昭和四年八月未明。北京でパン屋の店主が、店先で焼き殺される事件が起きた。目撃していた店員は「パンがいつもより多く売れてて、社長が変な男に連れ出されました」と言う。死体は揮発油のような物をかけられて、火をつけられているみたいだ。公安(中国の警察)の脳裏にパンをあれこれと描写したノートが浮かぶ。最後は「ご主人」に食べられて終わっている。思考描写におかしな物体がまざっていて、どうりで暑いのにパンが売れているわけだ。公安が奥さんに事情を聞くと、「犯人はうちの、農場の用心棒よ」と言う。死んだ店主は農場も経営していたらしい。テーブルの上に、「世界革命集団第三支店」の名刺がある。公安が奥さんに聞くと、「こいつから変な機械を買ったのよ」と言う。公安は世界革命集団第三支店へ行く。倉庫のなかに、張りぼてな金属製の造形物が並んでいる。奥で高さ五〇㎝ほどの金属製容器に電気コードを、とりつけている角刈りの男がいた。公安が「それは、なんだ」と聞いたら、「食用油を気化させて、朝食用のパンを焼く装置だよ」と言いながら倉庫の空間に向けて炎が一mほど噴射された。公安が「ガソリンだとどうなる」と聞いたら、「三mぐらい炎が伸びるよ」と言う。公安は、忘却を促進する見えない力は、額面が小さい金貨を密かに地金屋へ持ち込んで、とりひきすることを考える先物思考の思いだと感じた。パンのノートは、誰のだろう。買い手は死んだ店主が雇っていた用心棒だ。公安はその農場へ行く。公安が納屋に入ると、入り口にパン焼き器を背負った男が現れて「なにか用かあ」と叫ぶ。公安が「おまえが殺したのか」と聞いたら、男は公安に向けて炎を噴射した。ガソリンじゃなかったが公安は近くのとうもろこし畑へ逃げる。パン焼き器を背負った男が追いかけてきた。公安が畑のなかで立ちどまって「どうして殺したんだ」と聞いたら、「おれのやり方に口をはさんだから殺したよ」と言う。男がとうもろこしをパン焼き器で燃やし始めた。横に五mほど炎のラインをつくって「この線を越えるとあんたも死ぬぜ」と言う。男が炎のラインを伸ばして、公安のまわりに半円をつくった。公安が炎を背にすると、男は炎を上に向けて、とうもろこしをなぎ倒しながら公安に近づいてくる。男が炎を前へ向けた瞬間に、公安が土のかたまりを投げつけると、ホースの先端に命中して炎が弱くなった。公安が近づいてホースを蹴ると、炎が一回転して男の足もとに勢いよく噴射している。公安は男を逮捕した。
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