むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所 「月星人」抜粋

2019-03-28 20:37:13 | 小説

 おれはカナリアの特徴を考えていた。文鳥よりも細身で目もとが、どこか老けた感じがする。おれは国語辞典をめくりながら読み書きがままならぬやつの、心のカナリアを考えた。国語事典を開くと読み書きが、ままならぬやつが「おれの」や「おれが」と言いながら一体化してくる。国語事典にはカナリヤとも書いてあるな。外来語は読み書きがままならぬやつの得意ぶん野だ。おれは外来語じゃないカナリアを考えた。巨大かなりあ四番目だ。体長が一m六〇㎝ぐらいで他は普通のカナリアと同じ。人間のことばをしゃべるときは、くちばしを開けないで、目を大きく見開く。毛づくろいをしたり、拡大した大きさのうんこをしたりするが鳴くことは、ない。えさは魚だ。時速九〇〇㎞の速さで、海まで行って魚を食べてからもとの場所に戻ってくる。巨大かなりあは高い建物の屋上から下界を見下ろしていた。巨大かなりあは放送局で働いているふりをすることがじょうずだ。読み書きがままならぬやつに合わせて、合成語をふんだんに使って話すことが得意らしい。しかし巨大かなりあはあまり役に立ってない感じがする。でも巨大かなりあの寿命は人間と同じくらいだ。読み書きがままならぬやつを、絶滅まで案内することができる。おれは国立公園に黄色やだいだい色の、巨大かなりあの繁殖地をつくった。繁殖地で生まれた巨大かなりあは読み書きが、ままならぬやつがいる町や大都会へ向かう。おれはここまで書いて鳥かごに飼われている普通の、カナリアのことを考えて疲れてきた。飼い主と目が合いそうになる。おれは適当なつくり話でごまかそうと思ったが、本当の話がわかった。人間には死の行列がある。それは三千人ぐらいの行列で、先頭に立った人間はしばらくしてから死ぬ。死の行列には若くて健康な人間も並んでいる。先頭に立った人間の本体が死ぬと行列から姿を消す。おれは死の、行列の先頭に立っていた。おれはそこがどこで、なんの行列かわからないが先頭にいる。さりげなく横を見ると昔飼っていたいんこが巨大になって体当たりしてきた。おれは行列からはみ出て倒れる。おれは死の行列を横から見た。巨大かなりあも行列を見ている。おれは行列の、進行方向の逆へ歩いた。巨大かなりあがときどき並んでいる人間に体当たりして列からどかしている。おれは行列の最後尾を見た。巨大かなりあが空から人間を運んでいる。おれは赤土の大地をできるだけ遠く走った。

  おわり



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