その日は母親の帰宅が遅くなっていた。
父親と親しかった数人と食事に出たらしい。
やがてタクシーが止まり、バタバタと帰ってきた。
『おおごとじゃったいね~』
なんでも、皆で食べて飲んで良い気分になり、
タクシーを呼んで少し走ったところで、
なんと・・対抗車が中央をはみ出し迫って来たらしい。
急ハンドルと大きなブレーキ音。
タクシーは横転。何が起きたのか?
母親はもうろうとした頭で周りを見ると、人が次々と集まって来る。
やっと、車から這い出ると互いを確認。
どうやら無事らしいが、一人の姿が見えない・・
署長さんである。
「あれ?車から一番先に出たはずなのに・・」
そのうち、パトカーも来て周りは人垣になっている。
やがて現場検証が終わった。
『署長さん、どこ行ったん?』
皆で心配し、母親が何気なく人垣を見ると
人の顔と顔の隙間から
きょとんとこちらを見ている署長さん・・・
完全に野次馬の一人であったと云う。