H29.07.10.午前中:
斉藤恵美先生 が 行基『日本霊異記』を基にして講義が進められました。
まず、文学作品に描かれる人物についてどう受け止めるべきか ということについてかなり突っ込んだ言い方をされました。
完全に客観的な事実であるノンフィクションは成立しない、史実を基礎としていても史実として受け止めることは難しい。
実在の人物の心 + 筆者の心 + 読者の心
作品は、実在の人物の行動に対して筆者が共感できるかできないか によって記述される二重の構成、さらに、書物の読者が共感できるかできないかという三重の構成という重層的な構成によって成立している。
また、読み手の自身がどう感じるかということは現代社会に生きる自分の問題で別の意味で重要である、と説明されました。
三巻からなる景戒により著された「日本霊異記」の各巻の序文の解説をしたのちに、
行基についての①歴史的な理解、②「日本霊異記」収録の行基説話、③「日本霊異記」での行基像、④以後の展開 といった順序での講義が続きました。
②の説話については七話収録されている内容について説明されました。
「伝」としてではなく、「話」の中で登場する、説法説話ではなく歴史書を書くという作者の意思の現れであるとのことでした。
②の内容は以下の通り。
1、上巻 第五「三宝を信敬したてまつりて現報を得し縁」
2、中巻 第二「烏の邪淫を見て、世を厭ひ、善を修する縁」
3、中巻 第七「智者の変化の聖人を誹り妬みて、現に閻羅の闕に至り、地獄の苦を受けし縁」
4、中巻 第八「蟹蝦の命を贖ひて放生し、現報を得る縁」
5、中巻第十二「蟹蝦の命を贖ひて放生し、現報を蟹に助けらるる縁」(4、とほぼ同じ内容)
6、中巻第二十九「行基大徳、天眼を放ち、女人の頭に猪の油を塗れるを視て、呵嘖する縁」
7、中巻第三十「行基大徳、子を携える女人の過去の怨を視て、淵に投げしめ、異しき表を示す縁」
③の「日本霊異記」での行基像は、「仏の教えを広め、迷える人たちを教え導いき、人柄は聡明で、生まれながらにして物事をよく知っていた」と極めて高評価である。著者景戒自身が尊敬していたという表れでもあろう。景戒は行基を「身分の上下なく信奉され、仏の理念を体現する理想の人物」としている。
④平安から近代まで様々なジャンルで理想の像とし行基が取り上げられてきた、時代の要求を吸収して行基像はどんどん肥大化した との解説でした。