大きくうねった国道の内側に
海沿いの山を造成した
一帯がある
コンクリートで固められ
階層となったところに
当時としては斬新な建物や
マンションが並んでいる
建物は上部が削り取られ
古いモニュメントのように
雨にボーっと漂っている
その中の
ひとり暮らしの上品な老女は
来客があると
その「恵まれた人生」
名士だった夫との
昔話に花を咲かせ
高級老人ホームに転居するか
何年も迷っていると云う
「被災地の人からすれば贅沢な悩みでしょうね」
崖と海に挟まれ
人を寄せ付けない
無機質な空間が
孤独を増幅する
だが・・
それでもこの場所から
離れようとはしない
今日も
時という魔法が
潮さいに乗せ
遥かなふるさとの香りを
運んでいる