ー ミミズ ー
菜園で鍬を使っていると、時々ミミズに出くわす。
しかし、昔はもっとたくさんいた。
化学肥料や農薬が出回ったおかげで収穫量が増えて農家は以前より儲かるようになったし、田や畑の仕事は楽になった。しかし、大きな代償を払う破目になった。
ミミズがいなくなった。そして土が死んだ。
「硫安をかければよ、ミミズは即死すっから。ミミズがいねえとよ、土が堅くなって、どうにもなんねえす。土が死ぬことは、早く言えばミミズが死んだっちことだなあ・・・」。山形県米沢で有機農業を営む農家の青年の言である(「複合汚染」有吉佐和子 新潮文庫191ページ)。
ミミズは呑み込んだ土や半分腐った草の葉を、体内の分泌液で豊かな黒い土に変えて出してくれる。そのフンは毎年5分の一インチの表土をつくる(同192ページ )。
ミミズが死んだからには , 土の中で生態系をつくっていた無数のバクテリアやカビも同じ憂き目を見たに違いない。
窒素、リン酸、カリは肥料の三要素。それぞれ葉肥え、実肥え、根肥えと言われている。それなら、ホームセンターで窒素〇%、リン酸〇%、カリ〇%配合と書いた化学肥料を一袋買ってきて、袋に穴を開け、その中にダイコンの種を2~3粒落とせば、芽が出るのだろうか。
否、ミミズをはじめ、もっとたくさんの目に見えない微生物たちが関わってこそ、はじめてちゃんとしたダイコンやカボチャが出来るような気がする。
人間が1万年以上の時間をかけて作ってきた土であり野菜である。たかだかここ100年くらいの間に研究室で考え出された石油合成品にこれを超えるものがあるとはとても思えない。
畑には人間が肥料を入れるなど自然とは違った独自の生態系があるという(「農薬と農産物」坂井道彦 小池康雄 幸書房)。しかし、ミミズがいなくなって、これに代わるどんな生態系ができたのだろう。
昔、田舎の中学校ではトイレからくみ取った肥やしを使った。農園はトイレのそばのちょっとした坂を上った丘の上にあった。生徒は肥桶を天秤棒でかついで坂をのぼり、柄杓でダイコン畑に撒いたものだ。桶の肥やしが跳ねるのと臭いには閉口したが、ミミズはいっぱいいた。
( 次回は ー 蝶は可愛い? ー )