖から寄せて、一ぺんに、
どどんと鉄砲うつよ。

波は忘れんぼ、
きれいなきれいな貝がらを、
砂の上においてくよ。



「木」


お花が散って
実が熟(う)れて、

その実が落ちて
葉が落ちて、

それから芽が出て
花が咲く。

そうして何べん
まわったら、
この木は御用(ごよう)が
すむかしら。





















……..


「ひとりぼっちの子」
          ミストラル

泣き声がする

坂道に立った私の足は
農家の戸口に向かっていた
かわいい目の男の子がひとり
寝床から私を見た
計り知れない愛情が美酒のように私を酔わせる

畑にかがむ母親の帰りはおそい
男の子は目を覚まし乳房を求めて泣き出した
抱き上げた私の口に子守唄の声がふるえた
月が窓から覗きこみいつか子供は眠っている
満ち足りた私の胸をもう一つの月影の歌が浸す

おどおどと入ってきた母親は
私の顔に真実の幸福を見たのであろう
ねついたわが子を私の両手に任せてしまった







「鏡の中の姿」
       アベール

1つの姿がわたしを眺めている
わたしが眺めそしてわたしを眺めている
この女は誰だろう
わたしが眺めそしてわたしを眺めている
この女は誰だろう
貴重なもののようにわたしを恍惚とさせるその姿は誰だろう
わたしの心の中で考えているこの部分は
その姿であるこのもう1人を眺めている
眺めながら私は悲しくなる
わたしが眺めている姿の顔の上にそれが現れる
わたしの中の不滅の部分はこの姿でしかないもう1人の私を眺めている
そして2人ともまるで1人のように





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