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田舎ぐらし(147)

 ー 押 し 切 り  ー
  
 

 わが家に押し切りがやって来た。
刃が上向きについている。昔、田舎では食み切り(はみきり)と言ったが、ここらでは押し切りというらしい。小学校4・5年生の頃、牛を飼っていた同級生の家で見たことがある。これでエサにするレンゲソウを切る。

 その牛にはこれといって恩も義理もなかったけれど、よく悪童連とリヤカーを走らせて山の麓までエサのレンゲを刈りに行った。たんぼに一面に茂ったレンゲを鎌で横に払うと円弧を描いて一斉に倒れた。それが面白かった。

 今回押し切りを買ったのは腐葉土を作るためである。サツマイモのつるやトマト、ナスの茎、なんでも短く切って畑に掘った穴に放り込む。短くすると多分腐葉土になるのが早い。台所で出たミカンの皮、魚の頭や骨、米のとぎ汁も穴の中。うちでは生ごみは出ない。

たまに水をやり、糠など入れてかき回す。1年もしないうちに普通の土となんら変わらないさらさらの腐葉土ができる。自家製の肥料である。

 なぜこんな手間をかけるかと言えば、そもそも化学肥料は使いたくないし、腐葉土は買うと高い。15キロ、1、000円もする。

 加えて、腐葉土が手に入らない時が来るかもしれないと思う。たとえば台湾有事。そうなるとタンカーは来ない。軽油がなくなる。トラックが動けない。ホームセンターから腐葉土が消える。そもそもガソリンもなくなるから腐葉土を買いにいけない。簡単なシナリオである。

 戦後多くの農家では長いこと肥料として下肥を使った。中学の時、学校のトイレのそれを肥え桶に汲み取り、天秤でかついで農園に運んだ記憶がある。坂道を上がる時、はねるのにはいささか閉口した。
 肥え桶かつぎなら昔取った杵柄、やれそうな気がするが、今はどこの家を訪ねても下肥などない。押し切りに存分に働いて貰うしかない。

 

 



 

 

 

 
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