若いときから
飲む打つ買うがそろった
土木建設関係の
営業一筋の初老の男
今日も漂々と契約をとる
独特の
敬ったような言い回しが
特徴である
「・・そうでございますねぇ」
でひとつ契約
それだけが秘訣なのか
疑問を持ちながら同行してみた
良く聞いていると
延々とした
「・・そうでございますか」
「・・そうでございますねぇ」
「・・本当にすばらしいお住まいでございますねぇ」
のすぐ後に
「・・裏は草だらけじゃ・・」
とか
「・・自転車ほったらかしじゃ・・」
などと、見たままを
小さな声でつぶやく
「・・え?」と
相手は聞き返している
それまでの
バカ丁寧な礼賛と余りに違いすぎて
意味がわからないらしい
そこで丁寧なクロージングをかけると
なぜか契約になる
よく聞くと
そうして無意識にストレスを解消している
ようである
とにかく続けて行くこと
緊張しないことが
営業の秘訣らしいが
わたしには到底むりな手法だ
金のことになると
10円の損でも顔色が変わる
男であるが
ある90に近い独居の老婆を
無償で買い物につれていっている
しかも営業の話を一切ださない
当然
なんの見返りもない
既に数年続けていると言う
隠れた魂胆は臭わず
理由も言わないが
その老婆への
まなざしを思い出すと
「この世は欲と道連れ」
を絵にしたような男だが
なぜか憎めない