むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所 「月星人」抜粋⑧

2019-05-12 10:29:20 | 小説

 おれは金粉美容液を売っている。大型量販店にある階段型昇降機の前で移動式配膳台を置いて、金粉美容液のびんを並べて売っていた。金粉美容液はおれが開発して町工場に委託して生産している。豚の内臓から抽出した有効成ぶんに、金粉が沈まないようにまぜる技術は特許を出願中だ。おれは「金粉美容液一本千円」と叫ぶ。若い女が「これ本当の金ですか」とおれに聞く。おれは「もちろん」と答えながら見本を女の腕にぬりつけた。女が「ひとつください」と言って千円札を出す。土曜日で人手が多いこともあってさっきのやりとりを一分ごとにやって、用意していた三五〇本が午後三時前に全部売れた。おれはひと仕ごと終わらせて読み書きがままならぬやつの話し相手になる新しい動物を考える。手長山羊七番目だ。基本的には普通の山羊だが、前足が一mぐらいの長さで、やや前かがみでとことこ歩く。言うまでもなく読み書きが、ままならぬやつが本を、読もうとしても手長山羊が本の紙を食べるから、読み書きがままならぬままだ。おれの国では、手長山羊の回収令を発動して、庭先で飼われている手長山羊をして、肉を醬油味の燻製にしたが、読み書きがままならぬやつは密かに飼っていた。困ったことに手長山羊は本や新聞を読もうと考えただけで、その考えを食べてしまう習性がある。もちろん国語辞典も食べるからその存在すら記憶から消えていた。手長山羊が前足を、くの字にした姿を見ると、九九を思い出すが、手長山羊が七や八の段を食べる。手長山羊は幽霊を媒介にして存在していた。手長山羊の好物はぞろ目紙幣だ。合成樹脂の入れ物に入ったぞろ目紙幣を、小型の吹奏楽器みたいにしてしゃぶる。当然のことだが入れ物から出すと食べてしまう。おれは手長山羊の特技を調べた。手長山羊は読み書きがままならぬやつの代わりに読み書きを、する人間をつくっている。それは医者や区会議員などだが手長山羊にあやつられているようだ。おれの歴史書で、手長山羊の歴史を調べると、最初に出現した時期は昭和二〇年の東京大空襲直後で「幽霊が、前足が長い山羊の姿になって、友人の前に出現」とある。戦後にGHQが教書のような占領びらを、つくろうとしたときにその考えを手長山羊が食べた記録もあった。その後も国会で、解散の議決が行われる際に、手長山羊が演壇で実体化する。手長山羊は読み書きがままならぬやつの、記憶にある学校の教壇で実体化していた。

   おわり

 



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