むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所 「長崎原爆」

2019-05-11 12:52:16 | 小説


 昭和一三年未明。鍋島信夫四四歳は鹿児島で大工をやっていた。鍋島は独身だ。鍋島は仕ごと場の近くにある飲み屋で、好きな女将から「本音を言うと大工は不吉だわ」と言われたことをきっかけに、大陸突撃歩兵隊に志願した。鍋島は西安の前線部隊に送られる。鍋島は上官から「熊を撃つ銃だ」と言って渡された小銃で村の男を五人撃った。鍋島が所属する部隊は西安に拠点をつくって昭和二〇年四月まで滞在する。
 昭和二〇年四月未明。鍋島の部隊に「撤退命令が出てるらしい」という噂が広まっていた。鍋島が水源地の見まわりをしていると、日本軍の治安部隊に、殺人の容疑で逮捕される。とり調べ室で鍋島はゲリラ兵士を、五人殺害したことを認めた。机の上に風呂敷包みがある。とり調べ官が「保釈金を払えば、日本で裁判を受けられるのや。これはおまえの保釈金」と言って風呂敷を広げて、札束を手にした。鍋島は長崎にある在郷軍人会の宿舎で、裁判を待つことになる。宿舎は鍋島と同じように裁判を待っている者ばかりだ。「日本が米国に負けたら、死刑になるだろうな」と言う意見が多い。鍋島は日本に戻ってきてから毎日油絵を描いていた。ドアの前に、立っているヨーロッパ人女の絵だ。大きめのキャンバスに、少しずつ描いている。鍋島は絵を描いていると本が読みたくなった。重厚な思考描写をべたべたと書いている本だ。しかし声をたよりにして選んで買った本は風景描写しか書いてなかった。本をちぎって絵に貼りつける。
 五月の未明に、鍋島のもとに、「死刑判決」の通知が送られてくる。鍋島が在郷軍人会の事務所で確認すると、「それは日本が米国に負けた場合です」と言う。
 七月になると、日本の敗戦が濃厚になってくる。在郷軍人会で統合本部長をやっている笠松が、銀めっきした剣を持って鍋島の部屋にきた。鍋島が「死刑囚にこんな物を渡していいの」と、聞いたら「それで中国の古代兵士をやっつけて」と言う。鍋島は港のカウンターバーへよく行った。鍋島がマスターに古代兵士のことを聞くと、マスターは「日本人の死亡原因で一番は、大陸の古代兵士にとりつかれてだよ」と言う。他の客にイギリス人神父がいて、鍋島に「死刑が決まっても天皇の、恩赦を受けることができます」と言った。米国とは関係ないらしい。翌日に笠松が、背負うことができる発電機を持ってきた。鍋島が「なにに使うの」と、聞いたら「電気むちが現地にあるからこれで起動させて」と言う。笠松がかばんから帳面をとり出して「これは暗号表ア」と言いいながら鍋島に渡す。帳面はことばを別なことばに、変換する暗号一覧表になっていた。笠松が鍋島に「その暗号表アを使って、これまでの経緯や心情を日記に書いて。未来の子供たちに、わからないようにするためだから。なにも知らなくて知能が低い子供たちの、方がかわいいからさ」と言う。鍋島は「それはいい考えだな」と言って同意する。
 八月一日に在郷軍人会の事務所前へ、高射砲に似たなにかが置かれて、笠松が紙を配っていた。紙には老人の似顔絵が描いてある。鍋島が聞くと、「それが古代中国の長老だから。長老以外を全員片づけて」と言う。高射砲のまわりに、直径一㎝ぐらいの鉄球が、ぎっしり詰まった箱が並んでいる。鍋島が高射砲のことを聞くと、笠松は「弾は一〇万発あるから。これで長老の神殿を破壊できるっ」と言う。
 八月九日未明。長崎に原子爆弾が投下(設置型原爆であったという説も有力)される。鍋島は消失した。鍋島は西安の部隊宿舎で目が覚める。ベットの横に発電機があった。隊長が外で、叫んでいる。鍋島は発電機を始動させて背負って外に出た。隊長が「これよりゲリラ兵士全滅作戦を行う」と叫ぶ。宿舎の前に光る剣と電気むちが並んでいる。鍋島は電気むちのプラグを発電機に接続して、光る剣を手にとって、宿舎の外に出た。近くにある納屋の陰から、古代兵士の行列が現れてこっちに向かってくる。鍋島が電気むちを振ると、ばたばたと倒れた。別な隊員が古代兵士の首をはねようとしたら電話のベルが鳴っている。いつのまにか発電機に電話機がついていた。鍋島が電話に出たら「笠松だけど。作戦変更。古代兵士で関東大震災の幽霊を消失させることができるから、そいつらを捕獲して。そっちへ空間転送ロープを送るから」と言って切れる。次の瞬間に空から「ドサドサッ」とロープの束が落ちてきた。隊長が「ゲリラ兵士を縛り上げろ」と叫ぶ。古代兵士を縛るとどこかへあとかたもなく消える。最後のひとりが走って逃げ出した。全員で追いかける。草原へ出ると遠くに長老の神殿が見えた。近くまで行くと他の部隊も集結している。在郷軍人会の事務所前にあった高射砲があった。隊長が「長老の神殿を破壊するぞ」と叫ぶ。高射砲から火の玉が発射された。神殿の壁に穴があく。火の玉が連続で発射されて、神殿の壁がくずれ落ちた。隊長が「突撃だあ」と叫ぶ。神殿のなかから古代兵士が出てきた。鍋島は先頭に立って電気むちを振りまわす。神殿の階段を上がっていくと、鍋島はいつのまにか、テント布のガウンを頭からかぶっていた。最上階に出ると、長老が椅子に座っていて、そばに黒装束で金属製の、なにかの武器を持った男が立っている。鍋島が近づくと、黒装束の男が「わたしはにほんこらいのしにがみですから」と言う。長老を見ると、「鍋島君ごくろうだったね」と言った。笠松が突然出てきて「これからは位相空間IO九で古代兵士を捕獲して」と言う。

     おわり

   



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